薄幸の堕天使   作:怒雲

132 / 164
線路を抜けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクルと牛若は、森を走って移動していた。

 

 

 聖護士が二人もいる列車に残るのはまずいと考えての事である。

 

「……………はふぅ」

 

「アクルたん、まだ顔が赤いぜぃ。」

 

 

 魔王はケラケラ笑う。確かに、アクルは赤い顔をしていた。

 

 理由は、列車から脱出する際の出来事である。

 

 

 走る列車から飛び降りるとなり、少しだけしり込みしたアクルを抱えて降りたのだ。

 

 ……いわゆる、お姫様だっこをしたのである。

 

 

「アクルたんったら……こらメスの顔ッスわ。」

 

 

 ぽやーっとしているアクルに対し、魔王はそうぼやくのだった。

 

 

 ちなみに、牛若としてはそのままお姫様抱っこのまま走ろうとしたのだが、アクルが恥ずかしがり普通に走る事にしたのである。

 

 

 幸い、アクルだって遅くはない。ならばとそのまま走ったのである。

 

 

 

 

 

 

 ある程度の距離になり、牛若は少し息を吐いた。

 

「ふむ……ここまで離れれば、大丈夫かな。」

 

 

 誰かが追って来る気配もなく、牛若は、よしよし、と呟く。

 

 

「すまぬな、アクル殿。なんというか、走らせてしまった。

 それに、このまま十一区に向かわねばならぬ……。」

 

「え? あっ、えと……だ、大丈夫ですよ、あたしは平気ですから。」

 

 そう言って、ニコニコと屈託の無い笑顔を向けられて、牛若もまた、そうか、と微笑み歩き出す。

 

 

「えと、その……十一区で、待ってくれてる方がいるんですよね?」

 

「うむ、そうじゃな。音兎(オト)という者じゃ。

 ウサギ族の女で、儂と同じ十二支の一人よ。」

 

 

「じゅ、十二支の方なんですね………?」

 

 

 それを聞いて、アクルはどんな方なんだろうと思う。女性の方で十二支かー。

 

 

「ウサギ族は基本的に小柄なのが多いぜー。直接戦闘よりも、支援とかを得意とする奴が多いな。」

 

 

 魔王の捕捉を聞いて、アクルはそうなんですか、と呟く。

 

 魔族にもいろいろいるらしい。

 

 

「さて……十一区まで時間がかかりそうじゃな。」

 

 

 音兎の奴、大人しくしておれば良いがのうと牛若は思う。落ち着きの無い奴じゃからな、あやつは。

 

 

 まぁ、流石におかしな事はせんじゃろうが……。

 

 

 

 

 何やら思案している牛若の背を追いながら、アクルはトコトコと歩く。

 

 

 森の中なので足場が悪く歩きにくいが、流石にもう慣れている。こういう場所での戦闘も多かったので。

 

 魔王曰く、アクルたんは順応が早いとの事だが、どうなのだろうか。

 

 ここに来て、だいたい2ヶ月くらいだろうか?そのうち、多分だが半分くらいはこういう道を歩いていたのだ。慣れるものだろう。

 むしろ遅いくらいじゃあないかな、とか思いつつ……アクルは透き通る様な空を見上げた。

 

 ぼんやりと眺めていると、ふと視界の隅で鳥の羽根らしきものが舞うのが見えた。

 

 

 なんだろう、と思うのと同時に、その光景は何処かで視た事があるぞと、頭の中で魔王ではなく……もう一人の自分が警鐘を鳴らした気がした。

 

 

「アクル殿!」

 

 

 直後、強い力で先を歩いていた牛若に片手を引かれて、アクルはよろけながらその方向に。

 

 そして、結果的に牛若の胸に飛び込む形になった。

 

 

「…………………牛若。」

 

 

 聞き覚えのある声が聞こえて、アクルはギクリとする。

 

 背筋が凍るようだ。知っている。この声を。

 

 そう、この世界に来たばかりのあの日に聞いた唄う様な声。

 

 

 恐る恐るアクルは振り返り、少し見上げるとその男はそこにいた。樹上の枝に腰掛けて、猛禽類の様な眼でこちらを見下ろしている。

 

 長い茶髪と美麗な顔立ち。背中には、鳥の翼。

 

 

 茶の胴着みたいな衣服を身に纏う魔族の男性……名は、天鵬(テンホウ)。この世界で、アクルが初めて出会った魔星十二支だ。

 

 

「ひっ……!」

 

 

 その猛禽類の様な眼光で睨まれて、アクルはあの日と同じく心臓を鷲掴みされるような恐怖を感じる。

 

 

「……大丈夫じゃ。」

 

 

 耳元で聞こえる優しい声。牛若は、静かにアクルを自身から離して、背後にやった。

 

 

「牛若、なぜ……?」

 

「何故は、こちらの台詞じゃな、天鵬。」

 

 

 短いやりとりの後、視線を交えて少しの間。

 そこから互いに、臨戦体勢に入った。

 

 

 周囲の空気が震え、風も無いのに木々がざわつき木の葉が舞う。

 

 

 魔星十二支が二人、殺気を放ちぶつけあっているのだ。

 

 ゴクリとアクルの喉が鳴る。

 

 

 やがて、天鵬の周囲に羽根が舞い散り……牛若が、姿勢を低くした。

 

 それを見て天鵬は、うっすらと笑いながら、口を開く。

 

「……牛若、どうしても退いてはくれませんか?」

 

「愚問を言うな、天鵬よ。魔王様を守るのが十二支として成すべき使命であろう?

 たとえ、それが人の身であったとしても。」

 

 

 それを聞いて、天鵬は、やれやれ、と肩をすくめる。ならば、仕方がありませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見逃して、差し上げますよ。」

 

 そう言って、腕を組む天鵬に対し、牛若もまた構えを解いた。

 

 

「ですが牛若。私以外の者達は、見逃してはくれませんよ。

 ……私とて、次に会う時はどうなるか。」

 

 

 そこで天鵬は、冷笑を浮かべながらアクルを見た。

 

 

 アクルは、両肩をビクリと跳ねさせて、怯えた顔のまま固まる。

 

 

「……天鵬よ。」

 

「言わないで下さい、牛若。悪いですが、我々の考えは変わりませんよ。」

 

 

 そう言ってから、天鵬は立ち上がり翼を広げて。

「ごきげんよう。」

 

 

 そう言い残して、空に羽ばたき消えていった。

 

 

「……牛若、さん。」

 

 

 静けさを取り戻した森の中、いまだ震えたままアクルは牛若の名を呼ぶ。

 

 

 自分の、せいだろうか? あたしのせいで……。

 

 

「うむ? どうなされた?」

 

 

 振り返った牛若の表情は、何時も通り穏やかなものだった。

 

「天鵬の奴も困ったものじゃな。怖かったかな? だがもう大丈夫じゃ、行こう。」

 

 

 そう言って、牛若は少女に手を差し伸べる。

 

 

「あ……。」

 

 アクルは、おずおずとその手を握った。

 

 

 手のひらから伝わる温もりに安心しながらも、このままじゃいけないとアクルは思う。

 

 

 そして、もっと強くありたいなと……アクルは思うのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。