とある都市の音楽総祭(スウィートリザウンド)   作:はらさきりいあ

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すみません、副題がしっくりこなかったので、変更のため一時的に副題を消去しています。


第二楽章

 それから僕と担任は、二人三脚で、能力補習(スキルアナライズ)に励んだ。あんまり最初は乗り気ではなかったものの、毎日何度も繰り返しているうちに、少しずつ、しかし確実に能力が開花していくのが分かった。

 

 

 そんなある日だ。いつも通り演算テストやら、最大瞬間風速を計ったり、どれ位音を大きくすることができるかを計った後に、担当が僕をデスク脇に呼んだ。

 

 そこで僕は一枚のディスプレイを見せ付けられた。担任は、そのページが写ったディスプレイを指差す。なにやら面白いというか愉快だといっているかのような表情だ。 そのページには、棒グラフと折れ線グラフが一緒になったグラフと、レーダーチャート、そして僕の顔写真と名前。

 僕の顔があると分かると僕は画面に目が吸い付けられる。その様子を見て担任は、グラフの説明を始めた。

 

「笛塚君。能力の強度(レベル)ってどうやって決まるか知ってる?」

 

「え?」

 

 どうやって決まっているか……だと……? 最初に入学した頃に授業で説明されたような説明されなかったような曖昧な記憶を探っていると担任がもう答えを出していた。

 

 

「威力が基本単位(メジャー)なんだけどさ、――今の笛塚君の威力ってどれくらいだと思う?」

 

 担任の表情がシリアスみを帯びる。ごくりと唾を飲み、黙考する。確かに最近自分は能力を使いこなせるようになったが、実際のところはどうなのだろうか。コツは掴んだものの、数値的にはまだ下かも知れない。ただ、これだけ頑張っているのだから上がっていないのなら、かなりメンタル的にはヤバいものもある。しかし、勢い余って強能力者(レベル3)なんて言ったら、なに言ってんだこいつと言われそうで恐い。(……とはいっても、強能力者でも『日常生活で便利と感じられる程度の強度』らしいが)結局まだ手が届きそうな答えをひとつ。

 

「……異能力者(レベル2)ぐらいっすか?」

 

 と答えを導いたところで、担任はにんまりとし、先ほどの複合グラフにカーソルを持ってくる。そしてそこに書いてあった値を拡大して一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんにゃぁ。君は、強能力者だよ。ふ ・ え ・ づ ・ か ・ く ・ ん ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………喜んでいいのだろうか? 最つい一週間前まで、低能力者(レベル1)だった僕が、かれこれ一週間経った頃には強能力者にまでなってしまった。なんというか……言葉が出ない。

 

 無言で突っ立っている僕を尻目に、担任は笑う。

 

「やっぱりHPCCをバックにつけると凄いものが得られんのねー。ひゃっほい、能力補習素晴らしいわ!」

 

 全校生徒の前で今の台詞が言えるのか、と小一時間問い詰めたくなるような台詞を吐く担任。でも、なんとなく素晴らしい、と思う気持ちも分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――なんだかんだ言って、僕だって強度が上がるのは嬉しいのだ。

 

 

   ***

 

 

「あ、そうだ」

 

 僕が能力補習を再開するため体育館の中央へ戻るとき、不意に担任は顔を上げた。

 

「どうしました?」

 

 くるっと一応僕は反応した。こういうところで反応しないとこの人(たんにん)はかなり五月蝿い。

 

「そうそう、今なんで笛塚君を呼んだかっていうことを思い出したんだ」

 

「…………はい?」

 

 待て、さっきの強度が強能力者になったということが、目的ではなかったのか? 不審に思いつつ担任をもう一度見てみる。

 担任はそんな僕の様子を微塵も察さずに言う。

 

「あれなんだよね、うちの学校のもう一人の実行委員(ものずきなヤツ)を紹介しなきゃなぁって」

 

「…………はい?」

 

 今度こそ信じられない気持ちで言った。 今何を言った? もう一人の実行委員だなんて聞いていないぞ。ってさらっと『物好きなヤツ』なんて言うな、元凶の一旦はおm、いや担任が担っているではないか。 されど、そんな事は言えないので、嫌々ながら外向けの顔を維持しつつ、

 

「もう一人の実行委員だなんて……。僕以外にそんな人……いるんですか?」

 

「ありゃ? 知らなかったの? 基本一校で二人か三人出すものよ。うちは二人だけど」

 

