地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。   作:ウェットルver.2

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べつに、だれのものってわけじゃないし。

 詩弦が遊勝塾に入った、翌日のこと。

 

 いつもの通学路で。

 放課後に遊勝塾へと向かう途中で。

 あたりまえのようにからんでくる、いやなやつがいた。

 

「おまえら、まだ遊勝塾なんかに通ってんのかァ?」

「……暗黒寺」

 

 暗黒寺ゲン。

 その名前を私が言うと、ニタリと暗黒寺は笑った。

 

「わかってんだろ。

 俺たちの期待を裏切った榊遊勝、おまえのクソ親父!

 そんなやつのエンタメデュエルなんざ、ただの綺麗事。

 ()()()()()()()()()、臆病者の屁理屈なんだってなあ!」

「パパのことをひどく言わないで!」

 

 そう叫んだ私の隣で。

 

「はあ?」

 

 と、詩弦は口にした。

 

「詩弦? どうしたの?」

「あ? ああ、いや。

 なんていうか、榊遊勝、……遊夜の父さんとデュエルして負けたやつが言っていい台詞なのか、いまいちわからないけどさ……」

 

 頭をがしがしと掻いて、詩弦は話し続ける。

 

「あれでマジじゃないなら、たぶんクソ強いよな……って」

「あ? なんの話をしてやがる?」

「おまえ、榊遊勝とデュエルをしたこと、ある?

 非公式戦、……だったのを遊夜がマスコミの前で言ったけど。

 聞いたことない? 榊遊勝に善戦した榊遊勝の弟子ってやつの話」

「……おまえのことだろ?」

 

 暗黒寺は鼻で笑った。

 

「だからなんだ? どうせ本気出してねえんだろ?

 くっだらねえ芸でごまかしながらデュエルをしていたんだろ?」

「いや? 手札は全部使わせたし、場の魔法罠も全部吐かせた……使わせたぞ」

 

 暗黒寺の笑みが強張った。

 

「……なんだと?」

「そこまでやって勝てなかったのは悔しいけどさ。

 あれで弱かったら、ほかのプロデュエリストも冗談じゃないくらい強いわけで。

 そんな魑魅魍魎だらけのプロの界隈で生き残れていただけでも、相当の上澄みのはずでさ。

 だとしたら、しっかり自分の塾をもって経営をしていた榊遊勝のところでアクションデュエルを勉強すること自体は、そこまでおかしなことでもないと思うんだけど」

 

 淡々と言葉を重ねながら、詩弦は問いかける。 

 

「そのへんどう思う、暗黒寺?」

「……ちっ」

 

 舌打ちをする暗黒寺。

 

「そんなもん!

 テメェが弱かったから、そう見えるだけに決まってるだろっ!」

 

 はあ?

 本気で言っているのか、こいつ?

 

 自分より体が大きいとか、威圧感があるだとか。

 言っている理屈は筋道が通っているから否定しづらいとか。

 そういったところで暗黒寺には恐怖心を感じていたのに、なぜだろう。

 

 恐怖心があっさりと薄れるほど、腹が立った。

 

「じゃあデュエルで勝てばいいじゃん」

「ああ?」

「遊夜?」

 

 ぽろっとこぼれた私の言葉を聞いて、ふたりが私を見た。

 

「暗黒寺が詩弦に勝てばいいじゃん」

「テメェ、」

「ゆ、遊夜?」

 

 暗黒寺の表情が険しくなろうと、どうでもいい。

 

「まだ勝てないくせに。

 詩弦の手札がからっぽになるまで戦ったことないくせに。

 詩弦の全力を受け止めたパパのすごさも知らないのに、……へえ、」

 

 なんかもう怖くないや。

 

「自分が強いつもりなんだ。へんなの。」

「榊遊夜、テメェ!」

「……遊夜、あのさあ……」

 

 そう、いつも詩弦が守ってくれる。

 この暗黒寺から。あるいはメディアから。

 ときには、暗黒寺みたいなことを言うひとたちから。

 

 詩弦の強さは、メディアで一度は広まっている。

 その実力で、デュエルで「榊遊勝は強かった」と伝えてくれる。

 どれだけパパを臆病者だと言われても、詩弦に負けないくらい強いんだから、逃げる理由なんてないはずなんだ。あんまりパパが怖がる必要もない、だって強いんだし。

 

……いや、強くても本番で緊張したり恐怖を感じたりしないわけじゃあないとは俺も思うよ?

