「線路の仕事は~いつまでも~」
エリダヌスとコンパスが行ってしまい、暇になったアクルはまたもや流れる景色を眺めていた。
そしたら、暇だからと魔王が突然歌い出したのだ。
魔王の歌は以前に聴いた事があったなとアクルは思う。野犬相手に、馬車を守る為に戦った時だ。
人前で戦い、一度でも噛まれたりしたら再生が見られてアウトというプレッシャーの中で披露された歌は………凄く、邪魔だった。
そして今聞いてる歌を聴きながら、音痴だな〜とアクルは思う。
「つらい仕事でも~果てが来る~
汽笛のひびきがなりわたれば~
つるはしをおいて~息絶える~」
「……嫌な歌ですね。」
魔王は一人でめちゃんこ盛り上がっていやがるが、アクルは逆に盛り下がってしまっている。
もちろん、魔王はそんな事お構い無しだ。
流石は魔王、無敵である。
はぁ、と軽くタメ息を吐きつつ………アクルは、以前貰った青い六花の髪飾りを取り出す。
野犬相手に戦い、勝った際に女性の様な口調で喋る青年、リザドから貰った物である。
今頃どうしているのだろうかとなんとなく思う。まぁ、なにをしてるのかというと、この列車に乗っているのだが。
「……………あや?」
遅くなっているとはいえ、それなりに早く走る列車の景色。
そこを一筋、金色の光りが横切ったのをアクルの大きな眼が捉えた。
金色のビームみたいにも見えて、なんだろ?とアクルは首を傾げて、窓越しに去った方向を見る。
「今のは、人間だな。」
窓からなんとか見てみると、遠くを走り去って行く人影が確かに見えた。とてつもない速度である。
「な、なんですかあれ……」
もう、人影すら見えない。魔王がまさかなと呟いている。
「アクル殿。」
思わずアクルが呟くと、少し急いだ様子で牛若が帰って来た。
「あ、牛若さん……その、えとっ、どうかしたんですか?」
アクルは、とりあえず牛若に先程『十二聖護士』に遭遇してしまった事を伝えようと思っていたが、牛若の様子を見て何かあったのかと考える。
「うむ……先程、十二聖護士の者に出会してしまってな。
人化の法は完璧だというのに、バレてしまった。」
面目無いと謝罪する牛若を見て、アクルの顔からサッと血の気が引いた。
「え……あの、その……えと?」
ただ、近くに十二聖護士はいないし、来る気配も無い。
「何かよく解らぬが、この列車から出て去って行ってしまった。」
それを聞いて、先程走って行った人物をアクルは思い出した。
「……ここにいては危険じゃ、もう一人おるらしいからのう。
脱出するぞ、良いな?」
牛若がそう言って、アクルはコクリと小さく頷いた。
「つまりこの列車には十二聖護士が二人もいたってわけか……」
戦慄するぜと魔王が呟く。まったくである。
牛若は、列車の窓を開ける。開放厳禁と書かれているが、申し訳ないが知った事ではない。
拳で破壊しないだけ気を使っているし、そもそも魔法かなんかでロックしていないのが悪い。
「さ、アクル殿。」
牛若が、片手を差し出す。成程、窓から脱出。
痛そうだなと思うものの、崖から飛び降りて逃げた経験のあるアクルだ。今更問題ない。
そう思っていたアクルに差し出された片手。はてなと小首を傾げながらその手を取ると………
「失礼を………!」
「わきゃ…………!?」
強い力で引っ張られて、アクルは少し痛く、思わず目を閉じる。
次に浮遊感。それから、温もり。何事かと目を開けると………すぐ近くに、その凛々しく端正な顔があった。
「えっ………えっ!?」
それはそう………お姫様抱っこである!!!
魔王が、うっひょー!!!とテンションを上げていた。
「あ、あの………!?」
「すまぬ、少しだけ辛抱してくれ」
「あ、いや、だ、大丈夫………ですけど………!?」
まったく耐性も免疫もないアクルにはとても恥ずかしく……顔が真っ赤だ。火が出そうだとアクルは思う。
そんな場合ではないと、分かっているのだが………
それから牛若は、アクルを抱えて、窓から飛び出す。
そんな牛若にしがみつきながら………異性の体温に、ドギマギしながら。
魔王が、この前は自分から抱き着いたじゃまいかという無粋なツッコミをいれながら………
そのまま、列車から去るのであった。