薄幸の堕天使   作:怒雲

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檜山マナコと静かな家

 

 

 

「………………」

 

 深夜。樋山 マナコは、ぼんやりとした顔で玄関に腰掛けていた。

 

 

 捜索願いは出したが、いまだに見付からぬ行方不明の娘。……アクルの帰りを、待っているのだろうかとマナコは思う。

 

 

 気付いたら、そうしている。我ながら勝手だなと思った。

 

 

 あれだけ邪険にしておいて、これだ。

 

 

 

 暗い家の中。聞こえるのは、少なくなってきた虫の声と、秒針が時を刻む音。後は、自分が生きてるという証の音色くらいのものか。

 

 

 それに、外からたまに聞こえる自動車の走る音もかな。

 

 

「……アクル。」

 

 

 娘の名前を、掠れそうな声で呼んでみると、ゾッとするくらい虚しく響く。

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 ……後悔、してるのだろうかとマナコは思う。本当に、今更。

 

 

 

 なんて、自分勝手。身勝手。手前勝手。

 

 

 

 

 

 

 

 帰って来なくなってしばらくは、胸に少しだけ穴が空いた感じがした。

 

 

 特になにも思っていなかった。すぐに気にならなくなるだろうと思っていたが、小さな穴はどんどん大きくなっていく。

 

 

 今ではすっかり、苦しくなって来た。家がとても広く感じるのだ。

 

 

 

 

 家が、とても静かに感じるのだ。

 

 

 

 

 

 別に、アクルが騒がしかったわけではない。ただ、静かでも確かにここに居るという音が確かにあった。

 

 小さな音だけれど、歩けば床を歩く音。二階から聞こえる音。

 

 

 料理をする音。生きていて、ここにいた、確かに少女が存在していた筈の音。

 

 小さな音だけれど、確かに主張していた。

 

 

 

 

 でも今は、それもない。本当に静かで静かで…………今は、この静寂が、うるさい。

 

 

 静寂が耳にこびりつく。へばりつく。しがみつく。

 

 

 

 それが………とても、うるさい。心を騒がせる。

 

 

「……………」

 

 

 マナコは立ち上がり、長く艷やかな娘同様の黒髪をかき上げてリビングに行く。そこにはラップをかけた、慣れない手料理。

 

 娘が料理を覚えて以来、任せきりだった。自分で作る事はほとんど無かった物。

 

「……………結構、難しいのね」

 

 

 ポツリと呟く。マナコは、ラップを外して冷めた料理を口に運ぶ。

 

 

 向かいには、ラップのしてある冷めた料理。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ……えと、美味しいです、お母さん。えへへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………このまずい料理も、あの子なら気を使ってそう言ってくれるだろうか。そんな、下らない事を考えて、また頭を振る。

 

 

  

 

 

 

 

 静寂が、うるさい。あの子の音がなくなったのが、うるさい。心が、うるさい。なにもかもがうるさい。

 

 

 

 

 …………解っているから、うるさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目元をしばらく抑えて───絡まった糸を解くように、手を離し目を開く。

 

 

 

 目の前には、誰も食べない、食べるべき者の現れぬ手料理。

 

 

 

 まずくて冷たい手料理。

 

 

 

 

 

 

 

 ─────寂寞が、うるさい。

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