「あら、ヴァルア聖護士じゃない。」
まるでレストランの様な車内食堂に着いた際に、ふと修道服の女性、ヴァルアは声をかけられた。
「リザド君に、アノース君。久しぶりですね。」
青いロン毛の青年と、金髪碧眼の美青年を見て、ヴァルアは美しくやんわりと微笑む。
聖母のようで。………それでいて、村娘の様な素朴で親しみ易い笑みに、二人の青年は少し見惚れる。
多少は慣れてはいるが、見惚れるもんは仕方が無い。
青いロン毛の青年、リザドは笑う。彼は、以前アクルとも会った事がある人物である。
八区から十二区のピスケラがいる街に着くまでの道中で出会っているのだ。
白い胸元まで開けたワイシャツ的な上着に黒いズボンと、あの日と同じ様な格好である。
もう一人の美青年は『アノース・ハドリアース』。
……読者の中には、なんとなく聞き覚えのある名前だと思う人もいるかもしれない。
アクルが八区にいる際に、馬車に乗っていた貴族の少女、『プリキュオン・ハドリアース』 ……彼女の、夫である。
二人とも、聖護士養成所の生徒であり、言わば聖護士の卵のような立場だ。
もっとも、その道はかなり遠く厳しいのだが。
聖護士養成学科は建前上四年制である。が、留年しまくるので本当に四年間キッチリで卒業した者はいないらしい。
かなりの数の生徒が入学するそうである。
一年は体術をミッチリやらされつつ、勉強やら魔術やらも仕込まれる。
二年からは、やっぱり体術を鍛えられつつ、実戦投入され……半数くらいは死亡する。
三年からは、まだまだ体術を鍛えられつつ実戦やら、任務やらをやらされる。勿論、殉職祭りは止まらないため死にまくる。
更に先生達が、いつどんな時に攻撃されても対処出来るようにしろという課題の下……不意討ちで攻撃してくるようになる。死亡者はいないが、骨折とかは日常茶飯事だ。
ちなみに先生に対して反撃してもいいのだが、先生達は化け物みたいに強いので、三年生で勝てる者はまずいない。
四年生は、現在は数人くらいしかいない。
ここらまで来ると国の主力級である。十二聖護士一歩手前なので、先生に勝てる者達もいる(というか、勝てなきゃ聖護士になれない。)
ちなみに、辞めるのは割りといつでも止めれるそうだ。
三年生までなれば、就職先も多いらしく、リザドやユークリッドは止め時かなとか思っているらしい。
「よろしければ、ご一緒にどうですか?」
食堂にいるのだから食事に来たのだろうと、ヴァルアはアノースとリザドを誘う。
「あら、ヴァルア聖護士と食事だなんて光栄だわ。どうします? アノース先輩。」
リザドに問われたアノースは、女性にも見える顔に笑みを浮かべた。
「ええ、リザドの言う通りですね。
……ヴァルア聖護士は、お一人なのですか?」
「いえ、故あってライブルと一緒に。
彼女は今、とても疲れていて眠ってしまっていますよ。」
成る程、とアノースは呟く。ライブルは七区の聖護士だ。
そして、聖護士養成学科も七区にあるために、ライブルはそちらに顔を出す事もあるのだ。
「あの人、本当に多忙ですものねぇ。」
相変わらずのオネェ口調でリザドは口元に手を当てた。
ライブルは聖護士だけではなく、政務等も行っているのだ。
裁判等を行う立場であり、結構あちこちに行っているのだという。
「……大丈夫なんですか?」
席に座りながら、アノースは向かい腰掛けるヴァルアに尋ねる。
なんというか、多忙故に心配だ。
十二聖護士というものは、短命な者が多いのだ。
人間の限界を遥かに越える代償か、三十を過ぎると一気にガタが来る。
その為に、十二聖護士は基本的に三十歳以下の者がほとんどである。
ライブルの年齢は二十八と、十二聖護士としては引退が近いし、しかも彼女は政務までこなす。
普通の聖護士は、任務が無ければ基本的にやる事がなく暇なもんらしいが、彼女は政務までこなすのだ。
……明らかにオーバーワークである。
「……大丈夫ですよ。」
少し考えてから、ヴァルアは微笑んで見せた。
「ライブルはあれでいて食欲旺盛ですし、ひょっこり顔を出してくれますよ。」