薄幸の堕天使   作:怒雲

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聖女の魔剣

 

 

 

 

 

 

 

 青空に白い雲がプカプカと浮かぶ空の下、そこには五人の魔族がいた。

 

 四人くらいはぶつぶつ呟きながら、線路を壊している。

 

 

「たく、なーんでオレらがこんな地味な作業を……」

 

「まぁまぁ、仕方ないじゃない。作業を続けましょうよ。」

 

「つーか、なんなんだよアイツはよォ。」

 

 一人の魔族は、偉そうに腕を組みながら立っていて、特に何もしていない。

 

 体は人間だが、頭は馬である。下は腰ミノに長めのズボン、上は何も身につけておらず、半裸だ。

 

 

「へいへーい! 喋ってないで手を動かせやクズ共!」

 

 

 午頭(ゴトウ)というのが彼の名だ。

 

 最近まで封印されていた凶(マガツ)の一人である。

 

 もっとも、凶の面子の中ではさして強い方では無いが、それでも並の魔族よりかは強い。 らしい。

 

 

 ぶつくさ文句を言いながらも、レールを破壊する四人の魔族。

 

 

 しばらくやって、少し疲れて青空を見た。ああ、いい天気だな。

 

 そう思って、なんとなく穏やかな気分になる。気持ちの良いそよ風を感じた。

 

 

 心地よい風だと思うのと同時に、景色が回転したかと思えば一瞬にして暗転した。

 

 

 なんだ? と不思議に思うなか、浮遊感。

 

 

 それが、彼ら魔族四人の最期の思考であった。

 

 

 一瞬の痛みも恐怖さえ感じる暇もなく、魔族四人の生首が宙を舞う。

 

 

 ほんの僅かな時間だが、青空のキャンバスに血飛沫が赤い色を添えて────

 

 

「……おう?」

 

 

 嫌な空気を感じて、大きく後ろに下がった午頭は、四人の魔族を一瞬にして葬ったであろう女性を見た。

 

 

 そして、ついつい見惚れてしまった。

 

 

 その場には似つかわしく無いくらいに、彼女は美しかったから。

 

 

 

 

 舞った首。散る赤い血潮。それらすら、美しく錯覚する。

 

 中心に立つ、白い修道服の女性と、流れる金色の髪。

 

 

 

 まさにそれは、一枚の美しい絵画のようであり、時間が止まったようにさえ感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲しい顔はほんの一瞬。ヴァルア・デメテェルは四人の魔族の命を一瞬にして刈り取った。

 

 

 痛みは与えない。恐怖だって出来る限り感じさせたくない。

 

 ヴァルアは温厚であり、争い事は好まい性格だ。

 

 優しく、分け隔たりの無い性格と美しい容姿からら六区では聖女様とも言われている。(もっとも、本人はそう呼ばれる事は嫌なようだが。)

 

 

 

 だが、そんな彼女も人類の守護者。十二聖護士だ。

 

 

 人々に危害を加えるのならば、迷いは無い。

 

 今、魔族四人を葬ったのは魔法の類いでもなんでもない。

 

 

 ただの、手刀である。チョップで首を斬り落としたのだ。

 

 彼女の研ぎ澄まされたその手刀は、斬れない物を探す方が難しいくらいだ。

 

 

 六区では、『魔剣』とまで称されている。(これも本人は嫌がっている。本人曰く、聖女だの魔剣だの極端過ぎますとの事。もっと等身大のがいいらしい。)

 

 

 

 

 

 

 少し眺めた直後、我に返った午頭は軽く口笛を吹いた。

 

 

「いやぁ、やるねぇべっぴんさん?」

 

 

 ケラケラ笑う彼を一瞥し。直後、ヴァルアは壊されたレールにエメラルドブルーの瞳を向ける。

 

 

 すると、レールは花弁となり周囲に霧散した。

 

 花霞が舞い、それらは一ヶ所に集まって行き……やがて固まり、新品のレールに姿を変える。

 

 

「……なに?」

 

 

 午頭は顔をしかめた。こいつ、何をしやがったんだ?

