地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。   作:ウェットルver.2

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 この前後編は別視点です。
 ご了解の上、お読みください。


間章(前編):惚れた照れたの裏側で、

 きたる中学二年生の夏まで、あと二年。

 ストロング石島のファン感謝デーまで、もう時間がない。

 

 学生時代の時間間隔であれば無尽蔵にありそうな一年間も、いざ予定を組んで日々生活を送ろうものならば、とんでもない速さで過ぎていく……()()の感覚に戻ってくるというものである。

 

「ちっ……このカードショップも”外れ”か。」

 

 平日5日間の通学を除けば、遊勝塾でアクションデュエルの鍛錬。

 残る2日間の休日においては、ほぼ遊夜との自宅デートで時間が尽きていく。

 できるかぎり遊夜から離れずに生活することで、遊夜の精神状態を悪化させないように図ったが、自分のデッキの強化においては時間が割けていないことが問題だ。

 

「このままじゃあ、権現坂みたいなやつには勝てない。

 守備表示のままでデュエルをする相手だと、《ハリマンボウ》たちの攻撃力操作が意味をなさないからな……せめて表示形式の変更か、守備表示モンスターへの効果破壊が狙えるようなカードが魚族モンスターにいないと、これ以上は対応力を広げきれない。」

 

 遊夜とのデートで、カードショップに行くことはあった。

 あったが、それでは自分が誰を意識してデッキ調整をしているのか知られてしまう。

 視点を変えれば、男である自分を差し置いてデート相手である遊夜が別の男のことを考えながらデッキ調整をしているようなもので、デッキ調整を化粧品選びへと言い換えようものならば、一瞬で浮気を疑い修羅場と化すだろう。

 

「……いや、べつに俺とあいつは付き合っては……いるか。」

 

 そのくらいの真似を、今の自分はしている。

 もちろん、実際には権現坂昇以外のデュエリストを相手取ることも想定にいれたカード探しなのだが……残念ながら、原作開始前に舞網市で販売されているカードの中に、特定の属性や種族をとことん強化するようなカードは見つけられなかった。

 

 舞網市といえば、本来はアドバンス召喚や特殊召喚、儀式召喚を主軸とした戦術が中心であり、それぞれの召喚法に必要なリリースを確保できるカードにこそ需要がある。

 ということは、それ以外のカードは需要がないため、企業からの供給も少ない。

 

「こんな調子じゃあ、タッグデュエルもうまくいかないかもな……」

 

 よって、カードショップでの取り扱いも期待できない。

 リリース要員としてフィールドに生き残りやすいモンスターにばかり需要が偏り、リリース要員をパワーアップさせたり、リリース要員の戦闘を補助させるカードは中級者向けの扱いだった。

 

 装備魔法など原作では何枚もお目にかかれず、通常魔法の《一騎加勢》が代表的なほど。

 アクションデュエルであれば、アクションマジックによる強化が定石となるために、アクションデュエルの本場である舞網市では装備魔法を採用する必要性が薄くなってしまうのだろうか?

 

 いいや、そんなはずはないのだ。

 普通のデュエルで強化系のカードを使わないことにメリットはない。

 強いて言えば、カードを嫌な組み合わせで引く「手札事故」を回避できる程度だ。

 

 遊勝塾の塾生はモンスター同士によるコンボによって戦闘能力の増強を図っていた。

 おそらく、装備魔法などの強化系カードの役割をモンスターカードに担わせているのだ。

 なんらかのカード効果で呼び込みやすいモンスターカードのほうが、装備魔法を使うよりもデッキ圧縮や手札事故回避などの戦略面では有利になりやすいので、はたから見れば強化系のカードが少なく見えるだけなのだろう。

 

 《スマイル・ワールド》?

 あれは原作でも微妙な強化系カード扱いだからノーカウントだ。

 あとエンタメデュエルの精神の根幹を象徴するカードでもあるのでノーカウントだ。

 

「となると、……結局、魚族モンスター探しに戻るのか。

 進展があるんだかないんだか、嫌になってくるな。」

 

 現状は、《光鱗のトビウオ》を探すしかない。

 あれは魚族モンスターをリリースすることでカードを破壊できるモンスターだ。

 だが、その効果の都合上、あれだけをデッキからドローして通常召喚しても旨味がない。効果の発動制限などがない、つまり「1ターンに一度」などの制約がないためにコンボが決まれば強烈だが、それ単体では活躍しないという手札事故の原因になりかねないのだ。

 

 手札事故を鑑みれば、他のカードを探したくなるのも決闘者(デュエリスト)ならば自然なことだ。

 これまで《ハリマンボウ》やら《シャクトパス》やらを使ってきたが、意外にも攻撃力操作に長ける魚族モンスターたちのなかでは、相手に対して表示形式変更の効果を使える魚族が実はいないことなど承知のうえで探している。

 

 舞網市……アニメの世界であれば、ひょっとしたら。

 これまでの知識や経験では予想できないカードと出会えるかもしれないからだ。

 

 自分の知る榊遊矢ではなく。

 この世界の榊遊夜と本当の意味で出会った、あの公園のときのように。

 

「……で、そこのテメーは誰だ?」

 

 なんとなく感じていた視線の主へ、振り返らずに話しかける。

 原作開始前。榊遊夜……もとい「榊遊矢」へと関心を向けうる人間。

 なおかつ、噂程度であれ榊遊勝相手に善戦した実力者であれば興味を持つ者。

 

 これだけの条件がそろっておいて、「誰だ?」と訊ねる意味はほぼない。

 

「気づいていたか。」

 

 自分よりも背の高い、しかし成人ではありえない姿形の影が忍び寄る。

 

「おまえ、おおかた仲間に追わせてただろ。

 尾行がバレバレすぎ。遊夜の意識を逸らすの苦労したんだけど。」

「……探偵を雇う必要ができたな。

 必要経費だと割り切るべきだったか」

「…………そうかよ。」

 

 女がらみでケチる男はしょぼいぞ、と言いかけて黙る。

 

 榊遊勝の娘、榊遊夜に調査をする価値があるか、否か。

 その判断を思い切って調査を打ち切れず、ズルズルと尾行を続けさせた理由は簡単だ。

 おそらく榊遊勝を失踪させた罪滅ぼしが直接的にできず、しようものならば「原因が己にある」と悟られて話が拗れることを恐れ、中途半端な干渉でしか関われなくなってしまったのだろう。

 

 この世界であれば、こういった調査に留まっているが。

 原作であれば、なにかしらの理由をつけて競合他社である他のデュエル塾に買収合併……M&Aを仕掛けられてもおかしくない遊勝塾が原作開始までの三年間も無事でいられた理由は、こいつによる圧力やデュエル塾の買収のおかげである可能性が高い。

 

 というか、この世界でも同じ妨害をやっている可能性は高い。

 舞網市の象徴ともいえる榊遊勝を「過去の栄光」と侮らずにリスペクトできる人間が、そこまでの真似をしてでも榊遊勝の名誉と居場所を守ろうとしないはずがないのだ。

 十分なカネと権力があれば、躊躇して実行しない理由がない。

 青臭い情念を実現したがる()()もあるならば、なおさらだ。

 

「俺になんの用だ、―――赤馬零児。」

 

 舞網市において最年少記録を更新してプロデュエリストになった男、赤馬零児。

 そいつは赤い眼鏡を持ち上げて位置を正し、への字に口を曲げていた。




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 なお、本日の午後5時に後編を投稿します。

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