薄幸の堕天使   作:怒雲

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「ふっふっふっ、我は────」

 

満を持してな気持ちで、頭の声が名を告げようとしたその瞬間だった。

 

アクルの足下が……地面が、モコモコと蠢いたのは。

 

 

「………?」

 

不思議そうに視線を下に向けるアクルと────

 

「─────避けろナッパ!!」

 

 

叫ぶ頭の声。

 

 

 

 

「えっ……!?」

 

 頭の声がアホな事を言ったせいか、ビックリしてアクルは固まってしまった。

 

 そのせいで、次に来る衝撃から回避する事が出来なかった。

 

足下から来る何やら凄い力に吹き飛ばされてしまうアクル。

 

「あっ……ガッ……!?」

 

 

 近場の岩に頭をぶつけてしまい、頭蓋が割れて潰れたスイカのような有り様になる。ついでに首の骨も折れたらしい。

 

 

「アクルたん、しっかりー」

 

 どうやら自分も痛い筈だが驚く程に呑気な頭の声。つーか多分、だいたいこいつのせいである。

 

 

「うっ……ぁ……?」

 

 みるみるうちに再生していく頭を押さえながら、アクルはよろよろ起き上がり目に映ったモノを見て、固まった。

 

「な、なんですか、ナッパ?さん……あれ、み、ミミ……ズ?」

 

 

 物凄く大きなミミズ、というのがアクルの印象だった。色合いもそれっぽい。

 

 そこらの木並みの太さで、大きさはどれくらいだろうか?

 民家に巻き付けそうなくらいの体長である。

 

「我は禿げてないよ!?……うん、こいつは『ワーム』やね。……なんでいんの?」

 

「ワー……ム……?」

 

「んむ、ワーム。こんなだけど一応、ドラゴンの一種だな。ドラゴンの中じゃあ最弱候補だが、それでもドラゴンだ。強いぜ。

 しかも、名前が短過ぎて今一、略したアダ名がつけられない恐ろしい奴だ。

 どのくらい恐ろしいかっつーと、そこらの岩だろうがアンタが戦ったコロちゃんだろうがアーノルド・シュワルツネッガーの筋肉だろうが噛み砕いちまうくらい恐ろしいやつだ。本来なら、こんなとこにゃいないと思うんだけどなぁ……」

 

 頭の声は歪みなく呑気な口調でそんな事を言った。

 

 

 

「どらごん……?」

 

 

 名前の響きだけで、アクルにもコイツがどれだけヤバいのかが伝わる。まぁ、見た目からして既にヤバいのだが、ドラゴンときたものだ。

 アクルはファンタジー大好き女子というわけではないが、ドラゴンくらいは知っている。

 

でも、ワームって虫とかミミズとか、そういうのじゃあないのだろうか。

 

 ワームは、身体をうねらせアクルの方に向いていた。

 

目はないものの、再生していくアクルに対しなにか感知したのか、少しばかり様子を伺う素振りを見せていた。

 

しばらくこちらに向けていた顔と思われる箇所に、横一文字に線がひかれたように見えたかと思えば、そこから裂けた。どうやら口らしい。

 

 ギラつく白い牙と赤い蛇の様な舌。

 

 

「うん、めっちゃ獲物として見られとるね、こいつぁあグレートだぜ」

 

 

 今のアクルたんじゃあ荷が重いか?『ディアブロ』使えば余裕だろうけど、それじゃあ……。

 

「ひっ……!」

 

 そのまま此方に向けて突撃して来るワームを見て、アクルは真横に飛んだ。

 

 ワームは見た目に反してかなり速いのだが、アクルの方もコロコッタに襲われた時よりもかなり身体能力がはね上がっているらしく、ワームよりも速い。

 

 もっとも、アクル本人はその事に気付いてはいないようだが。

 

 

 

 なんとか避けたアクルの片手がキラリと光り、その手には鍔の無い銀色に輝く大剣、『クラウ・ソラス』が握られる。

 

「あ……」

 

 その剣を見て、アクルは一瞬戸惑った後に構える。

 

「へっぴり腰の構えキター! つーかやる気なのかアンタ、逃げる気は?」

 

 

「た、多分逃げきれませんし……強気なとこ見せれば、大丈夫かなって……!」

 

