地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。 作:ウェットルver.2
本当の『私』は見せられない。
クラスメイトには、誰にだって。
綺麗だとか可愛いだとか、そう大人に言われるような普段の姿なんて見せていない。ただでさえ弱くて馬鹿にされるのに、もっと目の色を変えられるのが怖い。
ほかの子が可愛くなってからの男の子からの目線がどう変わるのか、ある日に偶然知ってしまったから男の子が怖くて、男のひとみたいな時のママの真似は都合がよかった。
興味を持ってもらえなくなるからだ。
女の子としては、絶対に。
サラシを巻いては胸を潰す。
髪を短めにカットして貰っては、言葉遣いを『私』から『俺』に変えて、女の子らしさを潰す。喧嘩っ早い感じの態度を続けて、男の子みたいに、ほかの男の子を馬鹿にしたり
自分の容姿に自信がないわけじゃない。
ママゆずりなのだ、そこだけは譲れない。
でも、友達を『友達』だと信じきる自信だけはない。
クラスメイトを仲間だと信じられない。
それこそ、私を先生が守ってくれるのだと私が先生を信じても、馬鹿にしてくる子たちの考えが変わってくれる未来も、自分自身が「みんながそうしてくれる」なんて信じられなかった。
実際、先生がなにをしても、誰もなにも変わらなかった。
だから、
友達だと信じられる他人なんて、いない。
ある日突然できた、彼氏候補はいるけれど。
それでいいのかもしれない。
いつかの未来に、本当に彼氏になってくれる。そうかもしれないと期待して信じられる男の子が、詩弦がいるなら、べつにいいかもしれない。
馬鹿にされても、友達がいなくても。
だれも信じられなくても、家族しか信じられなくても。
彼さえいれば、他人はどうでもいい。
だれもいらない。
「サボり遊夜!」
そう思えていたんだ。
生徒の誰かが、私を呼ぶ瞬間までは。
登校して間もなく、みんなから話しかけられる。
「サボり遊夜?」「どうせ仮病だろ、だからサボり遊夜! いつも体育サボってるし」「そうだよなー、なんかずるくない?」「
ぺちゃくちゃと。
知りもしない理由に、ありもしない理由をつけてまで納得した結論が、ズル。
あらためて周りを見てみる。
理由を察した女の子は顔を背けて、悪口は言わなかった。その子たちは雰囲気が大人びていて、体育で休むときには話しかけてくれる子たちだ。
……私の思いを、わかってくれる
初めてそれを、友達だと心の底から理解できた。
守ってはくれないけれども。
理由に気づいていない女の子は私を見ていた。憎々しげに、笑いながら。彼女たちだって、ドッジボールとかでは男の子たちに任せきりで、堂々とサボっていく側なんだけど、
「そうよねー、遊夜くんってずるいよねー」「体が弱いからってねー」「弱くないよ、あの子、榊遊勝先生の塾にいるし」「アクションデュエルできるのにサボるの? じゃあ、サボりじゃん」「仮病じゃん」
けらけらと。
ひとを笑うことにしか、興味がないらしい。
こんなことで笑顔になりたいらしい。
「……え? あっ!」
誰が友達で、誰が友達じゃあないのか。
なんとなく、ようやく納得できた。そんな気がしたから、あいつらの悪意に気づくのが遅れて、
「ちがっ、ちがうの! わた、いや俺は、」
俺の言い訳は遮られた。
ずどん、と。
座ったまま机へと踵を落とした詩弦によって。
「サボり。遊夜が?」
こんなことで笑顔になる、変なやつがいた。
にやりと微笑み、目を細め、眼球が私を見ているようで、私ではないなにかを見ていた。
まるで品定めをするかのような、いつもの変なやつではありえない目つき。うちの犬のアンが怒ったときに見せる笑顔に似た、ちょっと怖い笑顔が変な男の子の顔にあった。
視線に従って、振り返ってみる。
「本当にサボりだっていうなら、」
そいつの言葉が投げかけられた先は、
「おまえより遊夜は弱いよな」
「俺より?
「わかってないな」
私を最初にサボりと決めつけた、ひとりの男がいた。そうと決めつけなかった
それを挑発的な笑顔だと理解するには、あるいは獲物を狙うデュエリストの目だと理解するには、ちょっぴり私には早い種類の笑顔だったかもしれない。
そうとも知らずに見とれてしまって、あれ、なんだかかっこいいかも……だなんて私が思った、次の瞬間に放たれた挑発は、
「つまり、
……ってわけじゃあ、ないよな?」
ぴきり、と。
教室の空気が、水の中の氷みたいに割れた……ような。そんな音をさせた気がした。
「は? そりゃそうだろ? なに言って」
「本当にサボりなら、遊夜に負けた誰かは、これからずっと『サボるやつより弱い』とか、『遊夜より才能ない』とか言われるわけだ。
そりゃあ誰も、遊夜の実力なんか試したくないよな。
自分が弱いかどうか、遊夜が強くなったかどうか、思い知らなくていい。臆病なままでいられる。それが幸せなんだろ?
よかったじゃないか。なにが嫌なんだ?」
いやみ。
私へとみんなが口にするよりも、はるかに残酷で現実を叩きつけるような、趣味の悪い笑い話。
どうして、そんなひどい言葉でみんなを傷つけるの……と、思いながらも。
クラス最強のデュエリストが告げる、「私の味方なのだ」とわかる悪口。
……なんかちょっとうれしいかも。
私が、私だけが特別に想われている気がして。
めでたし、めでたしでいいんだろ?
現実から逃げられるんだから、なあ?