 

 

「へいへーい! 面白いじゃあねぇか、人間でありながら異能力持ちかよ?」

 

「……まぁ、そんなところです。」

 

 

 ヴァルアはそう返事をした後、静かに午頭を見据えた。

 

 

「何処からここに入って来たのですか? どうやって?」

 

 はぁ? と呟き、午頭はゲラゲラと笑った。

 

 

「教える訳がねーだろ、バーカッ!!」

 

 

「……………そう、でしょうね。」

 

 

 午頭は手に持っていた槍を構えようとしたが、ヴァルアは既に午頭の目の前にいた。

 

 

 首に赤い線が走り───先程の魔族同様に、生首が飛ぶ。

 

 

「……………!」

 

 ヴァルアは直ぐに飛び退き午頭から離れ間合いをとった。

 

 首無しの体が襲い掛かって来たのだ。

 

 

「へいへーい! 油断すんなよー! べっぴんさんよー!」

 

 

 頭上から声が響く。午頭の馬頭が、宙に浮かんでいた。

 

「ハーッハッハッハァ! 驚いたか!? 驚いたかちゃったか!?」

 

 

 空中を自在に飛び回る午頭から視線をずらし、ヴァルアは目前に迫る首なしに対し身構えた。

 

 首なしの放つ槍を避けながら間合いを詰めて、手刀を袈裟斬りに放つ。

 

「ヒャハハ、無駄無駄! じゃ、アバヨー!」

 

 

 そして、逃げて行く。午頭の生首はヴァルアから遠ざかって行った。流石に勝てないと判断したのだろう。

 

 

 危ない危ないと午頭は思う。流石にかなり分が悪いぜ。きっとありゃ聖護士の類いだな。

 

 体の方は後でなんとでもなる。全力で逃げるとするかな。

 

 

 

 

 ヴァルアは遠ざかって行く生首を一瞬見てから、首無しの攻撃を掻い潜り少し体の位置を変えた。

 

「──────ハッ!!」

 

 そこから、首なしの腹に向けて、強烈な回し蹴りを放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 午頭……彼は、頭が本体である。頭さえあれば大丈夫なのだ。

 

 

 頭だけの状態になると、こうやって空を飛び回る事が可能である。

 

 ちなみに、ヴァルアを襲っている体は、彼の本来の体では無い。他人の体である。

 

 

 何度か他人の肉体を乗っ取って生きて来たのである。これが、彼の異能力、『飛頭蛮(チョンチョン)』である。

 

 

 他人の肉体(ボディー)は、彼の未来(フューチャー)であり続けるのだ。

 

 

 

 

 

 午頭は、さて、後で戻って肉体回収しようかな、とか思っていた。自分のさっきまでの体はあの女に八つ裂きにでもされるだろうが、他の魔族の肉体は残っているだろう。

 

 ご丁寧に首は落としてもらったしな。ケケケ。

 

 

 そんな思考をしながら、遥か上空を飛ぶ午頭の耳に、風を切る様な音が聞こえた。

 

 

「あ……?」

 

 

 なんだろうと思って振り返ると、目前に『それ』があった。

 

 さっきまでの、自分が使っていた体である。

 

「ぶへっ!」

 

 先程まで使っていた肉体が物凄い速度で飛んで来て、それがまともに直撃し、かなり重く鈍い衝撃に午頭はたまらず短い悲鳴をあげた。

 

 

 なんだよ!?何が起きた!?

 

 

 軽く混乱している午頭だが、なんという事は無い。

 

 

 ヴァルアは、結構な速度で遠くに飛ぶ午頭の頭目掛けて、首なしの肉体を蹴り飛ばしたのである。

 

 

 飛んだ肉体の飛距離もだが、頭サイズに直撃させた彼女のコントロールは相当なレベルだ。

 

 

「うぐっ……!」

 

 

 午頭は空中でバランスを崩し、少し落下するも持ち直した。

 

 

 が、もう遅かった。午頭に肉体を蹴り飛ばしてからすぐに、ヴァルアは走っていた。午頭の真下まで。

 

 

 そして直撃し、しばし思考が乱れている間にヴァルアは跳んでいた。

 

「うっ……!?」

 

 

 いつのまにやらすぐ近くにいたヴァルアの姿に、午頭は青ざめる。

 

 

「や、やめろォ!!」

 

 

 叫んではみたものの、当然、無駄であった。

 

 午頭の頭は、ヴァルアの手刀により十字に切り裂かれたのであった。

 

 流石に、即死である。

 

 

 

 

 

 確実に死んだと確信するまでヴァルアは目を逸らさずに眺めて…………それから胸に手を当て、軽く息を吐いた。

 

 ────どうか、安らかに。

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