地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。 作:ウェットルver.2
トゲに貫かれた《EMスカイ・マジシャン》。
スカイ・マジシャンが身じろぎをするも、これまでの針と違って建物の壁へと
……スカイ・マジシャンのアップリケなら、ママにつけられても嬉しいけれど。
「これで《ハリマンボウ》の効果が成立!
《EMスカイ・マジシャン》の攻撃力を2500から2000へとダウンさせる!」
それは。
誰かが誰かを想い、
誰かが誰かを想って、
「バトルだ、まずは残った《ハリマンボウ》で《EMセカンドンキー》を攻撃!」
榊遊勝 LP2900
「たったの500が、こうも厄介だとはな……!」
「ぶちかませ、《シャークラーケン》! 一生介錯!」
獲物に食いつかんとする《シャークラーケン》。
あんぐりと口を開けたまま……開けたまま……(あれ?)と周囲を見渡している。
何事かと思って様子を改めて見てみる。
「……スカイ・マジシャンが消えた!?」
フィールドにいるはずのスカイ・マジシャンがいない!?
スカイ・マジシャンがいたはずの場所に、私には見たことがない子供の道化師のモンスターが立っている。
「この瞬間、手札の《EMスカイ・ピューピル》の効果を発動した!
自分フィールドの《EMスカイ・マジシャン》を手札に戻し、このカードを特殊召喚できる。
これによりフィールドを離れるスカイ・マジシャンの効果が発動! 君の《シャークラーケン》を破壊させてもらう!」
「そう来たか!」
砕け散る《シャークラーケン》。
はっ、と何かに気づいて手を伸ばす《EMスカイ・ピューピル》。
呆然とした顔で怪魚の散り様を見届けたスカイ・ピューピルは、目を伏せて視線を逸らした。
「なら、カードをセット。
俺はこれでターンを終了する」
「私のターン、ドロー!
手札から、《EMディスカバー・ヒッポ》を召喚!」
呼び出された座長のカバ。
その背に乗り込んだスカイ・ピューピルは、じっと私を見つめている。
「このカードが召喚に成功したターン、私は一度だけ手札から、レベル7以上のモンスターをアドバンス召喚できる。
さて、問題だ。
私の《EMスカイ・マジシャン》のレベルは?」
「……7か!」
「そうだとも、よって!
フィールドの《EMディスカバー・ヒッポ》と、《EMスカイ・ピューピル》をリリース!」
なにかを言いかけるように口を動かすも、ソリッドビジョンの消失に間に合わず、声も出せずに消えるスカイ・ピューピル。
「再び出でよ、我がエンタメの相棒、
《EMスカイ・マジシャン》!」
現れ出たパパのエース。
いつもなら逆転劇に心を熱くされるのに、私は、スカイ・ピューピルの言わんとした言葉がなんなのか、なんとなくわかったような気がした。
(……詩弦。)
私は祈る。
詩弦の勝利ではなく、
「永続魔法《魔術師の左手》を発動し、スカイ・マジシャンの効果を発動!
その攻撃力を300ポイントアップさせる。」
かといって、パパの勝利でもない。
「バトルだ!
攻撃力2800の《EMスカイ・マジシャン》で、
攻撃力1500の《ハリマンボウ》へ攻撃!」
「トラップ発動、《氷結界》!
モンスターの攻撃宣言時に―――」
「《魔術師の左手》の効果を適用する。
君が発動する罠カードの効果は、1ターンに一度だけ無効となる!」
榊遊勝 LP2900
これほどの激しいデュエルが、より面白くなることでもない。
「それが通らないとしても!
破壊される《ハリマンボウ》の効果により、アンタの相棒の攻撃力は2300まで下がる!」
「ふむ……エンドフェイズ!
《亜空間物質回送装置》は自身の効果により、君の《サイクロン》の破壊効果から逃れていた。よって、私の場に戻ってくる!」
「そんな効果だったのか!?」
卓越したタクティクスで対戦相手も観客を驚かせる、よりよいエンタメへの祈り……でもない。
「手品のタネは明かさないものだよ、詩弦くん。
私はこれでターンエンドだ」
「なら、こういう仕掛けはどうだ?
墓地の《氷結界》の効果を発動!」
「墓地からトラップだって!?」
「さすがの《魔術師の左手》でも、片手でふたつもトラップを扱うなんてできねえよなあ!?