そう彼は締めくくる。
「……俺は嫌だけどな、それ。」
ぼそり、と、彼はつぶやいていた。
なにを思ったのか、彼はデュエルディスクを構える。誰と勝負する気なのだろう。
「遊夜、」
「?」
「俺とデュエルしろ。してくれ。」
「へ?」
なんで?
「遊夜のことがわかる」
「はい?」
私と? わかるって?
私のことで? 詩弦に? なにを?
「ま、まあ、詩弦がしたいなら」
なんだかデュエルを挑まれたことが
あいかわらず何を考えているのか、よくわからない相手だ。でも。
この場の雰囲気を自分の色に染め、気がつけば周りを黙らせている人間は彼だけだ。
どよめく女子。勝負と聞いて期待し始める男子。
その中心に立つ彼は、ただ私だけを見ている。
どことなくパパのエンタメでも見ているかのような空気の変わりように、ちょっとだけ私は彼を見直したというか、最初から見直すも何も、
「おい、デュエルだぞ、デュエル。
無理にエンタメをしろとまでは言ってないし、ちょっとは楽に考えれば?」
「は?」
できるけど?
エンタメできますけど。
デュエルを気楽にできるかどうかは答えづらいけど、エンタメだったら気楽にできる。
「……れでぃーす!
えーん、じぇんとるめーん!」
「あっ。ダメだこいつ、気づいてねえ……」
なんか言われた気がするけど無視。
なぜだかショックだけど、今は無視。
気づいてないのはおまえだろ、ばーか。
とりあえず、そう思っておく。
「みなさま、お待たせしました!
エンタメデュエルと
この私、榊遊夜!今日も華麗に、榊遊勝直伝のエンタメデュエルを―――!」
「無様に、の間違いだろ?」「待ってねえからデュエルしろ!」「つまんねえ」「サボりはサボりだろ!」「一番デュエルが弱い弟子の間違いじゃないの?」「キャハハ!」「相変わらず変な子よね……」
口々に飛んでくるブーイング。
「え、えっ、……なんでっ?」
「ああもう、遊夜さあ……」
口先から零れる、詩弦のため息。
あざける笑い声に包まれた教室に埋もれる、詩弦が頭をかきむしる音。
「おッ……おまえさあ、……本当にさあ……」
「……なに? なにが悪いの」
「―――普通に勝負すればわかってもらえただろう実力をエンタメに割いてどうするんだよ、そうやって
え、なんて??
「もういいッ!
デュエルだッ!」
「え。あっ、デュエル!」
角道詩弦 LP4000
「後攻のドローはくれてやる。
俺のターン! 先攻は最初のターン、デッキからカードを1枚ドローできず、戦闘も行えない。
ただし、相手からの妨害は受けにくくなる。
俺のコンボを止めてみろ!」
「無理だよそんなの!」
「できるやつはできるっ!
俺は手札から、《鰤っ子姫》を召喚!」
召喚された稚魚は投げキッスをすると、すぐさま泳いで去っていく。
「このカードを除外し、効果を発動。
デッキからレベル4以下の魚族モンスターを特殊召喚できる。こい、
レベル4、《揺海魚デッド・リーフ》!」
見たこともない魚のモンスターが現れた。
まるで稚魚を探すようにふらふらと泳ぎながら。目当ての彼女がいないと気づいて、ため息を吐くようにうなだれる。なんかちょっとかわいそうだ。
「デッドリーフのモンスター効果!」
だからなんだ、と問答無用で命令されたデッドリーフ。
「デッキから魚族モンスターを1体、墓地へ送る。俺が墓地に送るのは《キラー・ラブカ》。」
ぼそりと(ただでさえ絶滅危惧種なのに)とかなんとかデッドリーフはボヤき、口の中からカードを出して墓地に送る。
「魔法・罠カードを2枚伏せ、ターンエンド!」
「俺のターン、ドローっ!」
カードづかいが荒いなあ。
そう思おうと、ターンを渡されたなら動くしかない。
「俺は手札から、《
現れるのは、新しい
エンタメデュエルというマジック・ショーのアシスタント。これまでの俺ではありえないと思う、ちょっとオトナで可愛らしいモンスター。
「おまえ、いつのまに新しいカードを?」
「
ユニの効果を発動! 手札からレベル3以下の『EM』を1体、特殊召喚できる。
きてくれ、《
現れるのは相方のアシスタント。
「ふたりそろって、」
それぞれがポーズを決めて、
「かわいさ2倍!
パン、と紙吹雪が舞った。
しんと静まり返った教室が、ワッと盛りあがったり、……盛り、あがったり、
「あれっ?」
しない。白けている。
男の子たちの目がユニ、コンで釘づけにされたり、むしろ目を逸らされていたり、そんなふうに目の色を変えた男の子たちを女の子たちが冷たい目で見ていたり。
うん、わかる。
なんかやだよね、そういう目つき。
でも、ユニとコンは自信満々といった感じ。ポーズを変えず、ふふんと微笑んでいる。
やたらと胸を張って。
なんかムカつく。やけに余裕あるなあ?
「それで、おまえのターンは?」
声のほうへ振り返る。
目の前にいた詩弦が待っていた。
待っていた? あっ、そうだ、そうだった!
「おっ、終わりじゃない! コンの効果を発動!」
詩弦とのデュエル中だった!
