地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。   作:ウェットルver.2

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あの夕日を観ていたら、遊夜(おまえ)が来るような気がしてな

『榊遊夜ちゃん、今のお気持ちは?』

 

 なんで。

 

『お父さんが失踪した事件について、遊夜ちゃんが知っていることは!?』

 

 どうして。

 

『遊夜ちゃん、君のお父さんがストロング石島とのデュエルから()()()件について取材を――』

 

 どうすれば?

 近寄るマイク。飛んでくるツバ。

 フラッシュの光、追いかけてくる()()。 獲物を見定めて追いかけてくる、獣のような、ひとのかたちをした新聞記者(バケモノ)たち。

 

 どれから答えればいいのか、わからない。

 どれから逃げればいいのか、わからない。

 立ち止まる私に近寄る記者たちのせいで、家に逃げることすらできない。

 

『遊夜ちゃん、だんまりじゃわかんないよ!?』

『なんでもいいんだよ、どこか行ってたとか!』

 

 笑顔のかたちをした不気味な表情に焦りが見え、だんだんと質問が()()()()に変わっていく。

 

 第一回、舞網チャンピオンシップ。

 プロ部門で出場するはずの、突如として行方を眩ませた榊遊勝、私のパパの行方を求めて、たくさんのマスコミが私を追いかけてきた。

 パパがいなくなったあの日、ママが『ガキ相手にガンかけてんじゃねえぞオラァ!』なんて叫んで、私を逃がしてくれた。けれども今、ママはいない。

 怖くて脚が竦みそうでも、心は素直だった。

 

『あっ、待って!』

『逃げるな!』

 

 走る私を追いかける、大きな影たち。

 

 誰が味方なのか、わからない。

 誰が、本気で私を気遣ってくれたのかさえも。

 スポットライトのような、ストロボの光。それが私の行く道を照らしている。

 

 カメラは止まらない。

 ずっと視線は私に釘付け。

 エンターテイナーとして、間違いなく喜ぶべき瞬間なのかもしれないけれども、

 

「パパ、」

 

 怖い。

 

「ママ、」

 

 こわい。

 

「詩弦っ……!」

 

 こわいよ、

 

()()

 ()()()()()()()()!」

 

 これもエンタメなら、怖くて嫌だ。

 こんなものが私の未来なら、進みたくない。

 私が自由に進もうとする道は、気味が悪い興味と関心で照らされている。

 

「たすけてよ、パパ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 でも、いない。

 どれだけ叫んでも、助けに来てくれない。

 パパも、ママもいない。私の心に浮かぶ、最後のよりどころは一人だけだった。

 

「助けて、詩弦っ!」

 

 私は信じる。誰よりも信じたいひとを。

 この方向へ走れば、きっと彼がいる。いないとおかしいんだ、だって、詩弦は。

 涙で目の前の風景がにじんで、何も見えない。まだ、誰かが追いかけてくる音が聞こえる。

 

 なにも見たくない。聞きたくない。

 私が見たいものは、パパが失踪するより前。

 パパが私をエンタメデュエルの特訓のために、河原へと連れて行った日の。

 

 パパと詩弦が。

 ふたりがデュエルをした、あの時の―――!

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そうだ、何日か前のこと。

 私がパパに、河原でエンタメデュエルのための訓練をさせてもらっていたとき。

 なにを思って河原にまで来ていたのだろうか、詩弦が私たちの様子を遠巻きに見ていた。

 

「あ、詩弦!」

「……おう」

 

 手を振って挨拶をやりあったはいいものの、話に困った。私には詩弦のいる理由を思いつけず、まず、なにを、どう問いかければいいのかがわからなかった。

 

「え、えっと、なんでいたの?」

 

 ……なんでいたんだろう。

 うれしいけれど、ちょっと不思議だった。

 公園でもなければゲームセンターでもないし、カードショップでもない、なにもない河原にまで来て、彼はなにをしようとしたのだか、さっぱりわからなかった。

 

 そんなことを言ってしまえば、わざわざ河原に行ってまでエンタメデュエルのための特訓をするだなんて、冷静に考えると意味がわからないのだけれども。

 とにかく、()()()()()パパの考えあってのことであるはずで、()()()()()()()意図を察しようもなく、なんだか私は話しかけづらかった。

 

「はあ? ……気分だよ」

「気分かぁ」

 

 じゃあ、しょうがないかな。

 散歩で偶然来たとか、そんなところなのだろう。

 

「君が詩弦くんか」

 

 パパが詩弦に話しかける。

 

「初めまして。

 私は(さかき)遊勝(ゆうしょう)、遊夜の父親だ」

「……どうも。初めまして、角道(かくどう)詩弦(しづる)です」

 

 なぜか、詩弦の顔が険しくなった。

 

「いじめを解決してくれたのだろう?

