薄幸の堕天使   作:怒雲

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戦い終えた街で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう護衛しなくていいって事は……アクルってのは死んだのか?」

 

 然程広くない木造の店の中、スネルフは眉間に皺を寄せながら店主であるフルールドと、一匹の羊に尋ねた。

 

 

 

 

 霊狐を倒して少しして、スネルフの前に羊が一匹現れて、「もう護衛はしなくていいよ。この街に『百合の花商店』を召喚したから、一度そっちに来て。」 とか言ってきた。

 

 スネルフはその羊が、メリーの使いである事を知っていたので、特に羊が喋った事には驚かない。

 

 よく解らないが、メリーは大量の羊を呼び出し、その羊を使って通信やらなんやらが出来るのだ。

 

 

 魔術……ではなく異能力の類だろうなとスネルフは思うが、まぁそれは別にどうでも良い事である。

 

 

 護衛の対象を護衛しなくていいという事は、つまりは任務失敗と考えるべきだ。

 

 木造の店内は、変わらず左右に棚があり、片方にはよく解らない小物。片方には様々な武器。

 

 スネルフだけではなく、店内にはベアル達も来ていた。

 

 その内、ラビィは訝しげな表情で店主であるフルールド・ブラックサレナを眺める。

 

 

 背は高くもなく低くもなく。顔立ちは幼くも見えたし、妖しげな雰囲気から妙齢な女性の様な空気も醸し出している。

 

 

 黒い絵の具をぶちまけた様なローブと尖り帽子を頭に被り、帽子にはちょこんと可愛いらしい白百合の花が添えられている。それが、彼女の黒い雰囲気を強調し、また白い百合もその白さを強調していた。

 

 

 長い髪は、光り射さぬ深海の様にどす黒く、肌は蒼白く、まるで死者のようだとラビィは思う。

 その目は様々な絵の具を混ぜ合わせた様な不快な色に濁っていて、なんとも嫌な雰囲気を醸し出している。

 

 

 リュエン達から話しは聞いていたが、ラビィは会うのは初めてである。

 

 まぁ、あまり良い話しは聞いていないので、正直会いたい訳では無かったが。

 

「うん。魔王アクルは死んでないよ。とりあえず、護衛する必要はなくなったかな。」

 

 

 フルールドの足下にいる羊がそう言って、スネルフは特に表情を変える事なく質問をする。

 

 

「そうかい。で、オレは任務失敗って事になるのか?」

 

「それはないね、こっちの都合で急転換してるわけだし。もちろん、依頼料は出すよ。

 ……でさ、スネルフ。悪いんだけど、こっから別件を頼みたいんだ。いいかな?」

 

「……要件次第だな。」

 

 

 まぁ、どんなもんでもやる気だがなとスネルフは思う。

 

 

 

 

「うひひぃ~……ベアルさんたちもぉ~。ご苦労しゃまでしぃたぁ~」

 

 

 呂律の回らぬ口調で話し掛けられ、ラビィは微妙な顔をする。ただでさえ、今はいろいろと複雑な気分だった。

 

 

 アクル。彼女が訳ありな事くらいは察していたが、魔王とは流石に思わなかった。

 

 

「うむ!と、流石に痛むのう。」

 

「大丈夫ですかな?」

 

 

 十二支、喰鼠の攻撃はかなりのダメージがあったらしく、ベアルは軽く怪我をした箇所を押さえる。

 

 

 ……アクルがくらった際は、一キロ近く家々を突き破りながら吹き飛ぶ様な尻尾攻撃を受けて、この程度で済んでいるベアルは、何気に凄いと言えるだろう。

 

「うぇっえっえっえっえぇ~……とりあえずぅ、依頼料でしゅう~。」

 

 

 依頼の金を受け取りながら、キーレースは金額の確認を始める。

 

それを横目に……リュエンはフルールドに視線をやる。彼女は、なにやらゆらゆらと揺れていた。

 

 

「ねぇ、フルールドさん。」

 

「うぃー?なんれすかー? リュエンくぅん。うひっ!」

 

「……アクルちゃんが魔王ってのは、信じられないけど本当なんだとして。

 護衛の必要が無いってのはどういうこと?」

 

「んー。そーれしゅねぇ~。 ……十二支が一人、護衛に駆け付けてくれるみたいなんれひゅよぉ~。」

 

 

 そう言って、フルールドはニタニタと笑った。

 

「……魔族も、魔王を狙ってるんじゃあないの? 器が人間だからとかでさ。さっき、そう言ってたじゃん。」

 

「ウヒヒ~そうじゃない魔族もぉ、いるってことれしゅよぉ~……オホッ!」

 

 

 ラビィはふと、隅で動く何かを発見しそちらに目をやると、ゴキブリが一匹壁に張り付いているのが見えた。

 

 やぁねぇ、とか思っていると……フルールドの口がパカッと開く。

 

 

 そして、伸びた。舌が。ベロが伸びたのだ!

 

 ラビィはギョッとしながらその光景を見ていた。

 

 伸びた舌はゴキブリを捕らえ、そのまま口の中まで持って行く。

 

 

 ムシャムシャというか、バリバリというかな音をたてながら、ゴキブリを咀嚼するフルールドの目が、ラビィと合う。

 

 目があってしまい、ビクッとするラビィに対し、フルールドは、にちゃ~と笑った。

 

 

「好きなんれしゅよ。ナッツ。」

 

「……………えっ?」

 

 

 言ってる意味が解らず固まるラビィ。フルールドの口の隅からは、ゴキブリの足の一部が顔を覗かせている。

 

 ナッツの筋かなにかにはとても見えない。それとも、彼女の言うナッツとは、虫かなにかの隠語だろうか?

 

 

「………………」

 

 こいつは人間なのかしらと、ラビィは思う。フルールドは、特に気にした様子なくラリっていた。今日も元気にお薬常習犯の御様子だ。

 

 

 

 

「スネルフ。悪いんだけどさ、一度一区に来て欲しいんだよ。」

 

 メリーの羊にそう言われて、一区か、とスネルフは呟く。五区から出るのは初めてだ。

 

 出たい訳でもなければ、出る必要があったわけでもないので当然だろう。

 

 

「……ま、いいぜ。」

 

 スネルフはそう言って、少しだけ笑みを浮かべた。

 

 

「おいフルールド。オレはちょっと寝るぞ。」

 

 

 まだ体調が良くない上に、寝てるところを叩き起こされて戦場に駆り出されたのだ。眠くて仕方ない。

 

 スネルフは、フルールドの返事を待つ事なく、カウンターを越えてその奥の部屋に消えていく。

 

「相変わらず人の返事を聞かないれしゅねぇ~……まぁ、べちゅにいいれしゅへど。」

 

 ニタニタと笑うフルールドの足下で、メリーの羊はさて、と一言呟きベアル達に向き直り、言った。

 

 

「とにかく、ご苦労だったね。君達の任務は、無事終了したよ。」

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