薄幸の堕天使   作:怒雲

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フルールドの世界

 

 

 

「おうふ……こんなところに店かまえてんのか……。」

 

 魔王が困惑気味に呟く。なんというか……人が来るには微妙な場所で、こっそりやるには堂々としている。そんな感じだ。

 

人通りが少ないのに繁盛してるのだろうかとアクルも思う。

 

 

 

 しかしどんな感じの人なんだろうとアクルは思う。リュエンよりヘンタイじゃなければいいなとも思う。

 

 

 少しドキドキしながら、アクルは牛若の大きな背を追い扉まで行く。

 

 

 なんとなく、こんな山奥にある割には綺麗な店だなと思った。

 

 

「……むっ。」

 

 扉を開けるや否や、牛若が立ち止まりアクルは少しビックリする。

 

それと……生臭いというか、鉄のような臭いに鼻がツンとなった。

 

 

 

…………何処かで、嗅いだ事のある臭い。これって────

 

 

「どうし───っ!」

 

 

 牛若の脇から店の中を確認し、思わずアクルは両手を口に当てながら後退った。

 

 

 薄暗い店内の床。そこに、黒髪の女性が仰向けに倒れていた。

 

 

 胸には、深々と剣が突き刺さっている。

 

「……………」

 

女性は、間違いなく絶命しているだろう。明らかに致死量だし、血が乾いているのが見てとれた。

 

 

 牛若は、アクルに自分から離れない様に促しつつ、女性の死体にゆっくりと近付いていく……すると。

 

「!?」

 

 死体がいきなり、ビクン!とはね上がった。

 

 

「ウヒッ!ウヒウヒウヒッ! ウッヒョヒョ~イ!!!」

 

 

 そして、起き上がった。まるでゾンビの様に。

 

「ドッキリドキドキ大成功ぅ~!カカカカカカカカカァ!!! ゲボッ! ゴボッ! ゴブェッ!」

 

 ゲラゲラ笑って頭を左右にガクガクさせていたかと思えば、吐血しながら胸の剣を引き抜く女性を見ながら、アクルは、あわわ、と牛若の後ろに隠れる。

 

 牛若は、なんじゃこいつ? 的な顔で女を眺めていた。霊狐の親戚かなんかじゃろか?

 

 

「ごめんねー、牛若。フルールドったら、このドッキリしないと何も売らないとか喚き出すもんだからさー。」

 

 

 カウンターの奥から、ピョン、と一匹の羊が跳んで現れた。

 

 なんだか可愛い光景に見えて、アクルは牛若の後ろからひょっこり顔を出す。

 

「……非羊(ヒツジ)か。」

 

「うん、私だよ。やぁ魔王様、一応はじめまして!」

 

「あっ………え、えと、はじめまして。」

 

 アクルは会釈しつつ、どっかで聞いた事ある声な気がするなー、と思った。

 

 

 

「くけかきくひひひぁへぇ~…貴女が魔王ちゃんでしゅかぁ~…かぁわぃい~……」

 

「ひっ………!」

 

 

 口から血をダラダラたらしながら笑うフルールドに、アクルは恐怖し、青ざめながら後退る。

 

「なにこいつ……怖っ……」

 

 

 魔王もビビる。なんっつーか、イカれてる。

 

 しかしなんなんだ? しぶとさは我ら魔王の専売特許のはずなのに、この前の変なキツネ女といいコイツといい、どうなってやがるんだ。

 

「……ずいぶん問題ある奴を紹介してくれたのぅ。」

 

「うん、本当にごめん。で、でも腕は確かなんだよ。本当に。

 こう見えて、意外と義理堅い奴だし、慣れて付き合えばわりといい奴なんだ。いや、本当にわりと。」

 

物凄くなにか言いたげというか、不満そのものな表情の牛若に対し、非羊はなんとかフォローをいれてみる。

 

 

 そんな非羊の言葉に、フルールドは耳をピクピク動かしグルンと振り向いた。

 

「ありぇありぇ~? 私とキミは、突き合った事ありましたっけぇ~?」

 

「うん、おかしいよね? 漢字が明らかにおかしいよね? そいった旨の話しはしてないよね?」

 

 

「胸の話しですかぁ~? 試します!?ねぇ試します!?」

 

「………うん。ちょっと黙れ。」

 

 

 ピョン、と羊が飛び跳ねて、フルールドの腹に頭突き突進!

 

 

「コフッ……!」

 

 

 フルールドは顔芸しながら、窓ガラスを突き破り強制退室退場となった。ざまぁ。

 

 

「あわわ……」

 

 困惑し戦慄するアクルをよそに、非羊の羊はコホンと咳払い。

 

 

「さてさて……牛若。ちょっと厄介な事になったよ。」

 

「……と、いうと?」

 

「擬猿(ギエン)ったら、凶(マガツ)を動かすつもりみたいだ。」

 

「なに……!?」

 

 牛若は眉間に皺を寄せた。

 

「……あくまで、魔王様の意思を引き摺り出すのが目的なのでは無いのか?