このカードを除外し、デッキからレベル5以上の水属性モンスター、3体目の《シャークラーケン》を墓地に送って、第二の効果を発動!
墓地の水属性モンスターを1体、手札に戻す。
俺が戻すモンスターの名前はもちろん、
《シャークラーケン》だ!」
怒れる詩弦と、《シャークラーケン》たちへ。
「ここで、もし!
もしも、《シャークラーケン》でリリースできる水属性で、すぐに手札から召喚できる低級モンスターを引けたら……面白いよな?」
「……ふふっ、確かにそうだな」
「そう、
祈る。
激情を越えた、デュエルへの喜びが。
詩弦自身の笑顔が、私のために嘆いた彼自身を救えるように。
「それが俺のデュエル、俺が信じるデュエル!
エンタメデュエルじゃあなくっても、自分自身を笑顔にできる。
それが俺の信じる、デュエルの力!」
「……デュエルの力。
いや、デュエル
「一か八かだ、いくぞ
最強デュエリストのデュエルはすべてが必然!
ドローカードさえも、デュエリストが創造する……!
運命のドロー。
カードを覗いた詩弦は、にやりと、……笑った!
「ッ、まさか、」
「来てくれたぜ。
これが俺の、エンタメのないデュエル。
俺が信じる、最高のデュエル魂!」
いや、それのどこが
「……ははっ。」
思わず吹き出してしまった私の笑い声へ、私の気持ちへ、詩弦が気づいて振り返ることはない。
「通常召喚するのは、レベル4!
2体目の《ディープ・スィーパー》!
こいつを生け贄に、3体目の相棒を特殊召喚できる。さあ、覚悟しろ!」
真っ逆さまに身を投じる《ディープ・スィーパー》を呑みこみ、
「より、さらにッ!
すべてを喰らう海の怪物。
こいつが来るぜ、何度でもな!
特殊召喚、《シャークラーケン》!」
怒りで眉間を、笑みで頬を歪めて、獲物を見逃さない怪魚は蘇る。
「攻撃力2400の《シャークラーケン》で、
攻撃力2000のスカイ・マジシャンに攻撃! 一生介錯!」
身をよじり、回転させて。
フードプロセッサーのように牙を躍らせる《シャークラーケン》。
「迎え撃て、スカイ・マジシャン!」
飛びあがって蹴りを放つ《EMスカイ・マジシャン》。
「無駄だッ、今度こそ俺たちが勝つ!」
「だが、私たちのエンタメも終わらない!
この戦闘によりフィールドを離れる《EMスカイマジシャン》の効果により!
君の《シャークラーケン》を改めて破壊する!
つまり、相打ちだ!」
「上等ッ!」
《シャークラーケン》の口の中へと自ら入り込み、そのまま内側から爆発したスカイ・マジシャンともども、フィールドから消え去る《シャークラーケン》。
これで詩弦は、すべての《シャークラーケン》を使い切った。
榊遊勝 LP2500
「ターンエンドだ。
これで条件は同じ。今度は榊遊勝、おまえが次のドローに運命を、自分の道を試すときだ!」
「プロの私を試すとは、なかなか良い度胸をしている! いいだろう。
君の
いつになく楽しそうなパパは、姿勢を正して一礼する。
「私が信じるデュエルとは!
みんなを笑顔にするエンタメの道!
君のように
パパは私を見て、より深く微笑んでから、
「……そう、この私の。
榊遊勝の娘、我が最愛の子、榊遊夜のためにも。
一歩たりとも外せぬ、笑顔のための道ッ!」
詩弦を見あげて、
その笑みは、いつかの詩弦の笑顔に似ていた。
「テメェッ……!」
なにを思ったのか、眉間をより深くさせる詩弦。
「私のフィールドには、
《亜空間物質回送装置》と、《魔術師の左手》がそれぞれ1枚のみ。
いずれも詩弦君のモンスターを倒すにはほど遠い永続魔法ばかり。だが!
ここからの私のデュエルを、どうぞお見逃しのないように!
私のターン、ドローッ!!」
おじぎの姿勢を解いたパパは、1枚のカードをデッキからめくる。
舞網市伝説のデュエリスト、榊遊勝が最後に引き当てるカードは……?
「私は手札から、《貪欲な壺》を発動!
