地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。 作:ウェットルver.2
アクションデュエル。
それは舞網市のみんなの心を掴み、熱狂の渦に巻き込んだ。
やがて熱狂の渦は世界へと広がり、私のパパ、榊遊勝の名前はアクションデュエルの普及と共に世界中の誰にも知れ渡る名前に変わった……らしいのだけれども。
私には、私のパパがそうである、という実感がまだない。
舞網市では有名人、国内では有名人。
そのくらいならニュース番組で顔が出たり、なにかしらの番組でパパが出演したり、実際にパパが舞網市の外の大会へと顔を出したり、メディアのひとが取材に来たりと、わかりやすかった。
なんていうか、すごく身近に「有名さ」を知る機会があったから。
逆に言えば、よその国からの知名度なんてよくわからない。
あんまり身近じゃないし。
そう、身近さ。
みんながデュエルを好んでいる。
みんながアクションデュエルに熱狂している。
それが当たり前の私にとって、詩弦の姿勢はちぐはぐな感じがした。
デュエルは好き。
そう思えることは、私には羨ましいことだ。
でも、だ。
『今までアクションデュエルに興味がなかった。』
彼のその感情は、私にはよくわからないことだった。
そんなデュエリストは知りあいにいない。
アクションデュエルが好きであたりまえのはずだった。
遊勝塾にいたみんなだってそう。
『デュエリストは、アクションデュエルが好き。』
それは流行というか……『常識』のはずだったのに。
彼の語る興味関心の話には、確かにアクションデュエルの話はなかった。
だから、ちぐはぐに感じてしまうのだろう。
デュエリストである彼がアクションデュエルに関心がなかった、という事実が。
とは思っても、落ち着いて思い返してみると。
べつに『彼が変人である』というわけではなさそうには思える。
あくまでも私についての話と。
エンタメデュエルの話を詩弦はよく口にしていた。
詩弦の興味関心はエンタメデュエルと私、榊遊夜にしかなかったのだ。
私にエンタメデュエル……パパのデュエルへの思い入れがあっても、だからといってデュエルへの興味関心があるわけではなくて、デュエルそのものは苦手であるように。
詩弦もまた、興味関心が偏っているだけなのかもしれない。
彼の言葉には身近な『常識』のような、納得のいく実感を抱けるものがない。
そうではあるけれども、
『ああ、詩弦らしいな。よくわからないな。
だから、あなたは”ああ”できたんだな』
と、心のどこかで安心してしまう。
私に理解はできないことが、彼らしいとも思えてしまう。
不思議なことだけれども。
今日の今日まで、彼にアクションデュエルへの興味がなくてよかった、と。
理由がよくわからないまま、安堵じみた喜びに満たされていく。
気がつくと、彼に説明するときの緊張がほぐれていた。
「―――簡単に言うと、カードが実体化するんだ。
私は《EMディスカバーヒッポ》を通常召喚!」
召喚されたディスカバーヒッポは、シルクハットを掲げて一礼した。
「ディスカバーヒッポは、
アクションカードを探すのが得意なんだ!」
私はディスカバーヒッポの背中に乗って、しがみついて、
「……うん?
おまえがカードを探すんじゃなくて??」
後ろから聞こえてきた詩弦の声に振り向いた。
「え? 私も探すけど……んんっ?」
わけのわからない、とんちんかんな質問。
詩弦は、本気で不思議そうな顔で私を見ていた。
「いやまあ、確かにアニメでも言ってた気がするけどさ。
まずモンスターを召喚して、アクションカードを探すためにモンスターを自分の足として使う、ということはわかる。理解はできるんだけど……それだけでターンエンド?」
「ヒッポは壁を駆け登るのも得意なんだ。
アクションカードを探すのに向いたモンスターなんだよ」
「は?」
思わず零れた声を抑えるように、詩弦は口元に手をそえる。
「たった1枚のカードを手に取るためだけに?
なんの防御策も講じないで、そのままターンエンド……??」
驚いて目を見開いた猫のような顔をしながら、私とヒッポを見つめていた。
気のせいだろうか、彼の頭から宇宙が広がっているような気がする。
「どうしたの?
