とある都市の音楽総祭(スウィートリザウンド)   作:はらさきりいあ

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 一話目です。とりあえず、笛塚のキャラをまだつかみきれてない感が……汗

 副題は「哀れに しかし 動きを付けて」と言った感じです。(10/13副題変更)


第一楽章 lamentabile ma con moto

 そうだ、あれは五月の二一日のことだった。クラスの雰囲気もある程度固まって来、ある程度キャラクターが決まってきていたぐらいの頃の、かったるい六時間目の学活のことだった。

 

「『越負勝祭(えつふしょうさい)』。――学園都市連合音楽祭の実行委員になりたい生徒は居ますか?」

 

 おそらくこの文章を見ている読者様等には御存じない単語があると思う。学園都市連合音楽祭、『越負勝祭』という言葉は学園都市の中でしか流通しない単語である。

 簡単に説明すると、学園都市全体の音楽祭だ。全学校参加の合唱部門、吹奏楽部やオーケストラ部の合同演奏会、作曲等々音楽に関しての総合大会で、毎年六月の最終週に行われる。

 一学期の一大イベントで、合唱は学園都市中の全学校が取り組むため、クラスの決断が深まるか深まらないかはこの越負勝祭で決まると言うのが専らの噂である。

 

 

 さて、こういう実行委員(めんどくせェこと)というのは生徒が敬遠するモノのランキング常連である。誰も食いつきもしない。僕は担任の前で春の穏やかな気温にまどろんでいたが、間もなく僕の眠りは妨げられることとなる。その原因は忘れもしないアイツの一言だ。

 

 

「えー、せんせー、そう言うのは『空力使い(エアロハンド)』の笛塚(ふえづか)君がいいと思いまーすっ!」

 

 

 クラスに必ず一人は居るであろう、お調子者がポンと言いやがった。クラスメイトは全員一致でニヤリと笑い、一斉に拍手。その拍手の音に僕のまどろみは弾け飛び、呆然とした。

 

「(……ま、まさか……)」

 

 黒板に浮かぶ「越負勝祭」の文字を見、少しずつ状況を理解し始め、授業中だとも構わず周りを見回す。ちょうど真後ろの席のお調子者のしたり顔が僕の網膜に酷く焼き付く。

 

 

「(こいつ……やりおった……!!)」

 

 そう頭を抱えどうすべきかを考えようとすると、非情にも思考回路を担任が断ち切った。

 

 

 

「みなさん、笛塚君で実行委員はよろしいですね?」

 

 

 

 

「「「はーい!!」」」

 

 

 改めて響く、割れんばかりの拍手に弾け飛ぶ満面の笑顔。担任は意気揚々と頷き、まだ他にもあった今日の話題を紹介し始めた。担任の言葉は僕の耳に一言すら留まらなかった。周りの時間はとめどなく流れていたが、一人僕だけがポツンと取り残されていた。

 

 

   ***

 

 

 

 HRはあっさりと終わった。特に担任は満足げに度々頷いていたが、僕はぼんやりとしていて目には入らなかった。

 

「これで終わります。きりーっ、きょーつけー、れー!!」

 

やたらと小学生っぽい学級委員が号令をかけると、周りは楽しそうに立った。僕だけよろめきながら一礼。

 

「(――やっと終わった……)」

 

 果てしない疲労感を抱えながら通学鞄を手に取る。学校さえ出れば寮はすぐそばだ。僅かな光に向かって、重い足を無理やり前に進ませる。さっきから、アナウンスが響いている。センザト君と言う人の呼び出し。まぁ、僕には関係ない。

センザト君のことはもういい。あと五メートル、いやもう四メートルで校門を出れる。光はすぐそば―――。

 

……で僕はまた呆然とする。

 

 

「え、先生これ違う?センザトじゃなくて千里(せんり)?あっら、まぁ! 失礼しちゃったわ!しかもこれ名前?じゃあ、苗字を。笛塚、笛塚千里君は今すぐ職員室に来てくださぁいっ!!」

 

 

 周りの目がヤバい。同級生はヒュウッと口笛を鳴らしたり「お?直々の御呼び出し(ラヴコール)じゃん。お前何やらかしたんだよー?」とか言ったり、「うわ、あいつ……」と蔑みの視線を向けてきた。