ユニが(やれやれ)と両手のひらを上に向けている。そんなユニへとコンが(まあまあ)と話しかけながら、ひざをついて俺を示すようにポーズを改めた。
両腕を向けて、手のひらで示すポーズだ。
すると、コンに合わせて、ユニも似たポーズで俺を強調する。
「コンとユニを守備表示に変えることで、デッキからカードを1枚、手札にくわえる。
俺が手札にくわえるのは、」
(だらららら!)と俺を示す両手を振りながら、ユニとコンが明るく笑う。
さながらボンボンのついていないチアガールといった感じ。
「俺のエース、《オッドアイズ・ドラゴン》!」
(たーんっ!)と両腕を広げて、俺のオッドアイズを歓迎するように、さらに明るく笑った。
人型のモンスターだからか、こういうアクションが得意らしい。
「へえ。そうやって手札に持ってくるわけか。
守備も手筈も悪くない、リリース素材も用意できちゃあいる。序盤には十分すぎるな」
「へっ? そ、そお?」
なんかほめられた。
「えへへ。
カードを2枚伏せて、ターンエンドぉ……」
「俺のターン! ドローぉぉッ!!」
「うわっ!?」
詩弦は叫ぶ。
気を緩めた私をただすように、教室の空気を裂くような大声で。
「だが忘れちゃいないか。
このターンから、先攻プレイヤーは攻撃宣言ができるってことを。いくぞ遊夜!」
「え? あっ!?」
つまり、今のユニとコンは無防備だ。
私が魔法罠で守らないと、詩弦のモンスターに倒される!
「俺はデッドリーフで、守備力が一番低い《EMユニ》を攻撃する! まずは一匹目を食らえ!」
「た、食べるなっ! トラップ発動、《和睦の使者》!」
「っ!
「モンスターの破壊を無効として、俺へのダメージをゼロにする!」
現れた使者たちがデッドリーフを諫めるように立ちはだかる。
(ええ……?)と困った顔で詩弦のもとに戻るデッドリーフを見て、(ほっ)とユニが胸をなでおろ……なでおろ…………風船みたいに
けっこう
そこまで露出しちゃってさ。はずかしくないの?
「おまえ、わざわざそいつを守ったのか。
なら次の手はこうだ。モンスターを1体、手札から裏側守備表示で召喚する。
俺はこのままターンエンドだ」
「わたっ……」
羞恥心というものがないのか?
いいなあ、いいなあ! ほんとは私も
なんて嫉妬しながらドローしようとしたから、なのだろうか。思わず素が出かける。
「お。俺のターン、ドロー!」
慌てて口調を戻す。
女の子を見る目で私を見てほしくない。俺は俺だ。
「俺は、ユニとコンをリリース!」
そう宣言すると、ふたりは手を振り、(またね!)と、みんなとの別れを告げる。
「アドバンス召喚!
《オッドアイズ・ドラゴン》!」
「きたか、遊矢の、……遊夜のエースモンスター!」
「バトルだ!
オッドアイズで、詩弦の《揺海魚デッドリーフ》に攻撃!」
「この瞬間、墓地の!」
駆け寄ったオッドアイズの足元から、なぜか飛び出る影。
「えっ」
「《キラー・ラブカ》のモンスター効果を発動!」
影は獰猛な魚の牙を突き立て、
「自身を墓地から除外し、その攻撃を無効とする。
デッドリーフを守れ、《キラー・ラブカ》!」
オッドアイズに噛みついた。
痛がるオッドアイズは身をよじり、どたんと倒れてしまう。
「ああ、オッドアイズ!?」
「さらに、攻撃が無効となったモンスターの攻撃力を500ダウンさせる。これでオッドアイズの攻撃力は2500から2000ポイントにダウン。
そのうえ、おまえのフィールドにデッドリーフを攻撃可能なモンスターは存在しない……!」
「くっ、……俺は、」
言われたとおりだ。
俺のフィールドには、さっき召喚した《オッドアイズ・ドラゴン》しかいない。詩弦の《揺海魚デッドリーフ》を攻撃で倒したくても、攻撃できるモンスターはいない。
このままだと、詩弦のモンスターが増えてしまう。
なのに、なにもできない。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」
移り変わるターン。
「俺は手札から通常魔法、
《ワン・フォー・ワン》を発動!
手札のモンスター《ハリマンボウ》を捨て、デッキからレベル1のモンスターを1体、特殊召喚する。2体目の《鰤っ子姫》を特殊召喚!」
最初のターンとおなじこと、
「当然、効果は発動する。
このカードを除外し、デッキから2体目の《擁海魚デッドリーフ》を攻撃表示で特殊召喚する!
こい、デッドリーフ! 」
またしてもおなじ。
なんだ、エンタメする必要ないとか言いながら、詩弦のデュエルがつまらないじゃないか。
「この瞬間、墓地に送られた《ハリマンボウ》の効果を発動!」
「へ? ここで?」
「相手の場のモンスター1体の攻撃力を500さげる。
オッドアイズの攻撃力を、さらに1500にまで下げる!」
「オッドアイズ!?」
ちがった!
ちょっと面白いんじゃないか、今の?
じゃなくて、オッドアイズがまた魚に食べられてる!?
「続けて特殊召喚された2体目のデッドリーフの効果を発動し、2体目の《ハリマンボウ》を墓地へ送り、さらにオッドアイズの攻撃力をさげる。これでオッドアイズの攻撃力は、」
「たったの1000!? なにこれ!?」
なに。このコンボ?
どんどんオッドアイズの攻撃力が奪われてる!?
「これが俺の『ハリマンボウ コンボ』だ!
最後に、前のターンにセットしていたモンスター、レベル4の《シャクトパス》を反転召喚する。
バトル! まずは《シャクトパス》で、おまえのオッドアイズに攻撃!」
「まって、待って!?
俺は前のターンに伏せた速攻魔法《突進》を発動っ!
