地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。 作:ウェットルver.2
「つらい。」
嫌な日である。
今日は特別に痛い日である。
なにが? どこが?
とか、そんな質問すらしないでほしいほどにつらい日である。今日だけは彼がいない。
ママに頼んで、代わりに宿題を受け取ってもらった。なんの刺激も無い退屈な時間や、エンタメのない時間がつらいときほど、正直ありがたいと思える日は初めてだった。
それでも、
「……さみしい。」
肌寒い。
人肌恋しい、というやつ。
そう思うのに、ママに触られると無性に腹が立ってしまう。思わず叫んでしまう。
「くるな。やだ。きてよぉ……!」
なんかもう、ぐちゃぐちゃだ。
気持ちがべちゃべちゃと粘り強く、私の心を縛りつけるように自由を奪う。
大切な親を思う気持ち。
特別な誰かを求める気持ち。
あと少しで元気になれる、という希望。
ひとつひとつを思うがままに思えず、どろどろと憎しみという血が零れる。
まるで私というものが、憎しみから生まれ、憎しみによって生きるかのようだ。
いや、ひょっとすると、最初からそうだったのかもしれない。なぜなら我は、
『すっ』
と、扉のほうから物音が聞こえた。
私の思考が途絶える。
ベッドから身をよじって、扉を見る。
扉の下に、手紙の封筒が置かれていた。
「……………、」
言葉には出さない。出せない。
かたちにするだけで気持ちを歪める憎悪から、私を誘導してくる痛みから抗い、たぶんママが置いたのであろう封筒を掴む。
封筒は無地の、まっしろなもの。
ママらしからぬ、ゴテゴテとしたかわいさがない封筒だ。パパからの封筒かもしれない。開いてみる。見たことのない字だ?
見たことのある字だった。
というより、最近見慣れすぎて、今この時に読むとは思わなかった字だった。その字が、筆跡の主の名前を示していた。
「……、……?」
中身を開けてみる。
うれしいような、わずらわしいような。
ちがう、うれしいのに、気持ちが揺れ動くことのほうに腹が立っていた。わざわざ封筒を開けてまで手紙を読む、ということにすらイライラを感じるほどに落ち着きがない。
文字を目で追う。文章の中身を読む。
その最中、ぽろりと手紙から何かが落ちた。落ちたものは、カードだった。
『それは遊夜のもの。』
と、手紙の最後に書いてあった。きっと、
「プレゼント?」
そういうことなのか。
よくわからない。
でも、もらっておこう。
薄いプラスチックのケースみたいなもの、あとで彼から聞くにスリーブと呼ぶらしい、とにかく硬質なケースに保護されたカードを手に取る。
「……そっか。」
効果は弱い。鎮痛の役には立たない。
でも、意図は強さよりも暖かい。
「へへっ」
あふれた感情に押し流されて、憎悪が弱く、薄くなっていく。
この痛みがなくなったら。
その日こそは、学校に行きたい。
彼に、会いたい。
今回の話は?
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いいね!
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まだまだだね…