 凶の連中が、そんな器用な真似をするとは思えんぞ?」

 

「さぁてね。……案外、魔王を殺すつもりかもねー。」

 

 

 そんな会話を聞きながら、アクルはこっそりと魔王に凶とは何かを尋ねると、魔族の超犯罪軍団(メジャーリーガー)だと教えてくれた。

 

 

 つまり、ここ。五区人の魔族バージョンという訳である。コワイ!

 

 

 喰鼠とかは違うのかと問うと、喰鼠達ネズミ族は、魔族に迷惑をかけたいとは思ってないし、実際に危害はくわえない。

 

 時期が来ると、人里に特攻をかけるからである。

 

 

 

「………凶」

 

 そんな連中まで動き出したのかと、アクルはまた少し項垂れる。

 

 牛若がいるとはいえ、やはり不安だ。というか足を引っ張りそうなのだ。

 

 自分という存在が足枷になりかねない。

 

 

「…………?」

 

 

 何やら会話を続ける牛若と非羊をよそに、アクルの視界の隅に何かが映った。

 

 

 ふと目をやると、そこは割れた窓。

 

 そして、窓の外には生い茂る木々と……フルールドと呼ばれた女性がいた。逆さになって窓の外から中を覗いていたのだ!

 

「ひっ……!」

 

 

 短く悲鳴をあげて、アクルは牛若のそばまで寄る。

 

 

 フルールドのどす黒い髪も逆さになり、濁った目をこちらに向ける。

 

 

「な……! あ……!? なんだあいつぅぅぅう!!?

 貞子の親戚か!?」

 

 

 

 魔王、またもやビビる。あんなホラーな演出されたら我だってビビる。

 

 

 フルールドは、店の中にカサカサと入って来た。

 

 

 重力に逆らいながら。床には行かず、壁を這って天井まで行ったのだ。その姿はまるで、夏場に大活躍する家内に現れる害虫『イニシャルG』のようである。全体的に黒いし。

 

「キメエェェェェェッッ!!!」

 

 

 その異様な姿に魔王は思わず絶叫。気付いた牛若も、流石にたじろいだ。

 魔星十二支だろうが、キモいもんはキモいのだ。たじろぐのも無理はない。

 

 

「な、なんじゃこやつは……」

 

「フヒヒー。この空間は言わば私の世界ですからねぇ~……。ある程度は、自由自在なんですよぉ~。」

 

 天井にビシィッ! と張り付くフルールドの姿に、アクルも魔王もアワアワする。

 

 

「キモすぎだろコイツ! 嫌だ! 我もうやだ! 小生もうやだ!」

 

「そんな事を言わないで下さいよぉ~。」

 

「うるせぇ喋んな!……ん? いや、気のせいか?」

 

 

 天井に張り付いたフルールドは、ヒッヒッヒと笑っている。

 

 

 床にいる羊は、トコトコと歩いて壁に立て掛けてある槍の柄を口にくわえた。

 

 

 そして、穂先ではなく石突の方を向け、首を振り放つ。

 

「ぎょえーっ!」

 

 背中にくらい、ボトッ、と音を立ててフルールドは床に仰向けに落ちた。

 

「なんてキモい奴なんだ……」

 

 

 魔王が呟くと、フルールドはひぇひぇひぇと笑う。

 

 

「よく言われますぅ~。」

 

「だろうな……。

 ……………。

 なぁ、お前さ……。もしかしてだけど、我の声聞こえてんの?」

 

 

 フルールドは、手や足腰を使わずに起き上がる。まるでワイヤーかなんかで吊られたかのようだ。

 

 

「クケケケケ……初めましてですねぇ、先代魔王様?

 よーく聞こえてますよぉ、貴女のそのハスキーなお声。」

 

 

 マジかよと魔王は呟く。

 

「もうアクルたん以外に誰かと会話することねーだろうなと思ってたら、話せる奴がいたって事実は結構嬉しかったりするんよ。

 でも……でもよ……!

 その話せる相手ってのが……よりによってこんな奴ぅ!? はぁ!? 嘘でしょ!?

 ウソダドンドコドーン!!!」

 

「けけひゃらひひふひゃひゃあ!本当ですよぉ!」

 

 奇声にも似た笑い声をあげるフルールド。魔王は、よっぽど認めたくないらしく。

「夢だろこんなの……!」

 

 とか言うのだが。

 

「ところがどっこい……!

 現実です……! これが……! これが現実です……!」

 

 

 と、事実を突き付けられてしまった。

 

 

 そんなやりとりを眺めていた牛若が、静かに口を開く。

 

「……魔王様の……先代の意思は、まだアクル殿の中に……?」

 

「え? あ、はい。魔王さんはいますけど……。」

 

 

 いつかは消えるかのようなニュアンスの言葉に、アクルは困った様な顔になる。

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