 

 ……いとヤバし。仕方なく這うように僕は職員室に向かった。そこにいたのは――……。

 

 

   ***

 

 

 担任が満面の笑みをたたえてドアの目の前に仁王立ちしていた。言いようもない目の前。僕との距離、わずか30センチである。僕は思わず通学鞄を落とした。なにやってんだ、こいつは。

 

「あぁ、待ってましたよ、空力使いの笛塚君。今日は……まぁ、言葉は悪いですけど居残りです☆」

 

 その時僕は、この担任のすべてを疑った。まず一つ、居残りというワード。その二、担任が語尾に星を飛ばしたこと。その三、私見ではあるが、語尾に星を飛ばしても良いのは『超機動少女(マジカルパワード)カナミン』等のごく一部の創作キャラのみであって、『三〇プラスアルファ(オーバーサーティ)』の担任はしてはいけないと思うこと。その四、すべからくこの担任に対して僕は非常に不謹慎であると怒りの感情を覚えた。

おっといけない。落ちつけ僕。毒づくな、毒づくな……。

 

「居残りとはどういう事でしょうか、先生?」

 

 今できる限りの愛想笑い(ジャパニーズスマイル)を浮かべて僕は言った。気付いていなかったが、青筋が立っていたらしい。

 

「なんというか、能力補習(スキルアナライズ)です。実行委員として送っても笑われない程度まで、ですね」

 

「(笑われない……程度……?)」

 

 担任の言葉が胸に刺さった。それについて問おうとしたが、言葉が出てこない。もやもやする僕とは裏腹に、担任は笑み――ただし、必ずしもそれは単純な笑みで無いもの――を浮かべながら僕の横をすっと抜けて廊下へ出た。振り向き仰ぐように右手を動かしている。こっち来い、と言いたいらしい。もやもやを飲み込んで、急いで担任の元へ向かった。

 

 担任は歩いては鍵を開け、歩いては声紋認証だ静脈認証だ網膜認証だと厳重なロックを一つ一つ解いて行った。僕と担任はどんどん暗い所に入っていく。長い階段を降り切り最後の関門をくぐり終わり、厚さ五センチのドアを開けるとまばゆい光が僕を突き刺した。人工光だ。目が慣れてくると、分厚いドアの奥にある施設が分かった。

 

 体育館だった。ただ、周りに計器がずらりと並べられた、運動できない体育館がそこにはあった。通常様々な競技のラインが書かれている床には、電子目盛りが縦横無尽に走っていた。計器は確認できるだけで、百以上は優に超えるだろう。僕が知っているものだけでも、風力計、電圧計、小型X線検査機(コンパクトX-P)、通信式血圧計とそれは様々なものばかり。

 

「さ、どうぞ」

 

 担任は先に一歩入ると、僕の手を引っぱった。俺の最初の感想(ファーストオピニオン)は?!聴く余裕ねえのかよ?! 僕は引っ張られるがまま、フロアに足を踏み入れた。すると、ビィーッ!!と警戒音がけたたましく鳴り響いた。咄嗟に体育館の敷地から飛ぶように逃げだした。 思わず見渡すと担任は何も気にせずキュッキュッと体育館シューズの足音を鳴らしながら進んでいく。

 

「な、なんですか、この警戒音は?!」

 

「んー、AIM検知器が作動したみたいね。本来はロック外すんだけど、忘れちゃってたわ」

 

 そう言うと担任はバコン!!と電気系統のスイッチが入っている箱のふたを開けると、鼻歌交じりにブレーカーの様なものをガタガタと落としていく。 けたたましい警戒音は嘘のように消えてしまった。静寂が僕と担任を包む。僕は一言も出せずに担任を見た。呆然。

 

「まー、さっきのは申し訳ないけれど、次は間違いなく入って良いわ。気になるでしょ、能力補習って」

 

 担任は笑顔で問いかけた。未だに僕の耳には警戒音が木霊している。だが、担任の言う能力補習とやらの方が一枚上手だった。頷いて恐る恐る体育館に踏み入る。…………、静かさは保たれたまま。警戒音は鳴らなかった。僕は体育館を一瞥すると、運良くそこに有った貸し出し用体育館シューズを履きながら言った。

 

「で、何なんですか能力補習って?」

 