オッドアイズの攻撃力を700アップ、返り討ちだ!
スパイラル・フレイム!」
オッドアイズの決死の炎で焼き魚にされていく《シャクトパス》。
うん? でもあれ、なんかタコの足が生えているような……じゃあ、タコヤキ?
角道詩弦 LP3800
「《オッドアイズ・ドラゴン》の効果を発動!」
そんなことは置いておいて。
攻撃が通ったなら、このままいっきに!
「戦闘で破壊したモンスターの攻撃力の、半分のダメージを相手に与える! 《シャクトパス》の攻撃力は1700、その半分の850のダメージを、さっきの戦闘ダメージにくわえて―――」
「それが通ると思ったのか?」
ばっしゃあん、と。
教室の床から水があふれ出て、タコの足がオッドアイズに
「えっ、うそ。
なんで《シャクトパス》が生きてるの!?」
触手を操るタコ鮫が吸盤で貼りつき、ガジガジとオッドアイズのウロコを噛んでいる。
ぎゃあぎゃあと悲鳴をあげるオッドアイズ。
「《シャクトパス》のモンスター効果。
こいつが戦闘で破壊された時、その瞬間に戦闘を行ったモンスターへ装備される。
そう、『装備モンスターの攻撃力を0にする』装備カードとして蘇るのさ」
「うっそだろっ!?」
つまり、ここまでの攻撃は全部。
あらかじめ《シャクトパス》を召喚しておいて、そのうえで《ハリマンボウ》とかのカードでどんどんオッドアイズの攻撃力を奪って、俺があせって《突進》を発動するのを読んだうえで……えっと、えっと……!
「これならデッドリーフでも、オッドアイズを攻撃可能!
バトルを続行させてもらう! 1体目のデッドリーフで、もういちどオッドアイズを攻撃!」
「そんな、オッドアイズ!」
わけがわからないうちに、オッドアイズがまたも魚に噛まれていく。獲物を見つけた肉食魚は骨まで食らいつくと言うかのように、容赦なく。
ドラゴンが悲痛な声をあげながら倒れ伏し、光の粒子となって消えていった。勝ち誇る魚。ドラゴンといえば何者よりも強そうなのに、海辺のどこにでもいそうな魚にどんどん追い詰められて、
角道詩弦 LP3800
「2体目のデッドリーフで、遊夜に
さあ次はおまえだと、デッドリーフが牙をむく。
「させない!
速攻魔法、《イリュージョン・バルーン》!
俺のモンスターが破壊された場合、そのターンにいちど、デッキからカードを5枚めくる!
その中に『
無数の風船が私を守り、デッドリーフの行く手をはばむ。
デッドリーフは(ええ……またかよぉ?)とでも言いたげに舌打ちに似た動きをすると、(まあ待ってやるか……)と風船の周りを遊泳し始める。
こいつの直接攻撃を防ぐには、こいつよりも攻撃力か守備力が高いモンスターを、ただしい状態で特殊召喚しなければならない。
問題は5枚のカードの中から、そんなモンスターを引き当てられるかだ。
「まずは1枚目!
……《
どちらの数値も高くはない。
「2枚目!
……魔法カード、《マジカル・スター・イリュージョン》」
モンスターカードではない。
「3枚目!
……《一騎加勢》?」
また魔法カード?
いいや、まだだ、あと2枚ある!
「4枚目!
……罠カードで、《ドタキャン!》!?」
いやいや、
ここで強いモンスターをひかないと、本当にピンチなんだってば!
「頼む、5枚目っ!」
目をつぶって、いきおいに任せてカードをめくる。
恐る恐る、瞳を開く。
「……やった、《
こいつを守備表示で特殊召喚!」
風船のなかから現れる、
あきらかに風船より大きなものが出てきたからなのか、(ふぁっ!?)と
「守備力2000? 意外と高いな」
頬をヒクヒクと
よほど想定外だったのか、ちょっと笑っているようにも見える。
「なら、俺はバトルを終了する。
ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー!」
これで場にモンスターが1体。
しかも守備力が高い。なにが起きても、もうちょっと戦えそうだ。
「手札から《死者蘇生》を発動!
墓地のオッドアイズを特殊召喚する!」
ボロボロの体を(あたたた……)と痛がりながら起こすオッドアイズ。
あちらこちらが傷だらけで見ていられないけれど、それでもと私のために立ちあがってくれる姿はうれしい。
「バトルだっ!
オッドアイズで詩弦のデッドリーフを攻撃!」
お返しだと噛みつくオッドアイズ。
暴れるデッドリーフを一度放り投げ、無防備に堕ちてきたところを(ごくん)と呑みこむ。
角道詩弦 LP2800
「よしっ! これでオッドアイズの効果を、」
「発動させると思ったか!」
呑みこんだはずなのに、(ごぼっ?)と唾をあふれさせる。
「トラップ発動、《激流蘇生》!」
どばどばとあふれる唾、……いや海水。
(おぼぼぼ!?)と鳴き声もあげられないまま溺れかけるオッドアイズ。
(げぼっ!)と喉を逆流して口から吐き出されたデッドリーフは(死ぬかと思った! 死ぬかと思ったッ!)と、汗を流していた。
「とお、らないの!?」
「戦闘・効果で破壊された瞬間、そいつを即座に復活させ、1体につき500ダメージを与える。
くらえ、500のダメージを!」
「うひゃあっ!?」
角道詩弦 LP2800
改めて特殊召喚されたデッドリーフを、
(それはこっちのセリフだ、溺れて死ぬかと思った!)
