「……あや?」
列車の中、走る景色を眺めていたアクルは、ふと辺りをキョロキョロ見回した。
そんなアクルに、牛若が視線を向けて魔王が、うん?と呟く。
「どしたん?」
「む?アクル殿………どうなされた?」
魔王と牛若に同時に問われ………少しハッとした後、いえ、と一言……軽く首を振り苦笑を浮かべた。
…………なにか、感じた。気が、した。
「……お母さん。」
ポツリと呟いてみる。列車の音に掻き消されてしまうくらいの小さな音。
ガタンガタン。列車が揺れる。その音が、少し心にうるさく感じた。
ふと、思い出す。ちゃんと食べてるかな?大丈夫だよね?
膝の上で、小さな握り拳を作る。
………もう、考えても仕方ない事。分かってる。
そもそもお母さんは、あたしの事なんてキライだ。キライなんだ。だから、これで良かったの。
…………それでも。ちょっとくらいは、なにか想っていて欲しいと考えてしまうのは、浅はかで、浅ましくて、卑しいなとアクルは思う。
本当に、烏滸がましい。幸せを奪って産まれて来たくせに。
「…………」
自己嫌悪の思考を、軽く首を振って落とそうとして……アクルは窓の外に大きな目を向ける。
少し遠くの方に森が見えるが、辺りは見渡す限り草木の少ない荒野となっている。
アクルと牛若は、向かい合う形の席に座っていた。
「……わぁ。」
アクルとしては、電車とかには乗った事がないために、とても新鮮な気持ちである。
乗客の少ない車両。駅員が、たまーに通るくらいなものである。
「いい景色ですねぇ。」
「うむ、そうじゃな。」
流れる景色を見詰めながら呟くアクルに対し、牛若は微笑み頷く。
「十一区かぁ……十一区って、どんなところなんですか?」
今から向かう地がどんなところなのかは当然気になるところである。
「ふむ。儂も詳しくは知らぬな、行った事が無い。
話しによると、殺風景な場所らしいな。今見える景色から、森を抜いた感じだそうじゃ。」
牛若の言葉を聞いて、アクルは改めて荒野に目を向ける。少し離れたところにはまだまだ森が広がっていた。
「鉱山が多いそうじゃ。十一区で採れる物が、三区に送られて加工されるらしい。
あと、あまり治安が良くないそうじゃな。」
治安が悪いと聞いて、アクルは微妙な顔をする。まぁ、五区程では無いだろうが嫌なものは嫌だ。また治安の良くないところか。
「故に、十一区に着いたら儂から離れてはならぬぞ?」
頼もしく笑う牛若に対して、アクルは少しくすぐったそうに、はにかんで頷いた。
誰かと一緒にいれる幸福な時間。
………だから、これで良かったんだ。
───ガタンガタン。列車が揺れる音。今はその音が、小気味よく耳に響く。