 襲い来る攻撃を、なんとか避けるアクル。そこそこ隙間はあるとはいえ、木々が密集した地形だというのにワームはスルスルと軽やかに移動している。

 

「あー、ムリムリ。あいつらドラゴンは、簡単にゃ退いてくれねぇよ。自分より強い存在なんて滅多にいねーんだもん」

 

「そ、そんな……」

 

 ガチガチと奥歯が鳴る。ワームの巨大さを見て、勝ち目なんて無いように思えるが……。

 

「ま、いけなくもないけどな。アイツが向かって来たら、ワームのスピード利用してカウンターかましてやればいいよん。

 口元を斬り裂いたれぃ!」

 

 

 と、大変見事な無茶振りが頭の中で響く。

 

「そ、そんなの──ひっ!」

 

再びワームの口を避けて、よろけながらもふんばり態勢を立て直すアクル。

 

 

「うぅ……」

 

 そして大剣を握り、アクルは再びワームに向き直る。

 

そんな勇姿に、アクルたん、結構勇気あるなー、とか頭の声は呑気に思った。

 

「ひぃっ!」

 

 再びの攻撃を避けて、無理、やっぱり無理ですとアクルは叫ぶ。

 

 が、直ぐ様ワームは大口開けて突撃して来た。

 

「もちつけーいアンタ! よく見りゃ、そんな速くない筈だぜそいつは!」

 

 頭の声は多分、落ち着けと言いたいのだろう。書きにくいからちゃんと喋って欲しいものである。

 

「そ、そんな事……っ」

 

 言われてもと言いかけて、アクルはまた身構える。ワームはまた突進して来た。

 

 あっちもイラついて来てるなー、とか頭の声は思う。こんな小さい生き物にここまで苦戦するとは思わなかったのかもな。

 

「あ……。」

 

 確かに、さっきから見えない程じゃあないとアクルは思う。印象程は速くなかった。

 

 巨体だし、鈍いのかなと思うアクルだが、単純にアクルが滅茶苦茶に速くなっているだけであり、ワームはかなり速い。

 

 

 

 

 ……とはいえ、アクルに口元近くを攻撃なんて恐い事が出来る筈もない。

 

 

 

 アクルは何とか突進を避けて、崩れそうな体勢を整えつつ大剣(クラウ・ソラス)を握り締める。

 

 

「─────やっ!」

 

 そして、全力で横腹に向けて大剣を振り降ろした!

 

 

 

 

 

「───が、駄目……! 弾かれる……! ほぼノーダメージ……! 無力……! 圧倒的無力……!」

 

 

 クラウ・ソラスはかなり良い武器なんだがなぁ、と頭の声は思う。やる必要なさそうな実況をしながら。

 

 

 ま、我とまだ完全に同化してる訳じゃあないしなぁ。完全なら、アクルたんみたいなへっぽこ剣技でもワームくらい余裕で斬り裂けるんだが。

 

 

 

「え……うっ!」

 

 剣を弾かれ体勢を大きく崩し、大地を転がり慌てて起き上がるアクル。

 

 

「……あゃ?」

 

 

 すぐにまた突撃してくるかと思ったが、ワームはやや離れた位置からアクルの様子を伺っていた。

 

 

 もしかして、結構痛かったのかな? とアクルは思う。ここで威嚇したりしたら、驚いて帰ってくれるかもしれない。

 

 

「が、がおー! あたし強いですよー!」

 

「えっ……急にどうしたアクルたん……その、あざとい?行動……」

 

 

 若干ドン引きする頭の声。残念ながら、アクル本人は大真面目である。

 

 

 しかし、ワームは特にたじろいだ様子はなく悠然としていた。かなりのドラゴンっぷりである。

 

 

 

 

 ふと、ワームの頭より下……喉にあたるであろう箇所が膨らむ。

 

なんだろう?と、アクルは少し固まってその様子を眺めて。

 

「あ、ちょっ、避けろって!」

 

 思わず叫んだ頭の声に、はじかれたように、咄嗟に体を真横に飛ばした。

 

 

 ……のとほぼ同時。ワームの口から濁った液体が吐き出され、アクルがさっきまでいた場所に降りかかる。

 

「うっ……!?」

 

 

 さっきまでいた場所から、もの凄い異臭を感じてアクルは顔をしかめ鼻を押さえる。

 

 見ると、草木や岩までもがドロドロに溶けていた。

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