今まで誰も、きっと言わなかった言の葉。
今まで誰も、きっと思ってくれなかった想い。
今まできっと、抱けなかった気持ちを抱き締めて良いのなら。
「とりあえず、まずは町外れを目指すべ。そこなら話とかしやすいしな」
頭の声に言われ、アクルはコクリと頷く。頭の声の言葉は、アクルにしか聞こえないらしいので人通りのいない場所を目指した方が良いというのはその通りだと思う。
レンガ造りの町並みを物珍しそうな眺め、一本の黒いみつあみの髪を背中で揺らしながら、ふらふらと覚束ない足取りでアクルは歩く。
ふと服屋っぽいのが目に止まる。大きなガラスから、中がよく見えた。
なんというか、自分の世界で見たフリルをよく使ったロリータ的な衣装が多くあり、可愛いなぁ、とアクルは思った。 でも雨が多いらしいこの町では着にくそうだけど、どうなんだろうか。
周囲を歩く人々は、割りと気にせずそれらの服を身に付けている。男性は、何か黒いスーツっぽい。
ちなみに、アクル本人はアルケス老人の娘さんが生前身に付けていたものを身に付けている。外に行く際に、着て良いと言われたのだ。
生前……どうやら、亡くなってしまっていたらしい。当然、アクルはそんな大事な物は着られないと断ったものの、結局押し負けた。
──なんでも、自分は娘さんに似てるらしい。
写真があったので見せてもらった。この世界にもあるのかと驚きつつも、少なくとも似てないとアクルは思う。
写真の中の少女は、自分よりずっと可愛いと思った。似てるのは髪色と髪型くらいじゃないかと。
なんにせよ、この町の服装。非常に可愛らしい服であり、アクルとしてはなんというか……衣装に負けてるなと思う。
頭の声は、かわいいやん!と言ってくれるものの、自分にはきっと似合わない。 大きな目を少し細くして、アクルはそのまま町外れに向かう。
遠くには、城壁みたいなのが見える。この町を囲んでいるらしい。
頭の声によると、獣やら魔族対策らしい。
魔族はまだ見てないのでよく解らないが、獣と聞いて、昨日のコロコッタを思い出し少し身震いした。
今更ながら、本当に怖かったし痛かった。
しばらくぼんやり歩いていると、アクルの大きな目にに木々が映った。
「ん……」
道は続いているが、両端は森のようになっている。
「八区は、なんか良いキノコとれるって言って聞いた事あるなー。防壁から出なくても、採れる様にする為だろーなきっと。知らんけど」
手間のかかる事しよると、頭の声はぼやく。防壁の中に町だけじゃなく、小規模だが森もあるらしい。
とりあえず、アクルはやや遠慮がちだが森の中に入って行く。虫くらいはいるだろうが、危ない生き物は流石にいないだろうと考えてだ。
「……えーと、それで聞きたいんですけど……」
適当な岩にを見掛けて、少し触る。
腰掛けたいなと思ったものの、岩は濡れてるし、汚れた指先を見てやめた。服を汚すわけにはいかない。
アクルは、ふーっ、と少し深呼吸をした。 曇り空を見上げて少し止まる。
「あの……あたしが『必要』だって、言ってくれましたよね……?」
おずおずと、少し自信無さげにアクルは尋ねた。
対する頭の声は、おお、言った言ったと軽い調子で答える。
「あの状況で聞こえてて覚えるなんて、やるじゃあないかアンタ。えっと、アクルたんだったっけ?」
「えっと……アクルタンじゃあなくてアクルです。」
「んじゃあアクルたんでおけおけ」
『たん』って、『さん』とか『ちゃん』って意味なのかなとアクルは思い、とりあえず質問を続ける事とする。
「あ、あの、えっと、その……改めて、えっと……ここは、いわゆる異世界ってやつなんですよね?」
「イグザクトリー!その通りでございます! ま、アンタにとってで我にとっちゃあこっちが本来の世界でアンタの世界が異世界なんだがな」
はぁ、とアクルは短く呟き、そしてまた尋ねる。
「それでその……あたしは、何に必要なんですかね?
……もしかして、魔王討伐とか、そういうのでしょうか……?魔族とか、いるみたいですし……」
魔族というのがいるなら、魔王とかそういうのいるんじゃないかなー、的な感覚でアクルは尋ねた。
……こういう世界に召喚される話しを、アクルは昔、学校の図書室だかなんだかで読んだ気がする。
あまりやった事は無いが、ゲームでは結構ありそうだし、アニメとかでも多い……気がする。
実を言うと、構わない。魔王討伐……おおいに結構ではある。
問題は出来るかどうかである。とてもじゃあないが、勝てる気がしない。
何だか凄い力を手に入れた気がするが、猫が小判を手に入れたって買い物が出来る訳ではないだろう。
つまり、そういう事だ。
だが、この頭の声がそれを望むなら、頑張ってみるのもいいかな、とは思っていた。
……誰からも必要とされない自分を、必要としてくれるのならば。
「……ああ。ああ、成程な」
頭の声は、少し考えるような雰囲気を出した後、軽く笑った。
「だいじょぶだいじょぶ!そんな事はしないし出来んよ。魔王は十年くらい前にやられてるから不在なはずやからね。
いないもんは倒せねぇ!」
その言葉に、アクルは少しだけホッとした。
しかし、なんだか面白そうに頭の声は語る。
……なんにせよ、なら疑問だ。自分が、何に必要だというのだろうか。
「……あ、そうだ。そう言えば、我さんはなんてお名前なんですか?」
「ん、我かい。我はな……あれ? 本名忘れた。長い事使ってねーからなぁ。名前って、基本的に自分より他人が使う事が多いから仕方ないよね?
つーわけで、みんなから言われてた名前を使うぜよ!」
頭の声が、ちょっとウキウキした調子でそう前置きする。