そう
「続けて特殊召喚されたデッドリーフの効果で、デッキから
ふたたびオッドアイズの攻撃力を2000にまで下げ……さあ、これでまた、遊夜のフィールドには攻撃できるモンスターがいなくなった」
「へ? あっ。」
またも、わけがわからないうちに。
おたがいのフィールドの状況が元通りにされていた。
攻撃できるモンスターは《オッドアイズ・ドラゴン》のみ。
墓地には攻撃を無効にする《キラー・ラプカ》を送った《揺海魚デッドリーフ》。
「た、ターンエンド……」
「俺のターン、ドロー!」
まるで俺のデュエルに、なんの意味もなかったかのような。
「俺は場に伏せていた、
永続罠《バブル・ブリンガー》を発動!
このカードを墓地に送り、レベル3以下、かつ同名の魚族モンスター2体を墓地から選び、フィールドで発動・適用される効果をすべて無効にしたうえで復活させる。
よみがえれ、2体の《ハリマンボウ》!」
詩弦のフィールドには、モンスターが4体もならんでいた。
「でも、攻撃力はみんな1500!」
デュエルは喧嘩とは違う。
数をそろえて強い相手を袋叩きにする、なんて真似はできない。
「裏側守備表示の子はどうだか知らないけど、オッドアイズの敵じゃあ、」
「俺は1体の《ハリマンボウ》をリリース!」
「リリース? ……アドバンス召喚!?」
「このデッキの真の
オッドアイズを弱らせてきた《ハリマンボウ》を捕食し、
「よりさらに
コイツがくるぜ、《シャークラーケン》!」
攻撃力2400。
オッドアイズの2500に届かない攻撃力。なのに、
「こいつは自分フィールドの水属性モンスター1体を捕食することで特殊召喚できる。
続けて《ハリマンボウ》の効果を発動させ、またオッドアイズの攻撃力を500さげる!」
「詩弦の《シャークラーケン》の攻撃力は2400ってことは、まずいっ!」
この100の差を、いっきに
「残った《ハリマンボウ》にマジックカード、
《アクア・ジェット》を発動!」
それだけで終わらせるかと、詩弦のコンボは続いていく。
「対象モンスターの攻撃力を1000アップさせる。これで《ハリマンボウ》の攻撃力は、」
「オッドアイズの元々の攻撃力とおなじ2500!?」
今の攻撃力が2000しかないオッドアイズに勝る、攻撃力2500と2400の強いモンスターに、オッドアイズが倒されれば直接俺に襲いかかる1500のモンスターが2体。こんなの、全員から攻撃されたら俺が負ける!
いや、そんなことだけじゃあない。
「バトルだッ!
俺は《シャークラーケン》で《
《EMバリアバルーンバク》の守備力は2000、《シャークラーケン》の攻撃力2400の敵じゃあない。噛み砕け、《シャークラーケン》!
「あ、ああ、」
またしても。レベル3の《ハリマンボウ》に、
「続けて《ハリマンボウ》で、
遊夜の《オッドアイズ・ドラゴン》を攻撃!」
「おっどあい、」
オッドアイズを噛みつかれる。
今度こそは喉元に噛みついて、とどめを刺されている。
「ず……」
なにもできない。
あれだけ悲鳴をあげられても、私には、なにも。
角道詩弦 LP2800
「俺はこれで、バトルフェイズを終了する。
デッドリーフ2体で追撃はできても、おまえの墓地には《
そいつの効果を知らないわけじゃあない。
効果で手札を1枚捨てるだけで守備力2000の壁を何度も復活されちゃあ、そいつをどう利用されるか考えるだけで面倒、
ターンは終わらせてもらう」
一方の魚たちは楽しげだ。
(次の獲物は誰だ)(次に活躍するのは俺だ)(いいや俺こそが)
わいわいと楽しそうに語りあっている。囲まれたデッドリーフたちが(俺ら、めっちゃ仕事したよな? 休んでいいんだよな??)と疲れた顔で彼らを見あげていながらも、どこか誇らしげだ。
こんな、モンスターを傷つけるようなデュエルなのに。
ほかならぬモンスターたちが、いちばん楽しそうなのだ。
「俺のっ、俺のターン! ドローっ!」
もう、わけがわからない。
実力は彼のほうが強い、というより巧みだ。
そんなことはわかりきっている。彼の戦い方が相手のモンスターを弱らせ、痛めつけるものばかりだとしても、コンボによって攻撃力の弱いカードも戦える状況へと場を整えて、デュエルのペースを先に握っていることがより理解できない。
どうして、なぜ。
モンスターを傷つけるやり方で、
「俺は今ドローした、
《シャッフル・リボーン》を発動!
墓地のオッドアイズを、効果を無効にして、俺のフィールドに特殊召喚する。私のターンが終わると除外させられてしまう効果だけど、けれど、でもっ……!
もどってこいっ、オッドアイズ!」
全身傷だらけ。
生まれもった攻撃力が高いドラゴンであるはずなのに、まるで私は。
オッドアイズのためには、なにもしてやれていない。
「さっきからごめんね、オッドアイズ……」
オッドアイズが、私の頬をさするように頭を寄せる。
気にしなくていい、そう言ってくれたのだろうか。
「……なにしてんだ、おまえ。」
苛立ちを隠さない声が、した。
「いつまでオッドアイズ
俺は、《ハリマンボウ》やデッドリーフ
人差し指で、詩弦は魚たちを示す。
「仲間たちがあって、はじめて強くなれる。
コイツらも、デュエリストである俺たちも!
カード1枚でデッキが組める訳じゃあるまいに、何回オッドアイズばかり出すんだ!?」
「オッドアイズは、俺の仲間だ!
