もしも、伽藍に落ちた後も同行していたら   作:カメリアライト

4 / 8
ロマリタイムハーバー②

 後ろからついてくる彼はリネとリネットへの警戒を全く隠さなかった。彼には私たちにはない経験と感覚がある。それが二人に何かある、と気づかせたのかもしれない。ただ、私にはリネもリネットも様子がおかしいとは思えない。彼が警戒するからといって、私が二人を色眼鏡で見る必要はない。

 

 少しすると先頭を歩いていたリネが止まった。それと同時に塔から多くの警備隊のような恰好した人たちが一斉に並び出てきた。

 

 「君たち、フリーナ様に会いたいって言ってたけど、あちらから二人を出迎えに来てくださったみたいだよ。」

 

 そういってリネが見上げた先にいたのは、後ろに流した長髪に王冠を模した小さな青いルーベンスハットをかぶった少女だった。

 

 「えっ!?あれが水神なのか?なんでオイラたちが来ることを知って……」

 

 「少しは頭を働かせなよ、白フライム。僕はさっきなんて言った?」

 

 そう。彼が気づいたという私たちの尾行者。水神がここに現れた目的が私たちにあるなら、尾行者はきっと水神の手のものなのだろう。……となると、私たちは水神に警戒されている?警戒されるようなことに心当たりはないけど、事態は思ったよりまずいかもしれない。改めて見つめ直すと少女が口を開いた。

 

 

 「富める者も貧しき者も、グロシを持つ者も持たざる者も、杯を掲げよう!グロシがない者は代わりに腕を!」

 

 

 グロシ……?誰もグロシなんてもってないけど……。というかそもそもグロシって何?ただ、周囲の人たちは気にせず盛り上がっているみたいだ。私の疑問をよそに、少女の言葉は続いていく。

 

 「キミたち2人…2人?コホン、金髪の異郷の旅人がいくつかの国を派手に荒らしてきたことは、もう耳にしているよ。だが、それでも歓迎しよう。いや、それどころか、この僕が直々に出迎えてあげようじゃないか。」

 

 どうやら私たちの今までの経歴は水神に伝わっているらしい。そしてその顛末を知って警戒されたようだ。ただ、水神には『彼』の情報がない。テイワットに属する人間は関わりがあったろうとなかったろうと、もう彼のことを知らない以上、水神も知るはずがない。私に身元不明の同行者がいることに、彼女は戸惑っているみたいだ。

 

 「えっと、此度の謁見は僕の力と権力を仰ぎ尊んでもらうためのものだ。賢きものは、常に正しき旗のもとに集う。これ以上に英明なことなんてないだろう?ようこそ、水の国へ。キミたちの旅の価値と意義を、このフォカロルスが認めよう。さあ、思う存分、快哉を叫ぶといい。」

 

 わざわざ私たちのことを調べ、本格的にフォンテーヌに入る前に顔を見に来るとは。ただの警戒だけなのか。それとも他に真意があるのだろうか。

 

 沈黙している私たちに、水神・フォカロルスは焦ったように口を開いた。

 

 「おやおや?なんだいその目は?もしやこのような歓迎の儀にすら満足できないと?もっと何か言ってあげれば気が済むかい?」

 

 「えっと、オイラたちが話題を切り出すのを待ってる?」

 

 パイモンも水神がなぜ自分たちの来訪を知っていたかについては理解したみたいだけど、水神の目的がわからなくて困惑しているようだ。

 

 一向に進展がないこちらをよそに、水神の登場で盛り上がっていた観衆のテンションはどんどん上がっている。

 

 「おい!あれが『金髪の異郷の旅人』なのか?」

 

 「あの有名な…。それならわざわざフリーナ様が迎えに来るのも頷ける。」

 

 「フリーナ様がこんなところに来られたということは、きっと彼女と素晴らしい対決をするために決まってる!」

 

 えっ

 

 「おおっ!そうなのか!そいつは楽しみだ!やっぱりフリーナ様は私たちの期待を裏切らない!」

 

 なんだか一部の観衆が突然対決を期待するような声をあげ始めたけど、さすがに急展開すぎないかな?と思っていたら水神は予想外の反応を示した。

 

 「フハハハハッ!いかにも。しかし、そう焦らないでくれ。まったく、僕を信奉する民はいつも観衆と一緒になって高らかに叫びたがる。少々耳につくが…僕はそれすらも寛容に受け止めよう。これは、褒美だと思ってくれ。キミたちの想像通り、僕は旅人と歴史的な対決をするつもりだ。」

 

 「えっと、いきなりやりあうのか?なんか展開が早すぎるような…って今の旅人は……!」

 

 まずい!パイモンが焦ったように、今の私は戦闘に臨む余裕がない。万全の状態ならまだしも、負傷した状態で七神に挑むのはさすがに厳しい。影や鍾離先生ほどではないのかもしれないけど、相手は水元素を司る、紛れもない神だ。どうしようか……フォカロルスは相当観衆の目を気にしているようで、戦闘そのものがフォカロルスの目的なら避けようがない。

 

 

 

 「フン。これで借りはひとつ返したことにさせてもらうよ。」

 

 

 

 私の耳元でそう囁いて前に出たのは『彼』だった。私を背にするように陣取った彼は、笠を外すと水神に向かって恭しく一礼する。

 

 「お初にお目にかかります。僕は旅人の同行者です。今、旅人はこちらに向かう途中で不慮の事故にあってしまい、万全の状態ではありません。誠に僭越ながら、旅人に代わってこの僕が! お相手させていただきます。」

