「えっと……終わりでいいのっ?」
おずおずとラビィが尋ねると、メリーさんの羊からは、うん!と明るい声の返事。
「よく保護してくれたねぇ、助かったよ。あの子、心配だったからさ。」
「……それなら、メリー殿が一緒にいてやれば良かったのでは?」
キーレースが、単純な疑問を投げ掛ける。船で一緒だった事は知っているのだ。
「そうしたかったんだけどねぇ~……ま、不都合があったのさ。」
あれ以上は、貘予さんの監視を誤魔化せなかったしね。まだ、バレる訳にもいかないんだよ。
「ふむ………まぁ、多くは聞くまい。」
関係の無い事だしなとキーレースは踵を返す。金額の確認は終わったらしい。
「もう要件はないのだろう?」
「うん。本当に助かったよ。」
その言葉を聞いて、ベアル達がぞろぞろと店から出て行く中、リュエンは振り返る。
その視線の先には、複雑そうな表情でうつむいているラビィの姿。
「…………ラビィ、どうしたの?エッチな事でも考えてるの??それともエロい事?」
「どっちも一緒じゃないっ! ていうか、なんでこの状況でそんな事を考えるのよっ!おかしいでしょっ!?」
リュエンは、店から出ようとしないラビィに声をかけて、ラビィは声をあらげながら返事をした。
何時もの調子に戻ったかなと、リュエンが再び口を開こうとすると───
「うっほ!エロでしゅって!?」
フルールドが反応し、勢いよく飛び上がった。リュエンは、ちょっとしまったなと苦笑を浮かべる。
「落ち着いてよフルールド」
メリーが呆れた様子で声をかけた。正直、うるさい。なんか、話があるっぽいのだから静かにしてほしい。
しかし、そんな事でこの痴女は止まらない。止まる気がない。
「ラビィちゅわ~ん! わたしとぉ、エッチしましょぉ~よぉ~!」
「ひっ……ひぃ!」
頭を前後にガクガク振るわせながら迫り来る超変態アルティメット・クレイジー・サイコ痴女。
気持ち悪く、気色悪く、気分悪いその動きにドン引きしながらラビィは逃げようとして……壁際に追い詰められた。
「うっひーっ!!!私のぉ~!!!アワビとぉ~ラビィちゃんのぉ~アワビをぉ~ごっつんこぉッッ!!」
「よ、寄るんじゃあねぇわよっ!このヘンタイ痴女がっ!」
ラビィのすぐとなりから波紋が広がり、等身大の兎顔人形が現れてフルールドを殴り飛ばした。
見事なストレートパンチが決まり、フルールドの顔から凄い音が鳴り響く。
しまった、やりすぎたかとラビィは思うが。
「うっひょひょ~い! いいパンチれひゅねぇ~!!
……パンチとパンツって似てますよね。似てない?」
最後の一部だけやたらハッキリした口調で言ったフルールド。
「……うん、本当に落ち着いてくれるかいフルールド?」
メリーの、心底呆れた声声が店内に響き渡った。
しかしフルールドは無視して、良好!とか言いながら人形の手をペロリと舐めていた。
「はいはいフルールドさん。欲求不満なら僕が後で相手してあげるから。」
「わぁい! リュエンきゅんだいしゅきー!……ウホッ!」
このままでは話しが進まないと、リュエンがそうフルールドに提案する。まぁ、最初に彼が余計な事を言わなければ良かっただけな気もするが。
やれやれと……メリーの羊は、さっき舐められた人形の手を消毒しているラビィの方に向き直る。
「それで……ええと、ラビィさんだったかな?まだ、何か要件でもあるのかな?」
メリーの問い掛けに対して、ラビィは、ええと、と一言おいてから尋ねる。
「魔王は……アクルちゃんは、これからどうなるのっ?」
「んー……どうなるかな。まぁ、人類の敵になるって事はないと思うよ。」
「そうっ……えと、これからどこに向かうのかしらっ?」
「……それを聞いてどうするんだい?」
メリーの声色が少し低くなった。
その為に、リュエンは少し慌てて間に割って入る。
「ほらほら、ラビィ。もういいでしょ?もう僕らには関係の無い話しなんだから。」
「でもっ……!」
ラビィは、自身の黒いローブを軽く握りながら、ポツリポツリと呟く。
「そのっ……心配、なのよっ。」
ポツリと零れる純粋な少女の言葉に、少しばかりその場を静寂が包む───
「うひひぃ~リュエンきゅん、早く抱いてぇ~。」
───包むはずだったが、フルールドは自重しなかった。
「……まぁ、少しは気持ちも解るけどね。」
だいたい五日間程度といえど、共に過ごしたのなら行方くらいは気になるものだろう。だが。
「悪いけど、言えないな。聞いたら、深入りしてもらわなくちゃいけないよ?解ってるかい?」
メリーの言葉に、ラビィは少し息を呑む。それはつまり、これからも魔族と戦うだろうし、なにより人間までも敵に回す可能性があるという事だ。
ぎゅっと……ローブの裾を握りラビィはうつむいて……
「リュエンきゅーん。ひゃやくひゃやくー。」
そんな事を言いながら、リュエンのゴスロリスカートの中に頭を突っ込むフルールドを見て、ラビィはぎょっとしながら、なにやってんのよと呟いた。
「はいはいフルールドさん。今はちょっと大事な話しの最中だから、もうちょっと待っててねー。
暇ならこの店の周りを走っててよ。息切れプレイしたいから、ざっと五十周くらい。」
「フィ~ヒヒヒヒヒィ! ヨロコンデー!!」
そう言って、何故か全裸になり駆け出して行くフルールドをポカーンとしながら見送り、なんなのよあいつはとラビィは呟くのだった。
「とりあえず、これ以上の深入りはオススメしないよ。」
諭すように、羊は言う。
「でもっ……」
それでも食い下がろうとするラビィを制して、リュエンは笑う。
「ほらほら、ラビィ。メリーさんが困ってるだろ?
それじゃあ、僕らはおいとまするよ。またね。」
「うん。機会があったらまた頼むさ。」
そう言って、ごねるラビィを引き摺りリュエンも出て行ったので、店内はシンと静まり返る。
「さて、私も……て、フルールド店主が帰ってこないな。無視して私も消えようかな。」
でも、後でうざそうなんだよな。どっちにしろウザイか。うーん。
そう悩んでいると、扉が開き全裸のフルールドが乱入してきた。
「ハァー!ハァー!………あれ?リュエンきゅんは??」
「え?帰ったけど?」
「なん……だと……?」
さも当然のように放たれたメリーの言葉に、フルールドは驚愕する。
「えぇ~! 息切れプレイはどうなったのぉ~!?」
「さぁ? ていうかなんなんだい、息切れプレイって。
……あ、やっぱりいいや。聞きたくない。」
走って来たせいか、薬が抜けたらしいフルールドはトホホー、と呟く。
「仕方ないですねぇ~。寝てるスネルフ君を襲って来ますよーだ。寝込みプレイ!」
そう言って、バタバタとフルールドはカウンターの奥に消えて行く。全裸で。
「…………。さて、私も消えるとするかな。」
メリーの羊は、陽炎の様に歪み……その場から消えた。 襲われているだろうスネルフを放置して。
そして二階からは、怒声と何かを殴る音が響き渡るのであった。