地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。 作:ウェットルver.2
いざ「お礼を言おう」と、次の日に登校したら。
なんかいつもより教室がうるさくて。
恐る恐る入ってみれば、シズルがクラスメイトに勝負を申し込んでいて。
それが休み時間に入るたびに続いて、なにがなんだかわからないまま放課後になって、話すタイミングに困って明日に回してみたら、その日もシズルはクラスメイトに勝負を仕掛けていた。
よくわからないけど、たぶんあきるだろう。
そう思って、その日もまた、お礼を後回しにした。
その明日の休み時間も……放課後も……そのまた次の日も……さらに、次の日も。
まるで生徒四十人切りでも達成したいかのごとく、デュエルしてはデュエルをして、デュエルをしてはデュエルをして、とにかく勝って、勝って勝っての繰り返し。
だんだんクラスメイトが「えー!? おまえ強いからやだー!」なんて弱音を吐いた頃には、いじめっこがシズルを嫌い始めて距離を取るようになって。休み時間や給食の時間でも、自分から距離を取っていくようになっていて。
そもそも、あいつのデュエル三昧のせいで、だれもわたしをいじめる余裕がなく。
お昼休みになると、だいたいの生徒は、すごすごと教室から出ていくようになっていた。
あれじゃあ、どっちが嫌われ者なのか、わかったものじゃあない。
デュエルから笑顔を奪うかのような所業に、思うところはあった。
けれども、あいつの奇行は、デュエルを理由にクラスメイトからわたしが馬鹿にされない、やけに居心地がいい教室へと作り変えていた。
ひとりぼっちで給食をもくもくと食べる姿が、やけに目に映るけれども。
ついに対戦相手がいなくなったシズルが、わたしへ勝負を挑んだ日からだろうか。
わたしのデュエルを見たクラスメイトが、今度は「遊夜とならデュエルしたい」なんて言ってくれて。代わりに、だんだんと、本当にシズルがだれにも相手されなくなってきて……なんだか、わたしは他人事のように思えなくなっていた。
その様子を、「ちょっと心配になったから」って。
せっかくの土曜日にパパやママに相談してみたら、ママが教えてくれた。
「それ、『汚れ役』をやってるね」
「汚れ役?」
「嫌われ役、悪役、ヒール、なんだっていいさ。
その子、遊夜のためだけにクラスメイトに嫌われにいったんだ。
じゃなきゃあ、遊夜だけを最後に回すなんて演出、する必要もないだろ?」
ママにいわく。
昔、男の不良には、わざと悪玉役と善玉役に分かれて、悪玉役に女の子を襲わせて善玉役が助けるという、ちょっといい雰囲気になっちゃいそうな演技を不良チーム全員でやることで、女の子をダマそうとすることもあったらしい。
「そういうのは、アタシが全員ぶちのめしたけどね!」
「かあさん……」「ママ……」
パパも知らない不良の世界の、なんか怖い話だ。
童話になぞらえて、「泣いた赤鬼」「赤鬼と青鬼」なんて言われることもあるのだとか。
シズルの場合は善玉役がわたしで、悪玉役がシズルらしい。
「そんなの、ママの考えすぎだよ!」
だって、そんなことをされたところで。
わたしはべつに、シズルにダマされていないし。
シズルが別の女の子を捕まえてどうこう、なんて話は聞いたこともない。
「でも遊夜は、みんなと仲良くなれただろ?」
「あ……」
そうだ。
善玉役がわたしなら、得をするのはシズルじゃあない。わたしだ。
いじめがなくなって。いじめっこがわたしをすこし見直して。
悪玉役のあいつだけが、ひとりぼっちになったんだ。
「……遊夜。
これは、よくないことじゃあないか?」
パパが真顔になって、顎髭をなでる。
「オッドアイズの件はともかく、いじめの問題にまで向きあってくれた。
さすがに無茶をさせすぎている。このままでは、彼が孤独になってしまうぞ」
それは、わたしだっていやだ。
そんなのは、わたしが信じるデュエルじゃあない。
「え? オッドアイズの件って、なにがあったのよ?」
「ああ、洋子、実はだね……」
なにかふたりが話し始めたけれども、まるで遠くの物音みたいに感じる。
……でも、それって、全部おれのせいかな?
