そこは、少し広い程度の空間だった。
真ん中に大きな水晶の様な物が台座に飾られ、その台座から大きなチューブみたいなのが周囲にのびている。
部屋には三人の人間がいた。
一人は、オレンジ色の髪をした眼鏡を着けた少女。
後ろが短めの髪と、青っぽいつばつき帽子。
青い長袖の上着と、長いスカートを身に付けている。
彼女の名は『コンパス・クリクニース』護衛である。
もう一人は男性だ。白いワイシャツ的な上着と銀のネックレスに黒いジーパン的な服装。
顔は所謂イケメン的な感じだが、軽そうな感じだ。黒っぽいヘアバンドと、ツンツンした茶髪が特徴的である。
以前、アクルが十二区でピスケラと出会った後に、港町に向かう途中で出会った青年である。名前はユークリッド。
そして、最後の一人……台座の上にある水晶に触れている少女は、その時にいた人物である。
小柄でふんわりした感じの、白っぽい金の長いウェーブヘアーが特徴的である。
紫の瞳と、雪国から来たかの様な服装をしているが、それでも華奢な体をしているのが伺える。まるで、お人形さんの様な美少女である。
エリダヌスと名乗っていた、あの少女だ。
そこは所謂動力炉である。この大きな水晶の様な術具が、この列車を動かしているのだ。
宝石という物は、中に魔力を溜め込みやすいんだとか。魔術師の杖の先によく添えられたりするのは、そういった理由があるんだとか。
ともかく、この巨大水晶が動力炉である。最も、これだけだとすぐに魔力が空になり止まってしまう。
絶えず魔力を送り続ける人間が必要なのだ。
その役割を、今はこの少女。エリダヌスが一人で担っていた。
本来なら彼女の仕事ではないし、しかも一人でやる仕事では無いのだが……この役割を担う魔術師の職員達が、集団食中毒にあたってしまったそうなのだ。
そんなこんなで、いろいろあって彼女がやる事になった。
エリダヌスは、人並み外れ過ぎる程の魔力を持っている。
なんと……十二聖護士の中にも、彼女に勝る魔力を持つ者等ほとんどいない。
精々、一区のエリス・メサルティムや、六区のヴァルア・デメテェル。もしくは、王都である九区の、タリアス・アルナスルくらいのものだろう。
もっとも、この三人でもエリダヌス程の魔力を持っているかと言われると微妙なところだが。
これだけ聞くと、エリダヌスは相当強そうに思えるだろうが……故あって、彼女の魔法は射程が異様に短い。
放つまでに時間がかかる上に、あんまり強過ぎる魔法を撃つと自分まで巻き込まれてしまうために、正直個人戦においてはかなり微妙である上に、彼女自身の身体的な能力も低い。
とはいえ、絶大な魔力から繰り出される魔法は強力なのは間違いないので、火力だけなら最強クラスではあるのである。
「……うんっ。これはかなりハードだぞっ!」
不意にエリダヌスはぼやく。愚痴をぼやく。
「ガンバッテー。エリダヌスちゃんガンバッテー。」
「ありがとうコンパスッ!凄い棒読み応援本当にありがとうっ!」
眼鏡少女コンパスのやる気が欠片もない応援に、エリダヌスは頬をヒクヒクさせる。
「ま、もう少し(二時間くらい?)の辛抱だろ? 頑張れ頑張れ。」
ケラケラ笑うユークリッドに対し、エリダヌスは、そうだなっ、と頷く。
「ところでっ、凄く頑張ってる人間に、頑張れっ! は禁句らしいんだぞっ! 知ってるかっ?」
「知らね。」
「よっしゃあっ! 挫けそうだぞっ!」
やけくそ気味にテンションを上げるエリダヌスを見ながら、ファイトファイトー、とコンパスは適当な椅子に腰かけて……優雅に本を読みつつ紅茶を飲みながら言うのであった。