詩弦のターンだよ?」
「……俺のターン。
《素早いマンボウ》を!
…………《素早いマンボウ》を……」
うーん、うーん、と、唸りながら、
「…………表側攻撃表示で、つ、通常召喚っ……!」
なにひとつ納得していなさそうな顔で、詩弦はカードをデュエルディスクへと叩きつけた。
どうしてだろう、なにを思ったのかを分かった気がする。
いつもなら裏側守備表示で召喚してダメージを防ぎつつ、その効果から始まる魚族モンスターたちのコンボに繋げていくことで、自然と詩弦のデュエルができるはずだった。
そのはずだったのに、いざアクションデュエルになった途端、アクションカードを探すためだけに表側攻撃表示で召喚するしかなくなり、いつもどおりにダメージが防げなくなった、それを理解はできても納得しきれない、みたいな。
そんな彼の気持ちを察したのだろうか。
《素早いマンボウ》が、じっと詩弦の様子を伺っている。
「遊夜、こいつに乗るんだよな?」
詩弦の確かめるような鋭い目に、私はうなずく。
マンボウなら、私は街の水族館でも見たことがある。
この子も意外と大きいから、詩弦が乗るぶんには困らないはずだ。
おそるおそる、詩弦が《素早いマンボウ》に触れる。
表皮の感触を確かめているのか、まるでマンボウをなでるような手つきで。
「……。うん」
どうしてだろう。
アクションデュエルで見慣れた、デュエリストとモンスターのふれあいのはず……なんだけど、でも……。(どうして?)こんなことを思うなんて、なんだかおかしい気がするのに。
なんか、ちょっとイラっとくる。
「そうだよ?」
「ん? ああ、ごめん、遅かったか。乗るよ」
ひょい、と。
さっきまでの躊躇はどこへ行ったのだろう?
あっさりと《素早いマンボウ》の背に乗り、背びれを掴む詩弦。
「……そうじゃなくて、」
「え。ちがったの?」
「そうじゃなくて! そうでもなくて……」
なんだろう、この気持ち。
うれしい。うれしいと思っている。
彼の、初めてのアクションデュエルの相手が私であること。
私が、彼にアクションデュエルを教えていること。
自分が教える立場に成れていること。
彼が遊勝塾に入ること。
うれしい、そのはずなのに。
彼のためになれている。彼のためになりたいのに。
なんで、彼のモンスターを憎く思えるんだろう。
「え、ちょ、ま―――」
「へ?」
どひゅん、と。
風を切る音と共に、詩弦が消えた。
「あれ? 詩弦?」
「とまっ、おあああアッ!?」
ドカンッ!
音の鳴るほうへ振り向いてみる。
そこには、アクションフィールド《アスレチック・サーカス》の壁にクレーターを作った《素早いマンボウ》といっしょに壁に叩きつけられている詩弦の姿があった……詩弦の姿があった!?
「詩弦っ? だいじょうぶ!?」
「…………な、なるほど、」
つぶやきながら、詩弦が身をよじって、
「
そりゃそうだよな、素早いんだから、ちょっと動けばこうはなる…………ならねーだろおかしいだろ…………いやなってるじゃねーかッ!!!!」
ヤケクソ気味に叫んでから。
ふらり、ずるずる、ずてん、と。
《素早いマンボウ》から滑り落ちていった。
「詩弦ぅ!?」
そうだ、そうだったじゃないか!
詩弦のモンスターはどれもこれも危なっかしかった!
《ハリマンボウ》……口の中がハリセンボンなマンボウだとか!
《キラー・ラブカ》……ヒレが刃物の魚だとか!
タコだってそう! 吸盤って
じゃあ、えっと、……《シャクトパス》も《シャークラーケン》も、モンスターのほうが手加減しないと、ちょっと触手で詩弦に触るだけで大怪我させちゃうんじゃあ!?
「ど、どうしようっ……?」
詩弦にアクションデュエルを教える。
いいや、
これは思ったよりも、大変なことなのかもしれない……!
いいね、ここすき、感想をよろしくお願いします。
今回の話は?
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いいね!
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まだまだだね…