 だから暗黒寺の言わんとすることもわかるんだけど、ああクソそうだった遊矢って意外と『父さんは絶対正しい』とか『強い=正しい』みたいな考え方しなくはないんだったわ、まだ小学生だもんな、原作なんかまだ中学生だもんな!?

 しかも遊夜は女の子だからクソガキどころかメスガキって感じがして余計にひどいことになってやがるっ……!

「本当に暗黒寺が正しいなら、暗黒寺がデュエルすればいいじゃん!

 デュエルすれば詩弦の強さもわかるし、パパの強さもわかるし!

 そうだよね、詩弦! ……あれっ?」

 

 なぜか、詩弦は頭を抱えてうずくまっていた。

 

「詩弦、どうしたの?」

「なんか超頭痛い。マジでデュエルをパスしたい」

「ええっ!?」

 

 私が驚いていると、暗黒寺の笑い声が響き渡った。

 

「はっ、師匠が師匠なら弟子も弟子ってか!?」

いや、今ので『なんか事情があって来れなかったのかも?』くらいの背景を察して早く帰ってくれよ……マジで遊夜の代わりなんかでデュエルをして遊夜の理屈の正しさを証明する、みたいな不純なデュエルはしたくねえんだよ……

 

 詩弦が呻いているところからして、本当に痛そうだ。

 

「……だったら、私がデュエルする!

 私のデュエルに、エンタメデュエルに負けたら、もう詩弦やパパのことを悪く言わないで!」

「そうかよ!

 だったら、俺様が勝ったら、()()()()()()()()()()()()

 臆病者のエンタメデュエルなんか捨てて、本気のデュエルを楽しもうぜっ!」

 

 

 

 

「は? テメ、ェ……え―――?」

 

 

 

 

「待ていっ!」

 

 からん、ころん、と。

 どこからか、下駄の音が聞こえた。

 

「そのデュエル、俺が預からせてもらう!」

「テメェは……!」 

 

 暗黒寺の知りあいなのだろうか。

 下駄を履いた図体のおおきい少年……少年? を見て、暗黒寺が目を見開いている。

 

「だれなの?」

「俺の名は権現坂昇!

 そこの暗黒寺ゲンを兄弟子とする、権現坂道場の門下生だ!」

 

 権現坂昇。

 そう名乗った少年はデュエルディスクを構えた。

 

「権現坂道場の不動のデュエル。

 遊勝塾の志すエンタメデュエル。

 歩む道はちがえども、相手の志しを笑う道理など、俺たちの信義には無いはずだ。

 否、あってたまるものか!」

 

 そう啖呵を切る。

 

「……はっ。

 その不動のデュエルも、もう古いんだよ!

 時代はLDS、いいやストロング石島のもんだ!

 新しい時代に取り残され、時代を認めきれない臆病さで縮こまって、どこぞの塾とおなじで道場も隙間風が吹くような貧乏生活を始めることになる。

 くだらねえ信念で飯が食えるかァ? 俺は負け組になるつもりはねえ!」

「貴様ァ!」

 

 その啖呵さえ、兄弟子だった暗黒寺ゲンは嘲笑う。

 

「やめだ、やめ!

 こんなくだらねえ志しとやらの勝負より!

 さっさと腕を磨いたほうが身のためだなァ!」

 

 そう言いながら、暗黒寺は私たちに背中を向けて去っていた。

 

「すまない、俺の兄弟子があのような戯言を!」

「いいよ別に、気にしてないよ」

 

 本当にもう、あいつはどうでもいいから。

 パパをデュエルから逃げた臆病者だというのなら、あいつこそデュエルから逃げた臆病者だ。

 

 詩弦ならデュエルするところだもん、さっきの状況。

 臆病がどうとか話す前にデュエルを楽しみたがるだろうし。

 あの状況で背中を向けている時点で、あんまり気にするほどの相手じゃあない気がする。

 

「おまえが榊遊夜か。

 お父上の話については聞いている。

 なにがあったのかは知らんが、暗黒寺が言うような男ではないと俺は信じる」

「本当に!?」

「ああ、当然だ。

 ところで、そこの少年だが、」

 

 権現坂が詩弦を見る。

 

「体調は大丈夫なのか?

 急に頭を抑えていたように見えたのだが……」

「……ああ、うん、もう大丈夫だ」

 

 そう返す詩弦の目つきは、いつもより気だるげながらも、

 

「大丈夫だよ。」

 

 どうしてだろう、焦りや戸惑いがあるような気がした。




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