死んでほしくないのは当然じゃないか!」
「ほかの
静かに。
あれだけ怒った声を出しておきながら、急に声を抑えて、
「おまえの墓地を見ろ。
おまえとオッドアイズのために、一体どれだけのモンスターが墓地に送られた?
見りゃあわかるだろ、わからないのか?」
何度も、何度も強調する。
魚たちの目も、おなじように訴える。
「あいつらが仲間じゃないなら。
オッドアイズのための、ただの生け贄なら、」
―――おまえのデッキの
「さっさとデッキを捨てろ。
オッドアイズだけ大事に持って、デュエルを捨て、死ぬまでデュエルをサボればいい。
そうすれば、オッドアイズを傷つけることも、こうやってズタボロになったオッドアイズに心を痛めることもない。」
見たこともない戦術。
予想の外を越えるコンボ。
私にないものを兼ねそなえる、あきらかに強いはずの相手が。
「第一、エンタメデュエルをすると言いながら。
おなじ芸ばかりを繰り返して、だれが面白いなんて言ってくれると思う?
デュエルもエンタメも中途半端。
そんな状態のくせに、エンタメを誰も求めてはいない時にまでエンタメをやりたがる。
だから、遊夜。おまえは馬鹿にされるんだ。」
おなじカードを使いまわしているだけなのに。
ぜんぜん知らない立ち回りで、相手の動きを察したうえで翻弄する。
どこまでいっても真っ当なデュエルなのに、そんなデュエルをする相手が。
「場所も時間も、状況《空気》も考えない。
観客のこと、相手の気持ちまで考えていない。
そういうのを『変な子』って言うんだろ」
「……ッ!」
「本気でエンタメをする気なら、」
自分よりも
エンタメデュエルをすることが、いちばん得意そうだった。
「遊夜、おまえが変われ!
いつまでも『今までどおり』で、おまえが馬鹿にされない『今』が来るわけないだろ!
ひとを笑わせたいなら、おまえは―――!」
「それはッ!」
だから納得できない。
おまえがそれを言うな。あなたに言われたくない。
「それは、ちがう!」
俺は変わった。変わっていたんだ。
ただ、その変化は「自分の力でどうこう」だなんていう、立派なものじゃあない。
「だって、そうだろ、」
おまえが、あなたが来たから。ああ、そうだ、
「おまえがいたから!
あなたがいるからっ……変えたのは詩弦だろっ!」
「は?」
「詩弦がいたから、私は学校に来れたんだよっ!」
私からすれば。
私にないものを、すでに彼は持っている。
そんなひとになにを言われても、「へえすごいですね」で終わり。彼の真似なんてできない。考え方を聴いても頭の使い方から真似るなんてできない。パパのエンタメデュエルをモノにできないのとおなじだ。
そうだ、彼の真似なんてできない。
引きこもった人間相手に、友達でもないのに毎日ずっと宿題を渡しにきて、勉強まで教えてくれるなんて真似をするクラスメイトが何人いた? そういうのって、私にも真似ができるのか?
できない。できっこない。
いちいち面倒を見るなんてこと、やれるわけないじゃないか。
「家の中で、ひとりきりでも。
詩弦がくるなら、さみしくないって、」
デュエリストとしても、人間としても。
最初から『心の強さ』を持っているかのような詩弦に、私が勝てるわけがない。
「ずっと、ずっと、……楽しかったんだよ?」
いつだってそうだった。
デュエルが強いクラスメイトに負けては馬鹿にされ、パパとくらべては馬鹿にされ、エンタメをしてもエンタメをしたこと自体を笑われて、「おかしな子だ」「へんなやつだ」と白い目で見られる。
パパの教えなんて役に立たなくて、でもパパの教えを信じたかった。
辛いときこそ笑え。でも、空気を読まずに笑ったなら気持ち悪がられる。
振り子のように感情を大きく揺らせ。揺らしたから余計に「へんな子」と言われる。
真に受ければ真に受けるほど、どんどんみんなとの距離が離れていく。そうだとしても、パパは舞網市では屈指のエンタメデュエリストなのだから、きっとパパのほうが正しい……はずなのに。
目の前のあなたは、
どんどん、私との距離を詰めていった。
「なあ、ひどいだろ。
そこまで言うことないじゃん。
俺だって、私だって、強くなりたかったよ。
パパみたいなエンタメデュエリストになりたくて。詩弦みたいに、いろんなコンボを思いついて、いろんな方法でカードを使い
カードが弱い。戦い方が弱い。
心が弱い、だったら誰かの真似をして強がるしかなかった。
なのに、パパやママの真似すら自分を変えるためには、まだ足りていないのだと彼は言う。
「どうすれば、強くなれるんだよ。
教えてよ、ねえ……どうしたら……」
「負けてみろ。」
「え?」
返ってきたのは。
聞くだけでトンチンカンな、よくわからない答えだった。
「負けて、負け方を覚えてみろ。
負け方を覚えたうえで、自分のやりたいことをやるためのデッキを組みあげていく。
デュエルも、どんなことでも同じ。
間違え方がわからねえのに、間違え方が正解を教えてくれるわけないだろ。」
「間違え方が、正解を……?」
よく、わからない。本当に。
「何事も転べば、いつかは進み方がわかる。
自転車とかそうだろ。今回くらい、
「ふざけてるの?」
「そうやってまた変われないのか?」
「変われなっ、」
それは、ずるい。
変われないのかと言われて、「変われません」と答えてしまえば、私はエンタメデュエリストに変われるかどうかだって「なれません」と答えるしかない。
なるほど。そう言えるうちは、なにも変わっていない。
確かに変われるはずがない、けれど納得がいかない、
「負ける覚悟で、って……」
勝ちたいのに。
『負けないとわからないもの』があるという。
負ける度胸がないと、進めない。
そうだ、詩弦のデュエルだってそうじゃないか。
モンスターが1回の戦闘で負けても、2回3回と食いついてきたじゃないか。
詩弦がそうと言うのなら。自分よりも強くて、はるかに先を行くあなたがそう言うのなら。
「オッドアイズ。
これで本当に負けたら、ごめんね。」
うなずいて鳴くオッドアイズ。
「私は、墓地の《シャッフル・リボーン》の効果を発動。このカードを除外して、フィールドのカード1枚をデッキに戻して、1枚ドローする。
私が戻すのは、」
指さすカードは、
「《オッドアイズ・ドラゴン》!」
私のデッキで、いちばん強いはずのモンスター。
いくらエンドフェイズに《シャッフル・リボーン》の代償を受けるのだとしても、今すぐ《シャークラーケン》を倒せるはずのカードを戻す。これは最悪の間違いだから、
「効果で私は、1枚ドローできる!