そうじゃあない、あいつが勝手にやったことだとは思うけれども、すくなくとも青鬼役だの悪玉役だのを勝手にやられて、「エンタメデュエルなんて知ったことじゃない」という態度をされるのもしゃくにさわる。
でも、あいつはオッドアイズを取り戻すのを手伝ってくれたし、まだお礼も言えていない。
彼に思うところがないかと言えば、たくさんある気がして、でも言葉にできていない。
気に食わない。ありがとう。かっこうつけやがって。わたしのために。知ったことか。でもエンタメデュエリストとして無視ってどうなんだ。あいつだって無視したじゃん。でも無視しないでくれたじゃん。
嫌いかと言えば嫌いで、好きかと言えば、……そうかもしれない。
でも、男の子が好きって、なんだか恋みたいで変じゃん。
普通に友達として、そのはずで。でも、友達になった憶えはないし。
そういう距離感で急に気になるのは、やっぱり恋なんじゃあないのか。
いや、単純にあいつがへんなだけのはずだ、それは前から変わっていないわけで。
そこまで『へんなヤツ』でも、デュエルする時の笑顔は悪くなくて。
きらいじゃなくて。いや、だから、そうじゃなくて。
「え、それってやっぱり! キャーッ!」
「洋子、さすがに今それは! ……遊夜?」
頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。
せっかくの料理が冷めて味が消えてしまいそうで、なんだかいやだから一気に呑みこむ。
そのまま、お風呂に向かって走って、どぱんと湯に浸かって。
さっさと体を洗ったら、体を拭いて、着替えて。
歯を磨いて、ベッドに入る。
こうすれば落ち着けるはずだ。
そう思っていたのに、かえって意識しすぎてしまう。
思い返すだけでバクバクと胸が跳ねる、オッドアイズを取り戻すまでのやり取り。
どぎまぎするほど思い出せる、お礼を言いたくても言えない、自分のためだったかもしれないクラスメイト四十人切りのデュエル三昧。嫌われまくりの勝ちまくりを繰り返した日々。
……の、やけに楽しそうな顔。
なんだ。なんなんだ。
なにがなんだかわけがわからない。
あいつはいったい、どういう人間なんだよ。ふざけるな。
ごちゃごちゃとした気分は寝ても、醒めても変わらなかった。
休みの日にあれこれ気にするのも面倒になって、やるだけのことはやってしまった。
まるであいつみたいにめんどくさく感じて、「もう気にするのもだるいから、お礼だけ言って終わらせよう」と学校へ向かう。当のシズル、いや、シヅル……詩弦は、教室になんか興味もなさそうに、静かに本を読んでいた。
がり勉気取りかよ。
「ほら、詩弦。」
「ん?」
「義理。オッドアイズのとか。
その、……ありがとうな。」
「……は? 義理?」
雑に買った市販のお菓子を渡すついでに、お礼だけ伝えて席に帰ろうとする。
帰ろうとして、……周囲の雰囲気に気がついて、わたしは固まった。
そう、わたしはこれまで、さんざんみんなにいじめられてきた。
友達なんて呼べる友達はいなかったし、たとえばチョコレートどうこうなんて浮ついた話も、「友達に渡すのが義理で、すきな男の子に渡すのが本命」というくらいまでのうわさ話しか耳に入っていなかった。
中途半端にそう聞かされれば、(男の)友達には義理でも渡すのか、と思うのも無理はなくて。実際には、(性別問わず)友達には義理で、というのが聞いた話の本質で。
わたしが友達扱いして「義理だから」と渡した詩弦のほかには、男友達なんていなくて、彼以外の男の子には、だれにも渡していないから。
それは、「自分は榊遊夜の友達である」と思ったクラスメイトにどう見えるかなんて。
本当のところ、わたしはかけらもわかっていなくて。
バレンタイン・デーであろうと、そうでなかろうと。
小学生の女子が、男子にチョコレートを渡せばどうなるか、なんて。
あの頃のわたしは、なまじ女の子らしさを捨てるような態度を続けていたから。
……なにも、わからなかったのだ。わかっていなかったんだ。
わあわあと教室が盛りあがって、自分の勘違いに気づいたとき。
角道詩弦が好きである、というクラスメイトからの誤解へ「満更でもない」と思ってしまった、気づかされてしまった自分の気持ちと。
バレンタイン・デーに渡すチョコって、そういう意味だったのか、という遅すぎた理解と。
「遊
「……ヘェッ?」
そもそもわたしがママの真似をしたり、いろいろな理由で体育を休んでいたせいで、とんでもない思い違いを詩弦から受けていたことが、いっぺんにわたしの頭の中を襲ってきて、……いたたまれない気持ちと、気恥ずかしさで。
学校を逃げるように早退して。
その日から数日、まったく家から出られなかった。
……ああ、そういえば。
早退したあと、ゆっくりと話を聞いてくれたママは、なぜかパンケーキを焼いてくれて。
あいつがくるまでの間、ずっと部屋に持ってきてくれたな。
怒られても、おかしくないことをしたはずなのに。
今回の話は?
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まだまだだね…