地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。   作:ウェットルver.2

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 あけましておめでとうございます。


こいつ、ほんとに綺麗な……別のことを考えるか。

 あれから。

 ……暗黒寺からの、デートの誘いを断ってから。

 

 私と詩弦の()()が深くなった……と、思う。

 

 どこかに出かけるときは、いつも隣に詩弦がいてくれる。

 詩弦がどうしても近くにいられないときは、私が、自分で詩弦の隣に行く。

 

 トイレに行くときなら、どちらかが出入り口で相手を待つ。

 

 つかず離れず。

 なにが起きても、詩弦が駆けつけられるように。

 そうやって私たちの距離は縮まった……って、思いたいなあ。

 

 詩弦からは、ちゃんとした告白を聞けていないけれども。

 あと、たまに来る柊先生が邪魔な時が……いや、そんなこと思っちゃだめだ、やめよう。

 

「ねえ、詩弦ぅ~」

「なんだよ、遊夜」

 

 ぐてん、と、詩弦の背に寄りかかる。

 肩に乗る私の顎へと詩弦は手を伸ばしかけ、一瞬だけ迷って指先を泳がせる。

 

「詩弦~」

「……はあ。」

 

 私の返事を待っていた詩弦は、ため息をする。

 しびれを切らしたのか、私の顎の下をくすぐった。

 

「んっ。」

「マジでなんだよ、遊夜」

「ひま」

「…………いや、今のは生理的に嫌がれよ……はずかしがれよ……」

 

 なんか呆れられた。

 いつも読んでいる本を詩弦は閉じて、目を伏せる。

 

「ポーカーでもやる?」

「それ詩弦強いじゃん。」

「遊勝塾でエンタメデュエルとか」

「そーゆー気分じゃないー」

 

 さすがにエンタメはない。

 ONとOFFは分けたい、そんな気分である。

 詩弦と出会うまでの()なら、「エンタメデュエルで遊ぼう」としたかもしれない。

 でも今では、ふたりきりの時間くらい、「エンタメ以外がない」と()が物足りないのだ。

 

「え? そうなの?」

「そう、そーゆー気分じゃない気分。

 このまま家でだらだらするのもいいけど、なんかなー」

 

 ごろごろとベッドの上で転がるのも飽きた。

 私は、枕元に投げ捨てた雑誌へと視線を向ける。

 その記事は「キスガジェット」と詩弦が呼んだ最新の流行デッキについてのページ。

 《悪魔の口づけ》なんて大胆な名前を持つ装備魔法を使い、「ガジェット」モンスターたちとの連携攻撃で確実な勝利をつかもう! ……という趣旨のデッキらしい。

 

 悪魔の口づけ(キッス)。へえ?

 で、詩弦が言うには、デッキの通称は「()()ガジェット」……へえ?

 

 そーゆーのを素面で言うの、ハレンチっていうかさ。

 

 ……なんか、ずるくない?

 

「なんかなぁ~っ!」

「なんだよ」

 

 さっき詩弦へ寄りかかったのは、ちょっとした仕返しのつもりだったのだ。

 ほんのちょっと甘えにいって、ドキっとさせられないかな、なんて思っていた。

 あわよくば「キスガジェット」の話題を蒸し返して、詩弦が「キス」という言葉ひとつで恥ずかしがるまでの間、ずっと《悪魔の口づけ》についての話をしてやろうかと思っていたのだ。

 

 まさか、詩弦が私の顎をなでるとは思わなかった。

 なでる力が強くて、ちょっと顎クイみたいにされた。

 心地よさと恥ずかしさで黙らされ、無理に口を開けば「ひま」としか返事できなくなってた。

 

 くそう、なんか詩弦のやつ、「好き」も「愛している」も言ってくれないくせに、こういうのばっかり得意になってきている気がするっ……!

 

「あ゛あ゛~~ッ! なんだかなぁ~っ!」

「……本当になんだよ……?」

 

 かといって、だ。

 これぞデュエリスト!

 って、感じの真面目な顔つきで「キス」とか言われても、なあ。

 

 その気があるのか、彼が硬派なだけなのか、私からは区別がつかない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……もどかしい。

 

 こういう気分のときにデュエルとか、考えられるわけがないじゃん。

 

 もうちょっとキスって単語を、状況と雰囲気に合わせて言ってほしかったような気がする。

 そこを羞恥心で戸惑うでもなく、時も場合も選ばず、さらっと言い切る淡泊さで「キス」なんて言葉を言われても、まったくもって、なにひとつもうれしくないのだ。

 

 ほんのちょっとでも、私に惚れた弱み、みたいなものを感情に出してほしいのである。

 

「……あと二年か……」

「どうしたの?」

「ん? ……ああ、中学校が、だよ」

「あと二年って、一年まちがえてるよ!

 私たち、もう六年生なんだからさ……え、なんで間違えたの?」

「…………なんでだろ?」

 

 目をこする詩弦。

 ヒマすぎて、すこし眠くなったみたいだ。

 

 ちょっと待って?

 キスだのガジェットだの言いながら、ちょっと眠くなってたの?

 こっちがはずかしがっている間に!?

 

「……なんだかなぁ……」

 

 口をとがらせ、むすっとする。

 私に魅力がない、というわけではないはずなのだ。

 まだ美人だとか美女だとか呼ばれるうちに入らないにしても。

 そう、綺麗には育たないとしても、ママみたいには育てないとしても、だ。

 見る男の子が見れば、思わず顔を背けて二度見する……照れて目を逸らしても二度見するのだ。

 

 そのくらいには、これでもかってくらいの美少女なのだ、私は。

 たぶん。パパが失踪した件について思うところがあるひとの反応ではないはず。

 

 キスを迫るわけでもないけど。

 キスの話題をするということは、その気があることのはずなのだ。

 キスの話題を出すことがどれだけセクハラな言動だとしても、「生理的に無理!」になりやすい話題だとしても、そんな話題ですらないのに「キス」の単語が出てくる「キスガジェット」なんて言葉は、口に出そうとするだけでも羞恥心は出てくるはずなのだ。

 

 魚の(キス)と接吻のキスは別物だけど、なんか魚の(キス)の話題を出すのは恥ずかしい、みたいな。

 

 そんな話題を(たぶん)美少女である私に出しておいて、詩弦自身は平気って……。

 

 ほんとに。

 ちょっとくらいは。

 惚れた男の子の弱みってものを、見せてほしいのである。




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