 すまないね、本当にありがとう」

 

 お礼を言うパパ。

 詩弦はパパを見つめ、パパの下げられた頭を見て、首を横に振る。

 

「まともな手段は使っちゃいない。です。

 力で黙らせた。力の差を気づかせた。それと同じです」

 

 パパがなにかを言おうとしたのを、詩弦が手で止めるように伝えた。

 

「あそこまでされなきゃあ、自分(テメェ)の臆病さにも気づけない。

 ずいぶんと御大層(ごたいそう)な高いプライドのわりに、自分(テメェ)の臆病さには簡単に従う。

 自分(テメェ)を強くしようともしない。()()()()を捨てられない。

 そんなんだから悪口を言う(ヒマ)がある、自分(テメェ)を甘やかす。

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう吹き込んだようなものです。

 高潔なエンターテイナーを志す人間に教えていい態度じゃあない。」

「それは……」

 

 パパも思うところがあるのか、口をつぐんで黙ってしまった。

 詩弦の主張はともかく、みんなのからかいは弱まったことが詩弦のやり方の正しさを証明してしまっている。クラスメイトの笑顔は守らず、守る笑顔は私の笑顔だけが選ばれた。

 だから私は詩弦に救われた。

 

 詩弦から私への、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。けれども、

 

「つまらねぇ悪口ほど、意味がねぇのに無駄に目立つ。

 それを聞き流すならまだしも遊夜が目指すエンタメには、()()()()()()()の笑顔もある。」

 

 榊遊夜のエンタメとは、ちがう!

 なんて言って、詩弦は私を引き離そうとしている。

 なんとなく私はそう感じた。確かに彼の姿勢は、ひとを見下す姿勢でもある。

 

「ああ、確かに。

 それこそが遊夜の目指すエンタメデュエルの道だ」

 

 軽蔑はよくない。

 だって、私はみんなを笑顔にしたいのだから。でも、

 

「だとしても、君が救ったことに変わりはないだろう?」

 

 ぐう、と、今度は詩弦が黙った。

 パパのほうが正しい。詩弦がみんなを拒絶する姿勢の話と、詩弦から教わった度胸あるデュエルの楽しみ方の話は、まったく別の話だ。

 

 詩弦から私が受け取った、熱く、暖かなものについての話ともちがう。

 あれこれ考えずに、私たちの気持ちを受け取ってほしいものだ。

 

「ところでの話なのだがね。

 君はなぜ河原に来たくなったんだい?」

「……………………遊夜がいるような気がして」

「遊夜、普段からここに来ていたのかい?」

 

 えっ?

 

「いや、べつに、ぜんぜん」

「え? そうだったのか?」

 

 パパは驚いたのか、ぽかんと口を開けていた。

 

「……ただの山勘ですので……お気になさるほどのものでもねぇ……ないです」

 

 詩弦、つまり私に会いたかったのか。

 なんだかうれしいけれども、なんか微妙な空気ができた気がする。

 

「……あー、……おほん!

 君は、エンタメに興味がおありかな?」

 

 詩弦に問いかけるパパ。

 さすがだ、こんな雰囲気でもペースは崩さない。

 

「ある。でも、教わるつもりはないです」

「その理由は……お訊ねしてもいいかな?」

()()()()()()()()()()()()

 教える側の趣味嗜好の混ざった指導かどうか、こっちが区別をつけきれないのに信用してデッキを見せるつもりもない……です」

「ふむ、しっかりしているね」

 

 一息ついて、詩弦は続ける。

 

「デッキは俺の人生の、いや。

 デュエリストの人生の結晶だ。その中身にああすればいい、こうすればいいと意見されること……()()()()()()()()命令が指導だとされれば、たまったものじゃない。

 その場合は、そいつが自分で俺のデッキを真似て組んで、勝手に満足してくれ。

 そのくらい、まだ信用しきれていない。」

 