 

 彼の言葉に真っ先に反応したのは、紺色のテンガンロンハット風の帽子をかぶった長身の女性だった。

 

 「貴様、何者だ。旅人ならいざしらず、貴様のような身元不明のものが神と対決するなど、許されないぞ。」

 

 彼が構えるのに相対するかのように、長身の女性は腰に刺さっている剣に手をかける。一触即発の様相を呈して睨みあう二人に、声をあげたのはフォカロルスだった。

 

 「コホン!では、こうしよう!旅人は残念ながらこの僕との対決に臨むには万全ではないようだ。しかし、その詫びということで彼女の同行者が相手をしてくれるらしい。ただ残念なのは、キミが大きな勘違いをしていることだ。一度、手に胸を当てて考えてみるといい。神を前にして名乗りもせず発言をするようなキミが、本当に神と直接決闘をする栄誉を賜れるほどの人徳と礼儀を兼ね備えているかをね。」

 

 「と、いうと?」

 

 「どんな歌劇にも起承転結があるように、僕と旅人の対決もまた最初からフィナーレを迎えては美しくないということさ!今日がその『起』にあたる場面だとするなら、旅人の代理を名乗る君の相手は僕ではなく、僕の代理人がふさわしいだろう?」

 

 フォカロルスの演説は見事なものだ。観衆の意見に随分と振り回されているかと思ったら、いまや観衆は彼女の語りを聞き入っている。これまで出会ってきた神の中でも民の心をつかむ上手さはトップクラスといってもいい。

 

 「ということで君の相手は僕ではなく、僕の決闘代理人・クロリンデだ。光栄に思いたまえ。これはとても名誉なことだよ。クロリンデは僕の決闘代理人の中でも最強の人間で、『常勝不敗のクロリンデ』の二つ名を持つ者だ。本来ならば、旅人にくっついているだけの無名な君の相手にはクロリンデすらもったいないのだぞ。…さて、クロリンデ。そういうことで、受けてくれるかい?」

 

 クロリンデという呼びかけに反応したのは、今まさにこちらに剣を抜こうとしていた女性だった。彼女はフォカロルスに向かって一礼すると、懐から白い手袋を『彼』の足元に投げつけた。

 

 「拾え。フォンテーヌでは決闘の際に片方が手袋を投げ、もう片方が拾えば、決闘に同意したと示すことになる。」

 

 「フン。良いだろう。なら、えんry…」

 

 「ちょっと待ってくれ!」

 

 ためらいなく拾おうとする彼の前を遮ったのはリネだ。

 

 「クロリンデさんの異名は嘘じゃない。生半可な腕で挑めば、その命を散らすことになる。知り合ったばかりとはいえ、縁を結んだんだ!君が無茶な決闘に挑もうとしているなら、止めさせてもらうよ!」

 

 彼とリネは必ずしも良い初対面だったわけではない。それでも、彼が危険に臨もうとしているのを見て声をあげてくれるリネは、きっと優しい人なのだろう。しかし、『彼』に限ってはその心配は不要だ。私の様子に気が付いたリネットがリネに声をかける。

 

 「お兄ちゃん、多分、大丈夫。旅人もパイモンも心配している様子じゃない。」

 

 「そうだぜ、リネ!こいつは口は悪いし、嫌味ったらしいし、偉そうだけど、とっても強いんだ!」

 

 「………だから、『彼』に任せて。リネ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼に任せて、か。随分と信頼を寄せてくれるじゃないか。

 

 「さて、手袋は拾ったよ。これで、決闘を受諾したことになるのかな?」

 

 「……いいだろう。ついてこい。ここは狭い。」

 

 こちらが手袋を拾ったのを確認すると、クロリンデと呼ばれた女はこちらを先導するように歩き出した。上を見上げると、先ほどまでこちらを見下ろしていた、不快な言葉遣いのガキの姿がない。どうやら決闘は別の場所で行うらしい。

 

 先ほどと変わって僕を先頭に、旅人と白フライムが続く。猫耳女たちはどうするのかと思っていたが、乗りかかった船よろしく、見届けるつもりのようだ。

 

 クロリンデに連れられて、箱型の機械に乗り込む。全員が乗ったところで、クロリンデが手慣れた手つきでボタンを押すと、扉が閉まり、箱が上昇し始めた。しばし、無言が訪れる。……………………思ったより長いな。

 

 箱の上昇が終わり、扉が開いた。再度ボタンを押したクロリンデが無言で外を指し示す。先に降りろということらしい。最後に乗ったものから降りていくので、僕が出るのは一番最後だ。全員が降り終わって僕も前に出ると、クロリンデがすれ違いざまに囁いてきた。

 

 「殺しはしない。その代わり、観客に被害が及ぶような立ち回りは控えて欲しい。」

 

 …………へえ。この僕に、手加減するって?

 

 箱から出ると、正面には脇に護衛を並べた水神を名乗るガキが陣取っていた。僕の後ろからクロリンデが出てきたのを確認して、水神は高らかに声をあげる。

 

 

 

 

 「よし!役者はそろった!皆の衆も、この短い序章のひと時を楽しんでくれたまえ!ここに、『異郷の旅人』の代理人と、僕・水神フォカロルスの決闘代理人・クロリンデの決闘の開始を宣言する!!!」

 

 

 

 

 水神の宣誓に観客が歓声を挙げた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。