「そうね……。普通の時間割り(カリキュラム)では、一部の突起した能力者――超能力者(レベル5)とか大能力者(レベル4)でも上位クラスでない限りは平均五十時間以上の時間をかけて能力を発現させるの」

 

 どこぞのパンフレットに書いてあったことを僕は思い出す。その事を裏付けるように担任は入り口から十メートルぐらいの所にあるデスクに腰掛けて、分厚い資料を読みながら答え始めた。時折僕の姿を見ているが、それは理解度の度合いを見ているようだ。僕は適当な相槌を打った。

 

「だけど。今回みたいな時があるでしょ。笛塚君みたいな低能力者(レベル1)をどうしても短時間で強能力者(レベル3)(クラス)にしなければいけない時。そういう時に行われるのが、能力補習。被補習生の能力を究極まで見極めて能力開発を行うの。ま、霧ヶ丘(きりがおか)とかはそれが普通なんだけど。……笛塚君が能力補習について知らなかったのは、(おおやけ)には知らされてないからよ。だってそれって、あれじゃない……贔屓にするんだからね」

 

 最後に担任は苦笑しながら僕を見た。ちょうど体育館シューズの靴ひもを結び終わったところだったので、さっきより大きく頷いて見せる。担任はちょいちょい、と手招きして見せた。担任のデスクに向かって、僕は慎重に近づいて行く。できるだけ、ラインを踏まないようにコードを踏まないように心掛ける。そうやって僕は担任のデスクの元へたどり着いた。

 

 決して乱雑ではない積み上げ方をされた資料。デスクには三台のディスプレイが並べられている。ディスプレイには一中学生には理解できない様な、ぐにゃぐにゃに曲がったグラフが表示されている。担任は僕の右手をとり、ピッチリ密着する腕章みたいなものを付けた。通信式血圧計だ。よく眼を凝らして見ると、5ミリ四方のチップが見える。それに加え、指先やこめかみの両側にも電極の様なものを付けている。……色々凄えなぁ、なんて僕の思考がめぐり始めたころに担任は口を開いた。

 

「さってと、御膳立ては終わったわ。さぁ、始めましょう。とっておきの能力補習を!!」

 

 

***

 

 

「まず最初に、中心部のサークルに入ってちょうだいね」

 

 担任の言葉を聞き、僕はフロアに目を向けた。僕が初めに入館した時は、一メートル四方のセルが描かれたいたが、いつのまにか中央に直径二メートルほどの円が描かれれていた。LEDの電子目盛りであろう。つくづくこの体育館が最先端の科学を集結してできた施設あることを感じさせられる。

 

 僕は素直に従ってサークルに入った。すると間もなく、担任の声がスピーカーから流れた。

 

「今から風を起こしてもらいます。リラックスしてもらって結構。いつ始めてもいいわ」

 

 集中したい気持ちもあって、僕は目を閉じる。五感のうち一つの感覚が失われると他の感覚が研ぎ澄まされるらしい。この場合僕は聴覚だった。ほのかに聞こえるホルンの音。その音が響く感覚と能力が僕の脳内で結びついた。少し空白の時間が流れた。

 その時、僕を中心としてあたりに僅かな風が起こった――……。

 

 

***

 

 ……その時私は耳を疑った。ただ遠くで響いていた音が、その場で鳴らされているのではないかというほどに臨場感を増したからだ。目を閉じれば私の目の前では六四黄銅(ゴールドラッカー)のホルンが奏でられている。

 

 

 私が、それが笛塚君の能力である事に気付くのには少しの時間がかかった。彼の血流量が増加し、脳の動きが活発になっていたからだ。ディスプレイのグラフは良好な数値を示し、情報がどんどん更新されていく。

 

 

「(……こんなの低能力者(レベル1)じゃないわよ……?!)」

 

 

 どう能力を使えばこのようになるのかが全く分からなかった。

 

 なんとなく分かるのはただの風力使いではないこと。ただの風力使いならば風力計と血圧、脳の血流量の増加ぐらいしか認められない。だが、笛塚君の場合違う。

笛塚君の場合、雑音計の数値がぐんと下がっている。つまり、雑音を排除したのである。ある音を響かせるために風を起こす、ということだけに特化した能力、と考えたほうがよいのかもしれない。

