薄幸の堕天使   作:怒雲

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なんにせよ、アクルは初めて友達が出来た。

 

まだ、信じられない気分である。勇気を出して、良かった。

 

 

 

 

 

「…………っ」

 

 

 そこまで考えたところで……ふとアクルは、喰鼠の事を思い出した。自分が、殺してしまったらしい魔族の事を。

 

 

「……どうしたのじゃ?」

 

 ふと暗い顔になっている事に気付き、牛若は優しく微笑みながらそう尋ねて、アクルは少ししどろもどろになる。

 

 

 言うべきかどうかと悩んで……結局言った。

 

 

「……そういえば、あたしその……魔族を、殺してしまいました……その、十二支の方、らしくて……」

 

 

 その言葉に対し、牛若は意外そうに目を丸めた。

 

 

 

「なんと。……その者、名前は解るかな?」

 

「えと……喰鼠(くうそ)って、言ってました……」

 

 

「……ッッ!!?なんと……」

 

 

 牛若は驚いた顔をして、アクルをしげしげと眺める。

 

 

 一応、喰鼠が向かっている事は非羊から聞いていた。故に急いで来たのだが……まさか返り討ちにしているとは思わなかったのだ。

 

「その……覚えてはいないんですけど……。

 ごめんなさい……。」

 

「…………」

 

 

 暗い顔で項垂れているアクルを、牛若はしばし眺める。

 

 アクルは、目を合わせる事が出来ずにただただ項垂れていた。

 

「あ……」

 

 

 ふと、頭に温かな手の感触を感じる。牛若の大きな手が、アクルの頭を撫でていた。

 

 

「……なに。喰鼠や鼠族の事なら気にするな。

 あやつらは、ああいう奴らじゃからな。……本望というやつじゃろうよ。」

 

 

 頭を撫でられながら言われて、アクルは顔が熱くなるのを感じる。

 

 そういえば、人から頭を撫でて貰うのも初めてかもしれない。

 

 少なくとも、記憶には無かった。お母さんに撫でて欲しかった事を思い出す。

 

 

「…………牛若さん。」

 

 

 アクルより背の高い牛若の顔を、上目遣いで見つめると……彼は、先程と変わらぬ優しき笑顔。

 

「……えへへ。」

 

 

 なんだか嬉しくて、アクルの顔は思わずゆるむのだった。

 

 

 

 

 

 そんな様子を眺めながら、さて、と牛若は思う。とりあえず、魔王に合流出来た。ここまでは良い。

 

 問題はこれからじゃなと思う。魔王アクルの様子を見るに、喰鼠に勝ったのは魔王の力が暴走したのだろう。

 

 

 喰鼠の性格上、決して退かないじゃろうしな。

 

 故に、なんとか勝てた。

 

 

 

 ……次もそう上手く行くとは限らない……と、いうか、無理だろう。

 

 

 故に自分がいる訳なのだが。

 

 

 しかし、理由はどうあれ正式な魔王であるアクル殿を襲うとは関心しない話しじゃ、と牛若は思う。

 

 

 ……自分と同意する魔族の数が、どれだけいる事か。

 

 

 とりあえず、十二支には自分と非羊は確実として、非羊によれば音兎(オト)と走馬(ソウマ)もそうらしい。

 

 

 少数派ではあるが、いずれは……

 

 

 

 テクテクと牛若と並んで歩きながら、アクルは少し考えてみる。

 

「あのっ、牛若さん。」

 

「ん? なんじゃね?」

 

 

 えーと、とアクルは少し聞き辛そうにおずおずと尋ねてみた。

 

 

「喰鼠さんって……その、十二支でどれくらい強いんですか? い、一番弱いとかってないですよね?」

 

 

 あれが最弱とかだったら嫌過ぎると思いながら尋ねてみると、牛若は少し難しそうに腕を組む。

 

「さてのう……戦い方によって、相性というのもあるしな。

 そうじゃな、少なくとも真っ正面から戦う事を前提とするならば、喰鼠に勝てる者はそうはおらんじゃろうね。

 儂とて、あやつと無策で戦えば負けるやもしれぬし。」

 

 

「そう、なんですか……。」

 

「つまり、あの暴食チュウ太郎の強さがデフォって感じなんじゃあないか? せっかくだ、その相性のいい奴とかも聞いておこうず!」

 

 今の魔族の主力にも興味あるしなと魔王は思う。情報は多いに越した事は無い。

 

 

 戦いというものは、実際に対峙する前から始まっているのだ。事前にどれだけ準備出来るかが重要なのである。

 

 後は、相手が苦手とする戦いをしつつ、得意分野を押し付けてやれば良い。いかに相手の持ち味を殺せるかだ。

 

 

 

 

「そうじゃな……天鵬の奴なら、喰鼠の間合いの外から一撃で真っ二つに出来るんじゃあないかの。

 あと、猪突の奴は正面からの突進で力勝ち出来るじゃろな。喰鼠の奴は、あまり避けるとか退くとかせんしな。」

 

 

 はぁ、とアクルは呟く。喰鼠が一番弱い訳ではないというのには安心したが、同じくらい強いのが盛りだくさんと聞くと気が滅入る。

 

「万龍と従虎ならば、正面から戦っても勝てるじゃろうな。あやつらは、十二支でも特に強いからのぅ。」

 

「万龍と従虎……だと。あいつら、やっぱまだ生きてんのかー……嫌だなぁ……。」

 

 

 魔王が少し声色低くぼやく。知り合いなのだろう。

 

 

 どっちもかなり強い魔族らしい。魔王曰く、「アイツらは『超スゴイ級』の魔族」 との事だ。訳が解らないよ。

 

 ちなみに魔王自身は、『超テンサイ級』とかほざいていやがる。意味が解らない上に誰も聞いてない。

 

 とりあえず、喰鼠より強いのがいるという事実に若干項垂れるアクルだったが。

 

「まぁでも、そいつらはそうそう出てこねーよ。なんかあったらやべーからな。代わりが効かんやろし。」

 

 

 と魔王が言った為に、少し安堵する。

 

 

「……アクル殿の居場所は、貘予(バクヨ)という者により、大まかに把握されておってな。」

 

 牛若が説明をする。貘予という老婆の魔族がいて、そいつの異能力でどこにいるのか解るらしい。

 

 

 喰鼠がネズミ達を率いてこの五区に現れたのも、森で鎌鼬達に襲われたのも、最初に来た際に天鵬らがやって来たのも貘予に場所がバレたせいだそうだ。

 

 

 最初の際に、アクルが『不浄の左手(ディアブロ)』を使ってしまった為に、その膨大な力を感知されてしまったのだという。

 

 もっとも、貘予が監視出来るのは、貘予自身が寝ている間だけらしい。夢を見る様に、アクルの現在地を視る事が出来るのだ。

 

 

 ちなみに、牛若がこうやって共にいる事もすでに監視済みなのだという。

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