動力室で、学生か三人程……特にエリダヌスがギャアギャアと喚いている事など知るよしもなく、六区の十二聖護士『ヴァルア・デメテェル』は、この列車にある部屋に向けて歩いていた。
所謂、お偉いさん用の個室である。優秀な文官や貴族が護衛と共に使用したり、軍で動くならば将軍等が利用する部屋。
少し、息を吐く美しき女性。
瞳はまるでエメラルドの様に美しく、金色の髪は、金細工の職人が一本一本丁寧に造り上げたかのようにきめ細やかで、淡い光りを放つかの様に美しい。
白く、透き通る様な肌も、彼女の身に纏う清楚な空気を際立ている。
聖女のようで。それでいて、村娘の様な親しみやすさを感じる不思議な雰囲気。それが、彼女の一番の魅力かもしれない。
そんな彼女は、ふと、窓から流れる景色を眺める。
この列車が出来て、まだそれほどの歴史はない。四区で造られた、新しい技術。
初めてこれが完成し、実際に乗った時は感動したなとなんとなしに思う。馬車より速く、大きく。
………まぁ、今となっては、ここ列車より自分が走った方が速くなってしまったのが、少し寂しくあったりする。勿論、走るよりずっと楽なわけだが。
部屋の前まで着いて、少し息を吐く。
「…………ライブル?」
やがてヴァルアは、少しタレ目気味な眼を閉じてから開き、軽くノックをしてから部屋にいるであろう者の名を呼んだ。
美しい声色には、人を安心させるような親しみを感じさせる。
「…………ヴァルアか」
扉が開き、黒髪の女性が眠たげな顔をしながら姿を現せた。
キッチリわけた黒い髪と弁髪、それに眼鏡と……日本の平安貴族の様な丸い引眉が特徴的な、赤っぽい法衣を纏う小柄な女性。
七区の十二聖護士であり、名を『ライブル・アストライヤー』という。
「ああ、ライブル。食事でも行きませんか?」
扉を開き、現れた親友の姿を見て、にこやかにヴァルアは彼女を誘った。
この列車には、食堂もあるのだ。ちなみに今は、エリダヌスは腹へった腹へった喚いている頃合いである。
「ふむ…………」
ライブルは少し考える仕草をしてから、首を横に振った。
「悪いが、眠い。寝させて貰う。」
「…………そう、ですか。」
少し残念そうに笑うヴァルアに対し、すまんな、とライブルは軽く笑う。
「いえ……その、大丈夫ですか?」
「ああ……たんに、眠いだけだよ。他には何一つとして問題は無い、心配するな。」
そう言って、頼もしく笑う友の姿にヴァルアは微笑みを返して、では、と踵を返して一人食堂に向かう。
その背に軽く手を振って……ライブルは扉を閉めて、ベッドに向かった。
「…………」
もう一度、振り返る。翳りは見えない。と思う。
軽く息を吐いて、少しだけ重い足取りでヴァルアは歩くのだった。