 

 

 彼が低能力者だった理由が分かった。単に風を起こすというのは、いまいち指標が分からなかったのではないかと推測できる。風を起こすだけでなく、その風がどのような作用をするか、というとこまで踏み込まなければ、彼の能力は引き出せなかっただろう。

 

 

 私はそう思い、キーボードを叩いた。事前に校内の小型一般校用演算機(HPCC)使用許可が下りていたのを幸いに思った。数式を一通り打ちこみ、エンターキーを強めに叩く。HPCCとはいえ何十万パターンの計算には少し時間がかかる。ちょっと時間的余裕が生まれたため、笛塚君を見る。不安そうにこちらを見つめているのが分かると、手招きをする。彼に説明をするのが必要だと思ったからだった。

 

「ちょっと話したいことがあるの――――」

 

 

***

 

 僕は担任の手招きに誘われるがまま、デスクの前に立つ。担任が口を開いた。

 

「君の能力について、よ」

 

 やっぱりか、と思った。さっきの能力は明らかにこれまでの能力と違っていた。風量はあまり出ていなかったけれど、遠くで聞こえていたホルンの音をここで響かせたいと思って能力を発動したら響きが豊かになったように心なしか思ったからだ。

 

 担任は僕をじっと見た。僕の真意を確かめるようにじっと見た。

 僕は頷いた。

 

「笛塚君は、風力使い(エアロハンド)よりも、音を扱う能力者――言わば、『音響操手(ソノリテメイカー)』というべき存在よ。風は音に干渉するための媒体。もっと演算をスピーディになおかつスマートに出来るようになったら……高位能力者も夢じゃないと思うわ」

 

 一通り離すと、担任は僕に感想を求めるように僕の瞳を覗き込んだ。僕は黙り込んだ。自分の能力について色々考えたかったのもあるが、どう反応すればいまいちわからないのが第一に思ったことだった。

 

「……なんて言われても、反応できないわよね。…………ごめんね、てっきり私笛塚君が、風力使いだとばかり思ってたから風力使い用のメニューしか考えてなかった。音響操手用のメニューを考えるわ。だから、今日は帰って良いわよ」

 

 ちょっとばかり担任は頭を下げた。「いいっすよ、僕もそんなこと知らなかったですし」と慰めにもならない言葉を僕は言ったが、担任は少し笑みを浮かべるとデスク上のキーボードを叩いて立ち上がった。僕が帰るための道案内をするためである。

 

 担任が体育館の出口で手招きをしている。僕は担任に連れられて体育館を後にした。

 

 

***

 

 ゆっくり無言で階段を昇った。ただただ昇った。往きはかなりの疲労感があったが、なぜか帰りは足は軽かった。かれこれ十数分。生徒玄関から靴を取り、職員室に入れられていた荷物を受け取り、職員玄関から出た。担任が手を振っていたが、絡んだら絡んだらで面倒くさいので、あえて無視した。

 

 

 一人もそもそと下を向いて帰路を歩む。学生寮に着くなり僕は、かなり深い眠りに落ちた……。

 

 

 ***

 

 

もちちゃんねるΩ@学園都市派遣版

「その他取集め板」にて新着トピが一件あります!!

 

―――――――――

■おわらせようか。(1)

1:反旗の旗手::20XX/06/10 20:00:00.00

 

 やぁ、諸君。そろそろ反旗を翻すときが来た。

 

 集うべき人員は少数。少数精鋭部隊。

 

 おわらせることを強く望むならば、ここのアドレスまでご一報を。

 

 

  [email protected]

 

 諸君の参加を待っている。

 

 

――――――――――

 

「っとこんな所か……」

 

 

 このトピックを建てた人物はディスプレイから顔を上げた。

 いざ決行するとなるとどことなく緊張するのか、そのディスプレイを見る目は、たじろぎがちだ。だが、人物は意を決したように、パソコンが乗っているデスクをバン!!と叩き、立ち上がった。後ろにチェアが行ったがそれを気にする余裕はないようだ。

 

「待ってろよ…………待ってろよ……!!絶対(ぜってェ)に潰してやるからな……!!」

 

 

 人物はそれきり立ったままだった。声一つ漏らさず、しかし、人物はただ一つ涙を流した。

 

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