墓地の《EMスカイマジシャン》、《EMバリアバルーンバク》を除く五枚のモンスターカード、
《EMレビュー・ダンサー》
《EMディスカバー・ヒッポ》
《EMセカンドンキー》
《EMギッタンバッタ》
《EMスカイ・ピューピル》
を戻し、デッキから2枚のカードをドロー!」
これまでのショーのために墓地に送られた
「……来たか。
私は手札から《死者蘇生》を発動。
その効果により、私の墓地から!
《EMスカイマジシャン》は蘇る!!」
引いたカードは《死者蘇生》。
ふたたびスカイ・マジシャン1体がフィールドに現れる。
「……俺のフィールドにモンスターはいない。
そのまま殴れば、アンタの勝ちだ」
これだけなら、
「いやいや。
君が席を離れるには、まだ早いぞ?」
「…………は?」
おなじ芸を繰り返しているだけだ。
だから、きっと、パパのデュエルは、
「それでは、私の言葉が伝わらない。
改めて教えよう、私が志すデュエルを!」
舞網市最強のプロデュエリストが織りなす、エンタメデュエルは、―――詩弦に届く。
「最後のカードをここで公開する。
私が《貪欲な壺》でドローしたカードは
「満天の笑顔で描け、我らが
魔法カード、
《スマイル・ワールド》!」
「――――――、」
詩弦は、絶句した。
「このカードは、おたがいのフィールドのモンスターの攻撃力を、おたがいのフィールドのモンスターの数に100をかけた数値分アップさせる。
今回は私のフィールドにのみモンスターが存在するため、私のスカイマジシャンの攻撃力が100アップする!」
え、たったそれだけの効果?
相手も強くするなんて、なんの意味があるの?
「そして、スカイマジシャンの効果を発動。
私が《スマイル・ワールド》を発動したことにより、その攻撃力をさらに300アップさせる。
これでスカイマジシャンは2500から100、300と攻撃力を上昇させ、2900ポイントにアップ!」
「……そういう意味かよ」
ケッ、と唾を吐き捨てるように、いきおいよく息を吐く詩弦。
「誰かの笑顔を守り、自分も笑顔になる。
聞こえは良い。真っ当な綺麗事さ、だが。
まかり間違えれば、笑顔の為の奴隷じゃあねえのか?」
「……君には、そう見えるのか」
「テメェが人間の薄情さを知らねえだけだろ。
恩知らずも裏切り者も、最初から相手に期待しすぎるからそう思える。
誰だって、まず自分の幸せをよく考えねえと、テメェ自身がぶっ壊れちまう」
ひと息を吸ってから、詩弦は続ける。
「だから気にくわねえ。
『綺麗事がまかり通らない。』
綺麗事を叶えられない失望に
「私の遊夜が
「なるまで試す気かよ。途中でこそ助けてやれよ」
「……ふふっ」
どうしたのだろう。
さっきからパパの笑顔がやわらかい。
「
「…………あ?」
呆気にとられた詩弦が、ぴたり、と呼吸を忘れて身を
「私は、《EMスカイマジシャン》で攻撃!」
「ただでは負けねえ!
「!? まだ発動できるカードがあるのか!」
「ただの、」
ドローする、……ように右腕を引き、
「俺の!」
勢いよく飛びあがって、スカイマジシャンを、
「意地だァ!
殴ったあ!?
わけもわからず目を瞬かせるスカイマジシャンの姿勢が崩れて、跳び蹴りの姿勢のまま転げ落ちていく。
それでもと咄嗟に投げられたリングが空中をめぐり、Uターンして詩弦の背中へとぶつかった。
「うおおおっ!」
スカイマジシャンの攻撃力は2900。
詩弦のライフは2300、つまり、
「……な、なんだったんだい、今のそれは?」
「スカッとする。」
「本当に、君というデュエリストは。
自分の笑顔のためなのか? なにもかもが?」
「言ってろ。」
目を閉じて、満足げに笑う詩弦。
負けたっていうのに、なんて嬉しそうなのだろう。
榊遊勝 LP2500
「遊夜は笑えたぞ。」
「! ……やれやれ。」
今回のデュエルは、詩弦の負けだった。
そう、あの日はよかった。
パパへと私の気持ちが伝わっただけじゃない。
自分で自分を笑顔にするためのデュエル。
大切な自分自身を貫くためのデュエル。
どこまでも自分の笑顔しか考えていないようで、本当は
そういう変なところは、いつもの彼らしくて。
前よりも彼を理解できた。
そんな気がした。
だから、今、この瞬間ほど、
『遊夜ちゃん、なにか一言!』
『君のお父さん、榊遊勝が失踪した理由は?』
『なにか知らないのか、家族なんだろ!?』
『おいっ、コメントをくれよっ、コメントを!』
『おまえも逃げるのかッ!?』
彼に。詩弦に。
パパに。榊遊勝に。
ふたりに助けてほしいと思ったことはない。
追いつかれた。追い抜かれた。
前も後ろも塞がれて、右も左もマイクだらけ。
逃げられない。逃げられる場所がない。
……逃げていい、居場所がない。
「なんで。パパ、なんでなの?