 初耳にもほどがある。 後、何校ぐらいが出すのだろう。学音連加盟校全校から出すのならば、かなりの人数になってしまう。何百人規模だろ、そうすると。

 

「あ、一応言うけど、実行委員は十数人。まさかだけど、加盟校全校からとか考えちゃった?」

 

 くすくすと悪戯気に笑って担任は僕を見た。だが、図星。即ち言い返す権利はこれぽっちも僕は持ってはいない。

 

「あぁ、そうだった。本題に戻ろう。本校の実行委員は、先述の通り二名。君……笛塚千里(ふえづかせんり)君と……」

 

 こういうときにこの担任はもったいぶって十秒ぐらい言わない。一ヶ月ぐらいの観察及び統計からして、それはほぼ確実だ。 しかし、誰だろう。そんな物好きは本当に居ない。

 

 

 

 …………いや、居た。担任が息を吸うと同時、僕も閃いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ミス実行委員(フリーコメンテーター)月灯(つきあかり)雪駄(せった)!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕と担任の指が交差する。おそらく、向こうが考えていることも描いているビジョンも同じだろう。

 

 

 月灯雪駄。三年生。がさつそうな見てくれに反し、その内側は精密な工業機械を思わせる思考系統を持つ。……いや違う。彼女は、コンピュータでも埋め込まれている。周囲の人間にそう思わせるような人間だ。

 おそらく全校の中で体育館登壇回数のトップ。校長や生徒指導の教師を差し押さえている。おそらく、放送でも多分トップだろう。その理由は彼女の通り名で一目瞭然である。『ミス実行委員』(フリーコメンテーター)。彼女は常時実行委員の掛け持ちをしている。そのため、どの実行委員会に行っても顔を会わすこととなる。そんな彼女であるから、先生達にはかなり重宝されている。そこからついた影での通り名――主に職員室で利用されている――は、『先生達の救世主』(ティーチャーズヘルパー)。 しかし、なぜそんなにも実行委員を望むかは誰も知ることはないという、なんともいえない人物である。

 

 

「思えば、あの人しか居ませんね。あの人って遠巻きにしか見たことないからどんな人か知らないんですよね」

 

 

 

 僕が曖昧に頷くと、担任はまた訳の分からないことを言う。

 

 

 

「月灯さんって、精神系の能力者なんだけどさ、私思うに、移動系の能力でも持ってんじゃないかって思ってるんだよね」

 

 

「……?どうしてですか?」

 

 

「いやだって、あの人図書環境向上検討委員会行った次にさ、学校評価検討委員会に参加してるの見たんだけどさ、これの間がさ、一分しかないんだよ?どう考えてもおかしいでしょ?」

 

 

 確かにそれは理解できる。図書環境向上検討委員会があったのは図書室。大して学校評価検討委員会があったのは生徒会室。徒歩で5~7分、走っても3分はかかるだろう。だが、今はそんなところじゃあない。

 

 

「……考えればもっと分からなくなりそうなんで、切り上げていいですか?」

 

 

 実際それは本音だ。全く訳の分からない月灯雪駄という人物の上に、担任の勝手なイメージをなすりつけられたら、それこそ僕の頭がショートするだろう。

 

 

「そうね。とにかく今度、月灯さんとの顔合わせの場を作るから」

 

 

 担任は頷くと、リラックス体操を始めた。担任がリラックス体操を始めたということは終業を意味する。どうやら能力補修を再開する気はないらしい。

 

 

 僕は担任に一礼してから、体育館を去った。

 

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 そして、その日が来た。

 

 

 ある晴れた昼下がり、僕は職員室に呼ばれたのである。 接待室、と仕切ってある一角に僕は呼ばれた。そこにあったのは、テーブルと一対のソファ。そして接待用のテーブルには、申し訳程度のお茶が添えられており、二人掛けのソファには担任がすでに座っていた。

 

 

 そして、嫌というほど目にした事のある人物が担任と向き合って座っていた。

 

 

 僕は担任に軽く挨拶と、その人物に会釈をする。すかさず、その人物は立ち上がり僕の手を取った。

 

 

「……How do you do? ……ごめんなさい、言語設定(ラングヴィチチョイス)をミスしていたようです。改めまして、はじめまして。笛塚千里様。すでに私のことはご存知かと推定いたしますが、名乗らせていただきます。月灯雪駄です」