いくよ、オッドアイズ……みんな!」
思い切って、あえて間違えてみて。
新しいデュエルの戦い方を見つけてみよう。
それこそ振り子のように、まずは後ろに下がってから、
「私は絶対、変わってみせる!
前に進みたい! 進み方を知ってやるっ!
ドローっ!」
一歩、前へ!
「遊夜のドローが、虹を描いた……?」
私が引いたカードは。
ユニやコンとおなじ、私の知らないカード。
「我は、……私は。
まずは、《
オッドアイズが応えてくれた。それだけじゃない。
シルクハットをかぶったカバが現れ、
「効果、発動!
私は通常の召喚にくわえて、一度だけ、レベル5以上のモンスターをアドバンス召喚できる。
でも、これだけじゃない。」
2本足で立ちあがってから帽子をとり、
その先には、ひとりのお姫様がいた。
「手札から《
「これで遊夜の場にはモンスターが2体、って。
おい、まさか、『オッドアイズを戻してオッドアイズを引いた』わけじゃないだろうな!?」
「……レディース・エーン・ジェントルメーン!」
その答え合わせは、今すぐにやろう。
新しい自分を、オッドアイズも見せたがっているから。だれに見せつけるわけでもない、だれかに見せることで、自分を確かめたいから。
「私が引けたカードは!
私のエースモンスター、
《オッドアイズ・ドラゴン》が進化した姿。
私の
自分の限界を、間違いを乗り越えたいから!
「私は、
《
《
役目を終え、舞台袖へと消えるモンスターたち。
彼らに導かれ、新たに舞台の幕から現れろ。
ほんの一歩進むだけでいい。
「アドバンス召喚!」
そうだ。一歩、前へ。
一歩、
「《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》!」
雄々しく吠えるオッドアイズ。
背中の角は翼に変わり、にわとりの雛を思わせる図体は成長した。
なにもかもが生まれ変わった赤い龍は今、見果てぬ道の先をめがけて突き進む!
「それが、遊矢の。
……いや、遊夜のオッドアイズの新しい姿!!」
「私は《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》の効果を発動!
このカードがアドバンス召喚に成功した場合、相手フィールドのモンスター1体を破壊できる!
対象は詩弦の《シャークラーケン》!
オーバー・アクション・フォース!!」
かつての火炎放射よりも強く、炎に乱れのない息吹が《シャークラーケン》の表皮を焼く。
「破壊に成功した、この瞬間!
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを、相手プレイヤーに与える!」
「……やるじゃねえか。
かっとびやがったな、この野郎」
詩弦の《シャークラーケン》の攻撃力は2400。
今の詩弦のライフポイントは2800。詩弦の魔法罠カードはゼロ。
オッドアイズの効果や攻撃を耐えるすべがない。爆発と共に《シャークラーケン》が消えたあとは、残り
角道詩弦 LP400
「バトルフェイズ!
これで終わりだ、《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》!
攻撃力2500の《ハリマンボウ》に攻撃!
「―――なんて言葉
「えっ?」
「墓地にある、
《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》の攻撃を無効にし、その攻撃力を500ダウンさせる」
「……あっ!?」
忘れた!
そういえば、そのカード、
いつだったかに墓地に送られていたような……!?
「二度やらかしたことを、三度もやらかすなッ!
俺のターン、ドロー!」
詩弦はドローしたカードを見つめると、そのままデュエルディスクに叩きつけた。
「手札から《ディープ・スィーパー》を召喚。
このカードをリリースして、効果を発動。
相手の魔法・罠カード1枚を破壊する!」
「そんな、《EMピンチヘルパー》が!?」
「そういうカードだと思っちゃあいたさ。
わざわざ手札をすべて使いきり、墓地の《
なら、最後の魔法・罠カードの1枚は『攻撃を防ぐトラップ』!
オッドアイズがやられても、次のチャンスをつかみに
嘘でしょ、全部見抜かれてたの!?
「これで終わりだ!
攻撃力2500の《ハリマンボウ》で、
攻撃力2500になった《オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン》を攻撃!」
「オッドアイズっ!?」
「2体の《揺海魚デッドリーフ》で
遊夜のライフは残り1900、こいつらの攻撃力は1500ずつ!
合計3000ダメージで遊夜ッ、今回はおまえの負けだ!」
瞬間、だれかに背中を突かれた。
思わず振り返ると、そこには《
両手の人差し指で彼女自身を示して(にぱっ)と笑っていて。
……なにが言いたいのだろう、もうとっくにデュエルは私の負けになりそうなのに。……いや、ちがう。そっか、そういうことなの!?