言ったじゃん。『今度こそは』って!
『今度は私が助けてみせる』って……!」
どうしていなくなっちゃったんだろう。
やっぱり、パパは。
私よりも、お客さんの方が大切で。
だからこそ、お客さんよりも笑顔にしたいひとがいたのかな。……やだなぁ。
そんなの、やだよ……。
「邪魔だっつってんだろォ!」
『ぎゃあっ!?』
ばしん、と。
『ちょっ。アナウンサー!?』
容赦の無い音が鳴り響いた。
「遊夜に取材したけりゃ、まずはデュエルしろ!」
犯人の凶器は竹製の定規。
背負う荷物はランドセル。
容疑者の名前は角道詩弦、十一歳。
「デュエルに勝ったヤツから取材を受けてやる。それでいいよな、遊夜ッ!」
「えっ。あっ……うんっ!」
それなら、もっと盛り上げる方法がある。
私は両手をパンパンと鳴らし、マスコミのひとたちの目線を集中させる。
「レディース・アンド・ジェントルメン!
こちらにおわします彼は角道詩弦!
私の父、榊遊勝をエンタメデュエルで追い詰め惜しくも敗北したものの、その実力を惚れられ、エンタメデュエルの弟子として認められた!
私の! かれっ……親友でございまぁす!」
「なんて??」
驚きで動けなくなった詩弦をよそに。
ぎょろり、と、マスコミの目が私から詩弦へと移っていく。
『本当ですか!?』
『彼も遊勝塾の生徒ってこと?』
『榊遊夜の友達でそこまで関係が近いってことは、ひょっとすると……! きみ!』
「遊夜おまっ、おまえっ、」
ぷるぷると肩を震わせ、怒りを眉間のしわに変えている詩弦。
「そんな話、いつ決まった!?」
「え? いつって?」
「弟子がどうたらって話だろ!
まさか、俺がいない間に勝手に決めて―――」
『おい待て、彼とデュエルをするのは俺だ!』
『いいえ私よ!』
『この牛尾様だぁっ!』
詩弦の訴えを、マスコミの混乱がかき消した。
『だったらデュエルよ!
デュエルで決着をつけましょう!』
『誰が最初に榊遊勝の弟子とデュエルをするのか、デュエルだァ!』
なんか、知らない間に。
「えっと……なにこれ?」
わけわかんないことが起きていた。
デュエルをするためにデュエルをする?
どゆこと?
「……よし。遊夜は帰っていいぞ」
え?
「俺は、『誰が』取材を受けるとは言っていない。
俺だけが取材を受けても、口約束を破ったとは言えない。
最初っからアポを取らない連中が悪い。
丸くは収まらないにしても、ごまかしはできる。
理屈はわからない。
たぶん、この混乱は詩弦の計算のうちなのだ。
でも、私は、
「ううん、」
詩弦の手を握った。
「
「! へえ……?」
詩弦がいるのなら、どうなってもいい。
この気持ちを、
「ごまかしたくない。」
「そうか」
それはそれで、きっと満足できる。
そうできると思える。彼が隣にいるから。
「一緒に戦おう?」
「ああ、タッグデュエルのこと?
考えたことなかったな……」
にやりと笑って、獲物を見る詩弦。
やっぱり、彼にはパパを含め、おとなも関係なく獲物に見えるらしい。
自分を笑顔にすることに余念のない、自分の笑顔のために私を助けるひと。
舌なめずりでもするかのような詩弦の黒目の動きを見ると、不思議と胸が高鳴ってしまう。
ああ、私は、
「えへへ。」
このひとが、どうしようもなく。
「ん? どうした?」
「なんでもなーい」
いいね、ここすき、感想をよろしくお願いします。
今回の話は?
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いいね!
-
まだまだだね…