 

 

 How do you do?て。なんじゃそりゃ、と言いかけたね。こりゃ。彼女の一言も噛まずに、言葉を紡ぐ様は、どことなく人工知能のような感じを僕に与えた。

 

 

 そして、なんというか……僕の花の青春生活(ノーマルスクールライフ)が5キロほど遠ざかった気がした。

 

 

「あーえっと、笛塚です。笛塚千里です。……うーんと、字面は、フルートの笛に、首塚の塚で笛塚。漢数字の千と万里の長城の里で千里っす」

 

 

 おぉ、何とか言えた。表情も完璧な愛想笑い(ジャパニーズスマイル)のままだ。担任との会話で愛想笑いもいやいやながらに身についた成果だ。

 

 

「……三九〇〇キロメートルですね」

 

 

「なんじゃそりゃ」

 

 

 やってしまった。いきなり彼女は三九〇〇メートルというわけのわからない数値を口にした。おかげで、僕の完璧な愛想笑いは崩壊し、さっきの努力は水泡に帰した。あぁ、なんて僕という人間は、報われない奴なのだろうか。

 

 

「だって、千里でしょう。一里の基準は中国、朝鮮、日本と各国でずれが生じていますが、日本の例に従った場合、一里はおよそ四キロメートルですから、千里だと三九〇〇キロメートルになります」

 

 

 あぁ、そうか、単位の話だったんだ。じゃあ、それくらい前置きしてくれよ……。いきなり言われたら驚くじゃないか。一応ベタな返信でもしよう。

 

 

「あ、単位の話だったんですね。つまり、「母を訪ねて三千里」的なことですか」

 

 

「いいえ、それは誤りです。少年と母親が出会うために歩くべき距離は、一五二〇〇キロメートルほどです。すなわち、三八七〇里。なので、正しく言えば「母を訪ねて四千里」です」

 

 

 マジレスですか。あぁ、そうですか。ってか、瞬時にそれを計算(もしかしたら雑学系番組でも見て覚えていたのかもしれないが)する頭が凄い。そう僕が彼女に感心しながら横を見ると、担任が

 

 

「お二人とも何歳よ? まったく、例の番組が放映されたのは一九七一年だっつーのに」

 

 

 って、そっちかよ。こっちの会話には参加しないでいいのに。……進行しないでいいのか?

 

 

「……先生、話がずれていると推察いたします。本題に入らなくてはいけないのではないかと、残時間数より発想いたしますが」

 

 

 ありがとう、月灯先輩。さすがの担任も先生たちの救世主には歯向かえまい。

 

 

「あぁ、そうね。んで、今後の行事についてなんだけれど――」

 

 

 そういいながら、担任は一枚のプリントを机の上に置いた。いかにも表計算ソフトで作成しました、という感バリバリのプリントだった。

 

 

 よく見れば、表はカレンダーみたいになっていて、タイトルが挿入される場所には「活動予定」と表記されている。

 

 

「あとで二人にはこのプリントのコピーを渡すわね。まず最初に日付ね。今日はここ」

 

 

 担任は胸ポケットから採点ペンを取り出し今日の日付――五月二十三日――に赤丸をつける。次に、六月二十三日から六月二十八日までの五日間分のマスを塗りつぶした。

 

 

「この五日間が本番よ。まぁ、君たちに活動してもらう初日は、六月一日ね。実行委員会初顔合わせ会があるわ」

 

 

 げ。その日は休日だぞ? ……なんか、ナーバスな気分になった。

 

 

 でも、担任の話は終わらなかった。結局今日は二時間ぐらいずっと接待室にいた。

 

 

 

   ***

 

 

 

「あーやっと終わったぁああああああ!!!!」

 

 

 叫びながら帰路を行く。僕の肉体には、とことん疲労が蓄積していた。担任といい、月灯先輩といい……何であんなに喋れるんだ? むさい男にもかかわらず首をこてんと傾げてしまった。想像すると……おえ、キモいぞ、俺。心底思ったね、女子がいなくてよかった。

 

 

 ともかく、越負勝祭の実行委員とやらは疲れそうだ。なんか、またナーバスモードになってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、でも、そういう僕も、少しだけ越負勝祭が楽しみに思えてきたのだけど。

 

 

 




というわけで、月灯先輩が追加されました!!

前回の最後に出てきた掲示板は次回へ持越しですー。
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