地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。   作:ウェットルver.2

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そりゃあ、捨てられないよな。

 もう嫌だ。

 思い出すのも、言葉に出すのも。

 

 いつもの帰り道。

 また暗黒寺のやつが。

 

 デートの誘い。

 おまえは詩弦じゃないのに。

 

 ふたりぶんのチケット。

 おまえに興味はないのに。

 

 今日は特別な日だった。

 

 

 詩弦が遊勝塾に来てから一年目の、

 ストロング石島のファン感謝デー

 

 

 

 逃げた。

 私は逃げ出した。

 遊勝塾に着くまでの間、なにがあったのかは憶えていない。

 私は詩弦を見つけるや否や、すぐに詩弦を抱きしめて……泣いた。

 

「うああ……うわあぁっ……!」

「お、おい? 遊夜……?」

 

 今日までの一年間。

 いろんなことがあった。

 

 詩弦との特訓の日々。 

 売られなくなった、榊遊勝のグッズ。

 一緒に海辺で走り込みをしたり、遊んだり。

 セール品の中に紛れ込んだ、榊遊勝のグッズ。

 体育祭でなかなか一緒になれなくてもどかしかったり。

 外の広告やテレビの広告でも見なくなった、榊遊勝の姿。

 

「……さみしいよ、つらいよ。」

 

 クリスマスでプレゼントを渡しあって。

 店頭で増える、ストロング石島のグッズ。

 本当のバレンタインの日に、チョコレートをもらって。

 LDSの広告塔として有名になっていく、ストロング石島の姿。

 

 

 今年も同じクラスで。

 ゴミ捨て場で見つけた、榊遊勝のグッズ。

 これからも、いっしょで。

 その目の前で渡された、ストロング石島のチケット――――!

 ずっと、

 

「ひどい。最悪だよ、あんなやつ……!」

 

 消えていく。

 榊遊勝が舞網市にいる、という現実が。

 榊遊勝は舞網市にいた、という過去に変わっていく。

 ストロング石島の姿で塗りつぶされて、榊遊勝が消えていく。

 

「なんで、どうして……!」

 

 パパがいた証が。残り香が。

 舞網市から、消えていく……。

 

 その先は、きっと。

 

「どうして、みんな捨てるんだよッ!」

 

 息を呑む詩弦。

 

「パパのことを、みんな、みんなっ……!」

()()()って、遊夜、おまえ、」

 

 なにかを言いかけた詩弦は、口をつむぐ。

 代わりに、私を抱きしめ返した。

 

「詩弦?」

「……買い物とか、あるよな。」

「え? うん?」

「一緒に行ってもいいかな。

 あいつに付きまとわれるの、嫌なんだろ?」

「……うん……」

 

 私は詩弦の胸の中に、深く頭をうずめた。

 

 詩弦のぬくもりが伝わってくる。

 冷たく悲しい気持ちが薄らいでいく。

 まるで雨雲の隙間から太陽の光を浴びたみたいに、冷たい空気で冷やされた体を光が暖めてくれるように、私の気持ちは穏やかなものに変わっていって……ああ……。

 

 

 (わたし)の意識が、とろけていく。

 氷が解けて形を失うかのように、はっきりとした思考が失われていく。

 

 

 詩弦のぬくもりは、悩みや苦しみを忘れさせてくれる。

 このひとのそばにいれば、あんなことを思わなくていいのだと実感できる。

 だってそうじゃないか、私の大切なものを捨てないんだから。忘れないのだから。

 

 どんなにみんながひどくても、詩弦だけはひどくないんだ。

 詩弦が守ってくれるんだ、だから、(わたし)は……。

 

「詩弦……。」

「遊夜?」

 

 (われ)、は……、

 

「……ん? 遊夜?

 …………寝たのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく、あいつも難儀(なんぎ)なやつだな。」

 

「遊夜が男だったなら、そこまで()()()しなかったんだろうに。」

 

「カードゲーマーらしくカードショップに行こう……自分の買い物に付き合わせようとかするのかと思えば、よりにもよってデートの行き先がストロング石島の……自分の親父が失踪した日の、親父の対戦相手だったはずの男のショーってのがな……古傷をえぐるだけだろうがよ。

 テメェの推しを愛しすぎて、まともに遊夜の顔を見ちゃいなかったんだろうな……」

 

 

「……俺も、似たようなもんか……」

 

 

 

 

 

 

 こうして。

 私たちの時間は進んでいく。

 

 


余談

 

■■■■は榊遊勝のエンタメデュエルに惚れこんで、榊遊矢として転生したのではないか?」

 という説が原作本編では言及されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談2

 

 榊遊勝の象徴でもあった《スマイル・ワールド》。

 このカードを墓地に送っても、異世界で成長を遂げた原作本編では「墓地から取り戻す」手段が榊遊矢のデッキにはあるため、ある種の■品になってしまったにせよ、まだ大きな問題はないはずなのだが、なぜか《スマイル・ワールド》を決闘に勝つためとはいえ、

 

「捨てる」

 

 ということに榊遊矢は強くショックを受けている。

 

 また、失踪した榊遊勝の関連商品(グッズ)である弁当箱を中学生になってもまだ持っていた。




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 よろしければ、原作本編をご視聴頂けると幸いです。

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