薄幸の堕天使   作:怒雲

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鬼若丸

 

 

 

 

 空っぽになった様な心を引き摺って、アクルは森をさ迷い歩く。

 

 なんでこうなるんだろう。いつもいつも……。

 

 

 欲しいものは手に入らない。愛したい者にはいつも拒絶されるのだ。

 

 

 

 思い浮かぶ街での日々。いい場所では無かったが、ラビィ達は本当によくしてくれた。帰って来てもいいよと言ってくれた。

 

 嬉しかった。本当に嬉しかった。そんな事、一度も言われた事がなかった。

 

 

 

 でも……それは、あたしが魔王だと知らないからなのだ。もう、帰れないだろう。あの場所には行けない。

 

 

「あ……荷物……」

 

 使わせてもらっていた部屋に置きっぱなしだと気付き、アクルは足を止めて振り返る。

 

 が、戻る訳にもいかずにまた足を動かせた。

 

 

 ……掃除くらい、しておきたかったな。

 

 

 

 

 

 

 やがてアクルは街道に出た。左右を森で挟む街道。

 

 

 アクルは、森の中からそれを見付けて……なんとなしにそこに向かって。

 

 

「…………───っ」

 

 歩くその方向から人影が見えた。

 

 人影は、すぐに月明かりに照らされその姿をうつし出す。

 

 

 

 

 

 少年だった。灰色の髪をした、小綺麗で端正な顔立ちをした、凛々しい青年である。

 

 男性にしめは長めの後ろで結んだ髪。

 紺色の着物に灰色の袴姿は、まるで侍のようだとアクルは思う。

 

 

 人間では無い。頭には、牛の角がはえているので間違いなく魔族であろう。

 

 

 

 

「…………だれ、ですか?」

 

 

 こちらに向けて近付くその姿に、アクルは後退りながら尋ねる。魔族というのは一目で解る。

 

 

………ただ、かもし出すその雰囲気は───

 

「……牛若(ウシワカ)。」

 

 暗い森の中に……青年の、凛としたよく通る声が響いた。

 

 

「魔星十二支が一人、牛わ────」

 

 

 

 アクルの行動は早かった。彼が言い終えるその前に、その手からは電光が発して、直後には雷神の大槌、ミョルニールが握られる。

 

 後方に大きく跳びながら、アクルはミョルニールを大きく振りかぶり地面を殴る。

 

 

 抉られた大地の礫が、魔族の青年、牛若に襲いかかった。

 

「むっ……!」

 

 

 牛若は、迫る大地の礫を右手だけで全てを払いのける。アクルは、既に遠くの方にいて、慌てた様子で追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイエエエエ!? ジュウニシ!? モウヒトリジュウニシナンデ!!?」

 

 まさかの魔星十二支もう一人のエントリーに、魔王が思わず叫ぶ。これはヤバいというアトモスフィアを感じたのだ。サツバツ!

 

 

「アイエエエエ!! コワイ! ゴボボーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……魔王が死ぬほど喧しいと感じるが、アクルにそんな事を気にする余裕は無い。

 

 先程、自分を襲った男……喰鼠(くうそ)。それに匹敵する化物が現れたのだ。

 

 そして、追い掛けて来ているのだ。魔王を気にしている余裕は無い。

 

 

 必死こいて走るアクルの背後、迫る足音と共に、追い掛けて来ているであろう牛若の声がアクルに届く。

 

 が、なんと言ってるか解らない。というか、解る必要は無い。

 

 待て! といったニュアンスの言葉だけはなんとか聞こえたが、待つわけが無い。

 

 

「待てと言われて待つ奴がいるか!なに言ってんだ、ふざけるな!トイ・ストーリーが!!

バーカバーカ! オタンコナース!お前の母ちゃんインダス文明!」

 

 

 牛若に聞こえる訳は無いが、魔王は罵詈雑言を浴びせる。待てと言われて待つわけが無いというのは同意だが、別にけなしたいわけでは無い。なんか意味不明だし。

 

 

 全力で逃げていたアクルの耳に、水の流れる音が聞こえて、そっちに向かう。

 

 多分、川があるのだろう。ミョルニールを上手く使えば、いいダメージが与えられるかもしれないとアクルは考えたのだ。

 

 

「川に向かうのか?ああ、ミョルニールでビリビリ大作戦か!あの日に闘鶏(バイチキ)にやったみたいに!

 いいゾ~!アクルたん、いいゾ~それ!黒焦げにしたれッ!あのクソったれなファッキン牛野郎を黒焦げにしたれッ! ウェルダンのステーキにして食ってやろうぜッ! HAHAHA!!」

 

 

 

 

 

 ……別にそこまでしたい訳では無い。食べるなんて論外である。

 

 まぁ、いつもの魔王ジョークだろう。実際に食ったら間違いなくドン引きである。

 

 川を目指し森の中を疾走していると、突如坂道になる。浅そうだが、広い川も見えた。

 

 足場が悪く、アクルはこけてしまって、坂道を転がり川まで落ちた。その際にミョルニールを手放してしまったが、また出せばいいだけなので大した問題じゃあない。

 

「いたた……ッ!」

 

 びしょ濡れになってしまったが、気にせず立ち上がろうとして……すぐ近くから息遣いを感じ、アクルの表情が強張った。

追い付かれた?

 

 

 いや、違う。背後から迫る気配とは別に、もうひとつ、すぐ右に……。

 

 

 アクルの身体が丸太の様な何かに弾かれて、大きく宙を舞う。

 

 

「……────カハッ……!」

 

 

 空中から小川に落ちて、アクルは衝撃に息を呑む。浅く、アクルの足首くらいの水しか無い為に、砂利の地面にぶつかる衝撃を、ほぼモロにくらったのだ。

 

 

 ……正直、喰鼠の一撃に比べれば全然ではあるが、だからといって痛くない訳では無いのである。

 

 

 痛みをこらえつつ視線を凝らすと、巨大な蛇の様な生き物がいた。

 

 

 以前見た、ワーム並に巨大な蛇。だが、その顔は鳥のようである。

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