「…………────。」
体が再生していく中。……それでも虚ろな意識の中。気付けばアクルは、なんとなく寂しい景色の中にいた。そして、なんだか寒い。
ここはどこだろうと思う。星や銀の月がよく見える。
視界の隅にモヤの様な何かが見えて、なんだろうと視線をやる。
最初はなんだかよく解らなかったが、少ししてから理解が追い付いた。雲だ。
まばらに雲が見えた。旅客機が飛ぶような高度にアクルはいる。
「…………」
長く、感じた。ずいぶんと永く、この場所を漂っているように感じる。
実際には数秒程度だろうに、アクルには数時間はそうしていた様に感じる。
……意識がハッキリしない。身体中が変だ。ダメージのせいだろうか。それとも、急激に雲の高さまで飛んでしまったものだから、気圧の変化で身体がおかしくなっているのだろうか?
解らないしどうでもいい。引っ張られる感覚。重力に、星に、引力に。落ちるのだろう。
またあの場所に、身体が引き摺られて行く。
「……死ぬの、かな。」
ぽつりと、口から漏れた疑問。
死ぬなら死ぬで、それでいい。何度も何度も死にかけて、ようやく死ねるならそれでいい。やっと楽になれるだけの事だ。
感情も体温も無い肉人形に成り果てるだけの事なのだから。
ああ、そうだよ。あたしは、死にたかったんだ。
アクルは思う。結果、生かされる形になっただけで。死にたくても簡単に死ねないから、仕方ないから生きてただけで。
もう、いいよ───目を閉じる。
このまま落下して、今度こそ死ねるかな?
死ねたら……いいなぁ。
「いたいなら、何時までもいて欲しいけどね、僕としては。
アクルちゃん、可愛いし。」
「美味しい料理も作ってくれるしねっ!」
ふと思い出して、閉じた目をアクルは見開いた。
あの時間の会話。今日の朝の……いや、もう昨日の朝だろうか。リュエンとラビィが、自分なんかのために贈ってくれた言の葉。
「………………───あ。」
ポロポロ、ポロポロと溢れる雫。大きな瞳から、ポロポロ、ポロポロと零れる涙。キラキラ光る雨は、暗い夜空に吸い込まれて消えて行く。
だって、嬉しかった。とてもとても、嬉しかったんだ。
このまま墜ちて、ずっと独りで真っ暗闇。……それで、いいの?
自分が自分にそう尋ねた。どうなんだろう。嫌……なのかな……?
「嫌だったらっ、ここに戻ってくればいいわよっ!
帰ってきてもいいわよっ!」
思い出す、言葉。いいのだろうか。
あたしは、帰ってもいいの? 生きてて迷惑じゃないの?
あの場所に帰って………『ただいま』って、言ってもいい?
意識が遠退き、ゼロになって行く最中、何かが目覚めて行く。心臓が躍動した。骨が軋む。
地面に落下した衝撃が駆け抜ける。………樋山アクルには、やはり生きたいとは思えなかった。
でも。……それでも。
少女は帰りたいなと思った。小さな意識で……だけど、とてもとても強く想った。
薄れゆく意識の中で………………
あの家に帰りたいなと……樋山 悪流(ひやま あくる)は強く祈った。