 あ、だんだん丁寧な言葉遣いをやめてきてる。

 エンタメデュエルを教わりたくない、というのを強調しているのが分かる。

 ()()()()を信じてない気持ちはよくわかった。……どうして、そうなのだろう。

 

 さみしい、かもしれない。

 

「確かに、遊勝塾の見学でもないのに『私を信用しろ』というのは無理がある。

 だが、しかし、そうだな……たとえば、代わりにストロング石島から教わるとしても?」

「なんで、そこでストロング石島……!?」

 

 ストロング石島。

 たまにパパが話題に出すプロデュエリストだ。

 なんでも、パパとは方向性がちがうけれども、舞網市での基本的(スタンダード)な、だれにでも理解されやすい楽しさ(エンタメ)を提供できるプロとしては、パパに負けないものがあるだとか、どうだとか。*1

 

「……だとしても、です。

 俺の目指す最強デュエリストの道は、いつでも目の前に見えている。

 エンタメデュエルを真似るとしても、それは()()()()()()()()()

「では、君のエンタメデュエルを見せてくれないかな。実は、遊夜から話は聞いていてね」

 

 そう、私が話をしたのである。話をしないわけがない。

 あそこまでカードを使い熟す姿を目に焼きつけられて、なにひとつも興奮せずにパパに言わないなんて、さすがにやれる気がしない。

 そのくらいに楽しいデュエルだったのだから、なんていうか、彼氏……ではまだなくって、私の友達のデュエルを自慢したいのは当然だと思う。

 そう思うのだけれども、なぜだろう。

 

「エンタメデュエル……そんなつもりは、なかったのですが」

 

 なんか悪いことをしちゃった気がする。

 ちらりと私を見てからパパに返事をした詩弦は、「まあ、なんかの齟齬(そご)か誤解だろ」とぼやくと、デュエルディスクを構えた。……ソゴってなんだろ?

 

「おお! デュエルを受けてくれるのかい?」

「……はい。」

 

「デュエル!」

 

 パパと詩弦の声が重なり。

 河原は一瞬にして、エンタメデュエルのフィールドへと姿を変えた―――!

 

 

榊遊勝 LP4000

VS

角道詩弦 LP4000

 

 

「先攻は俺がもらう。俺のターン!

 俺は手札からモンスターを1体裏側守備表示で召喚する。

 カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

「私のターン。ドロー!

 では、詩弦くん。私から攻めさせてもらおう!」

 

 あ、そうか。

 先攻だとドローと攻撃ができないから、ちょっと後攻が戦いやすいのか。

 あの日に詩弦が言っていたことの意味がわかった気がする。

 

「私は手札から、

 《EMレビュー・ダンサー》を特殊召喚。

 このモンスターは私の場にモンスターがいない場合、手札から特殊召喚ができる。

 そして《EMレビュー・ダンサー》は、1体で2体ぶんのリリース素材にできる。

 《EMレビュー・ダンサー》をリリースして……」

 

 派手な衣装の手品アシスタントが手を振って、消えていく。

 

「さあ! 私のエンタメの相棒を紹介しよう!」

 

 そう、手品には、プロの手品師(マジシャン)が必要だ。

 私のパパ、榊遊勝の切り札は、

 

「アドバンス召喚!

 《EMスカイ・マジシャン》!

 

 舞網市を熱狂させた、伝説のモンスター!

 

「バトルだ!

 《EMスカイ・マジシャン》で、詩弦くんの裏側表示のモンスターに攻撃!」

 

 あっけなく破壊される詩弦のモンスター。

 裏側守備表示から露わになるカードは、ただのマンボウ。

 どこも強そうじゃあない。あの《ハリマンボウ》よりも弱そうだ。

 

 やっぱりパパには、いいや、プロデュエリストには勝てないだろうな。

 だって私たち、まだ子供だし。そう思って、詩弦の顔を見る。

 

「へっ?」

 

 思わず声が出た。

 だって、だって、詩弦の口元は、

 

「―――ありがとうよ。攻撃してくれてよォ!」

 

 ()()()()()()()()()

 

「なに?」

「この瞬間!

 俺の《素早いマンボウ》は破壊される。

 破壊されたことで、《素早いマンボウ》の効果が発動する。

 その効果は、デッキから魚族モンスター1体を墓地へ埋葬することが許可され、デッキの同名モンスター、《素早いマンボウ》をフィールドに召喚できるリクルート効果!」

 

 デッキから、魚族を墓地に送る? ……あっ!?