「―――墓地の、
《
角道詩弦 LP400
「はい?」
「墓地の《
「…………マジで?」
ポカンとした顔で私を見る詩弦。
うん、マジなんだ。さっきユニが私の肩を
「ありがとう、ユニ。」
「……俺はターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」
もうエンタメってる余裕がない。
へとへとだ。目の前がくらくら、ばちばちと、お鍋の中でかき混ぜられるスープみたいにきらめいて、よどんで、ぐるぐると世界が回り始めている。
でも、私がドローしたカードは言うのだ。
「私は手札から
最後まで楽しめ、って。
「詩弦はレベルをひとつ宣言して、私は、わたしはぁ、えっとぉ……?」
「通常召喚できるモンスターを引き当てるまでデッキをめくり、確認したモンスターが宣言したレベルであれば墓地へ送り、宣言したレベルでなければ特殊召喚できる」
「知ってるの?」
「宣言するレベルは『7』。
デッキに眠っているはずの《オッドアイズ・ドラゴン》のレベルとおなじレベルにする!」
「えぇ? それはどうかなぁ?」
レベル4とかでいいんじゃないかな。
攻撃力とか守備力とか、1500を越えられると今の詩弦のフィールドじゃあ難しいだろうし。
……でも、それだと勝負がつかないんだよね。ええと、最低でも1900以上の攻撃力がないと今のターンじゃあ勝てなくて、でもそんなの何枚もいないから、当然1ターン、いや2ターンくらいは詩弦に時間をあげちゃうわけで、うんと。
とにかく、デッキに戻した《オッドアイズ・ドラゴン》じゃあダメだ。
「じゃあ、いくよ。
たぶん今日最後の
これ、勝ったかも。
「レベル『4』だから、
《
「ん? …………あっ!?」
呼び出された紳士服のバッタを知っていたのか、詩弦が驚いた顔で固まる。
ガンバッターは私に、
「《EMガンバッター》の効果を発動!
自分フィールドの『EM』をリリースして、リリースしたモンスターのレベルの100倍のダメージを相手に与える。私は《EMガンバッター》自身を墓地に送る!
ガンバッターのレベルは4、だから400のダメージで、」
角道詩弦 LP 0
「私の勝ちっ!」
やったあ、と、私もジャンプして。
ぷつん、と。
どこでもない
この日から。
みんなの
男の子、榊遊夜。
舞網市最高のデュエリストである榊遊勝の一番弟子であり、子供であり、変な子……だった。
今の私は。
女の子、榊遊夜。
みんなを怖がって男の子のふりで逃げていた、
エンタメできるのかは、まだわからない。
まだパパの真似ばかりで、場の雰囲気を読んで普通のデュエルをすることが増えたけれど。
それと同じくらい、詩弦のそばにいる時間が増えた。
「……おい。あんま抱きつくな。暑い」
「いいじゃん。元から熱いんだし」
今日は夏日。
そろそろ舞網ドームで
「
「えっ、していいの?」
「へんな話で
冗談にしていいネタじゃあないだろ、それ。」
「……そ、そうだよね、ごめんね」
「……ボケをつっこんだ俺もたいがい……」
ぐでっ。
と、二人そろって動けない。
背中に寄りかかって私が抱きついたまま、離れたくても離れられない。抱きつかれた詩弦は暑さにやられて、自分の机に伏せたまま動けない。
ふたりそろって、まるで物干しの布団だ。
「詩弦ぅー」
「ん?」
「あつい。」
「そりゃそ、……そうだな」
「嫌なら嫌って言ってよ」
「いいのかよ、それ」
「やっぱやだ」
「おん」
ぽむ。
と、頭に手を乗せられた。
「……まあ、ハグくらいは普通だろ多分」
「どうしたの?」
「こっちの話」
まあ、
とかなんとか言いながら、背中から寄りかかる私を受け止め続けてくれている。
そう、俺を、私を。
すべて受け止めてくれたのは、詩弦だ。
「……ふへへ」
何も言わず、まだ受け止めてくれる。
頭もなでてくれる。俺が私に戻る前から、私を支えてくれたひと。
ひどいデュエルをされたけど、思い出すたびに
あんな負けても「楽しかった」と言えるデュエルなんて、生まれて初めて
余計に印象に残ってしまったのだ。
負けて馬鹿にされるとか。
カードが弱くて馬鹿にされるとか。
そういうの、まったくないなんて思えなくて。
本当に「しない」と知った瞬間、心の
彼がいないと収まらない気分になってしまう。
しっくりこない、物足りない、いまいち満足しきれない、安心できない、よくわからないけども不安になる。
ようやく気づいた。
やっぱり、
みんなに馬鹿にされるのは怖い。
私たちが変わったからって、学校のみんなまでは変わらない。みんなのだれかしらが弱いカードを、負けた相手を馬鹿にする態度を変えたわけではないのだ。詩弦が言うように、実は臆病だ。
そして、ひょっとしなくっても、けっこう薄情だ。
ああやって、だれかを笑わないと安心できないから。
そんなことを私にしないのは、詩弦くらいで。
「きつい。」
「え、あっ、ごめんね?」
だから、私は抱きしめる強さを加減できない。
放課後になれば彼はどこかに行ってしまうなんて、わりと普通であたりまえな日常が我慢ならない。
ああ、こんな時間が、ずっと続けば良いな。
なんて、いつもどおりを求めたから。
私は代償を払わされたんだ。
―――榊遊勝の、パパの失踪事件で。
今回の話は?
-
いいね!
-
まだまだだね…