牛若は、嬉しそうに笑った。
「おお………そうであったか、儂の声は聞こえておるのかのう?」
「ああ、えと、聞こえてるみたいです。」
それを聞いて、牛若は良かったと頷く。
「……先代様。あの日はお世話になり申した。
覚えて等おらぬでしょうが、十年程前。儂が小さき頃。山で遭難した時に助けてくれた事、この牛若はいまだに覚えております。」
「おう……。おう?お、おう……」
余裕の忘却である。これっぽっちも覚えていないらしい。
まぁ、悪いことした訳ではないし、別に良いのだが。
牛若としては、ちゃんと言葉にして伝えたかった為に、魔王が覚えてなくとも別に良いのだ。
「故に先代様。あの日の恩に報いる為……アクル殿は必ずやお守りしましょう。」
そう言って、牛若はアクルを見てニコリと微笑み、アクルはなんとなく気恥ずかしい気持ちになる。
……アクルもまた年頃の少女。イケメンに微笑みかけられたら照れるのだ。
「義理堅い奴だなぁ。ま、我は牛若の奴が現れた時点で気付いてたけどな。コイツはめっちゃ良い奴で、助けてくれる素晴らしい男だって。
我くらいになると解るんだ。」
「アイエエエエ!? ジュウニシ!? モウヒトリジュウニシナンデ!!?」
「アイエエエエ!! コワイ! ゴボボーッ!!」
「待てと言われて待つ奴がいるか! バーカバーカ! オタンコナース! お前の母ちゃんインダス文明!」
「川に向かうのか? ああ、ミョルニールでビリビリ大作戦か!
いいゾ~! アクルたん、いいゾ~それ! 黒焦げにしたれッ! あのクソったれなファッキン牛野郎を黒焦げにしたれッ! ウェルダンのステーキにして食ってやろうぜッ! HAHAHA!!」
「やめろォ! 来んなしこのファッキン・オックス!
うぉーっ!くっあー!ざけんなー!
それ以上我らに近付くんじゃあねぇぇぇ! ザッケンナコラー!スッゾコラー!ヤッコラー!ナッコラー!
畜生、欲しいのはなんだ!? 金か!? ヤメロークルナー! シニタクナーイ! シニタクナーイ!!
ちょっ、マジやめろおい! この魔王の命だけは助けてくれるんですよねぇぇえ!?」
以上、魔王が牛若に会ったあの日の反応である。
いったい、どこら辺が牛若を、助けてくれる物凄くいい奴だと見抜いていたのか、実に興味深い話しだ。
まぁ、アクルはピンチな時に魔王のアホな叫びなんざ聞く余裕が無いので上記の台詞は知らない。
……が、焦って何やら醜く汚い叫び声をあげていた事だけは解っていたので
「流石魔王さんですね」
「だるぉお!?」
とりあえず、てきとーな事を言っておいた。魔王も上機嫌になったので、まぁいいやとアクルは思う。
それから、アクルは術具の方に目を向けた。両端に品物が並べられており、片方は小物やよく解らない物。それと、アメリオンの店で見た様なカード的な物もある。
片方には、大きめなよく解らない物やら衣服らしき物。あとは、様々な武器等が置いてある。
「中々にいい得物がそろってんな。マジキチだが腕は確かってのは本当みてぇだわ。
まぁ、武器は我の力がある限り必要ないけどなー。」
「そう言えば、魔王さんの武器ってどれくらいあるんですか?」
光の大剣、雷の大槌、水の刀、炎の弓と……今は四つを一応は扱える。
「我の武器は、百八あるぞ……」
「えっ……そ、そんなにあるんですか?」
「うん。いや、知らんけどそんぐらいあるんじゃね? 我も全部扱えた訳じゃあないからなぁ。似た様なのも結構あるし。」
成る程と呟くアクルの肩を、トントンと誰かが叩く。
フルールドである。アクルは目をそらした。
関わりたくないのだ。当たり前だが関わりたくないのだ。
「おっひょひょーい。よく見たら、これリリウムちゃんじゃあないですかぁ。
懐かしいなぁ、まだ残ってたんですねぇ。」
「え、えと……?」
困惑気味に眺めるアクルに対し、フルールドはニタニタ笑う。
「この外套の名前ですよぉ。私がぁ、作ったんですぅ~。
四百年くらい前だったかなぁ?ふひひ、自慢の一品ですよ。懐かしいなぁ。」
そう言ってフルールドは、アクルの黒い外套の裾を掴み、クンクンと匂いを嗅ぎはじめた。
「あ、あの……?」
何をしてるんだろうとアクルは思う。っていうか、四百年?
「………………ああ、そうそう。これこれ~。これあげちゃいますよーぃ。クヒッ!」
そう言って、やや大きめの布袋をフルールドはアクルに差し出した。
「ん……えと、ありがとうございます。」
見た感じ普通の茶色い布袋であり、アクルは安心した。
「それぇ~かなりぃ~高性能ですよぉ~…ウヒッ!
見ててよ見ててよぉ~。」
フルールドは壁に立て掛けてある衣類をいくつか手に取り、それを布袋にいれる。
「あや……?」
物が入ったにも関わらず、袋は軽いままだ。
一度袋の紐をしめて、もう一度開くと中に入ったはずの物がなくなっていた。
「ね?ねぇ?ぬぇ~?便利でしょう便利でしょう?い~っひっひっひぃ!
ちなみに、容れたものを出したい時は、頭で思い描けば出てきますよぉ。
ちなみにぃ、許容オーバーしたらぁ、袋が知らせまぁーす。私の音声で。」
「こいつの音声はいらねーな。」
魔王が呟く。まぁ、気持ちは解るなとアクルも思った。