 

「俺はデッキから《ハリマンボウ》を墓地へ送り、デッキにいる2体目の《素早いマンボウ》を表側守備表示で特殊召喚する!」

 

 そう、この効果なら。

 詩弦のデッキのキーカード、《ハリマンボウ》を墓地に送ることができる!

 

「さらに、この効果が成立したことにより!

 墓地に送られた《ハリマンボウ》のモンスター効果、発動! 相手フィールドのモンスターから攻撃力を500奪い、弱体化させる!」

 

 いつかに見た光景が今度は《EMスカイ・マジシャン》に襲いかかる。

 (よっしゃあ、今日も俺の出番だぜ!)とでも言うかのように《ハリマンボウ》は勢いよく、スカイ・マジシャンの(くつ)に食らいついた。

 思わずスカイ・マジシャンは足を振り回すも、まったく振りほどけていない。

 

「なに!?

 スカイ・マジシャンの攻撃力が2500から2000に下げる効果……スカイ・マジシャンの攻撃力は、遊夜の《オッドアイズ・ドラゴン》と同じ攻撃力……彼の場には、同じコンボ攻撃が行える《素早いマンボウ》が残っている!

 そうか、()()()()()()で遊夜のオッドアイズを追い詰めたのか!?」

 

 そう、これが詩弦のハリマンボウ・コンボ。

 様々な方法で《ハリマンボウ》や《キラー・ラブカ》を墓地に送り、次から次へと相手の切り札を弱体化させる執念深いコンボ。

 強いカードへ、弱いカードの組み合わせで逆襲する詩弦のエンタメだ。

 

「なるほど、興味深いコンボだな!

 だが、私の手品もまだまだこれからだ。

 私はカードを2枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!

 俺は手札から《キラー・ラブカ》を通常召喚し、そのままリリース!

 俺のデッキには、自分フィールドの水属性モンスター1体をリリースすることで、通常召喚の権利を使わずに手札から特殊召喚できるモンスターが存在する……現れろ!」

 

 あの日から何度も見た、詩弦の切り札。

 何度でも、覚悟ひとつで敗北の闇を突き進む、詩弦のエース!

 

「より、さらに!

 すべてを喰らう、海の怪物。

 こいつが来るぜ! 《シャークラーケン》!

 

 絶対に諦めないデュエルの象徴。

 敵にしがみついて離さない触手と、あらゆる強敵を噛み砕く顎を誇る、巨大なサメ。

 (あれ? これマズいのでは?)と、スカイ・マジシャンは冷や汗をかいていた。

 

「そいつの攻撃力は……っ、なるほど!

 そのモンスターのためのコンボなのか!」

「バトルだ!

 攻撃力2400の《シャークラーケン》で、

 攻撃力2000に()()()《EMスカイ・マジシャン》を攻撃!

 一生介錯(いっせいかいしゃく)

 

 この攻撃が通れば。

 パパのスカイ・マジシャンに勝ててしまう。

 それは嬉しいような、あまり嬉しくないような。

 どちらを応援すればいいのだろう。どちらも応援したい。

 どっちかを応援したら、どっちかを裏切るようで、どちらかの気持ちを軽んじるようで、なんだか私はいやだった。

 

 それでも。

 今、この瞬間だけは、私の言葉が。

 

「いける! いけるよっ!

 やっちゃえ、詩弦っ!

 

 心の迷いではごまかせない、この私の本心(コイゴコロ)だ。

*1
原作の()()()は、プロデュエリストであるストロング石島の使う「バーバリアン」カードを把握したうえで、なおかつ対策を講じたうえで、ストロング石島と対戦をした……()()()()()()()()()。つまり、原作では「榊遊矢は、ストロング石島の活躍をよく知らない。」可能性がある。なお、この場合のプロデュエリストの意味とは「スポーツの著名人」の意味と同義であると仮定する。




 パパはつらいよ

 今回のデュエルは分割投稿します。
 ちょっと長すぎて、榊遊勝について書きたい対話と遊夜の内心(地の文)を含めて軽く計算してみたら、今の段階でも文字数がバケモノすぎたんじゃよ。

 前回と同じ(約2万文字)くらいなんじゃけど。

今回の話は?

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