魔王少女、樋山 アクルは、前を歩く袴姿の少年を追いながら広野を歩いていた。
西部劇を思わせるだだっ広い広野を眺めながら、お馬さんに跨がったカウボーイとか現れそうだとアクルは思う。
風に揺られて、変な、丸い枯れ枝の様な草が転がって行く。タンブルウィードとかいうらしい。
「……………」
その際に思わず想像するのは、馬に乗り現れる恐怖の『ワイルド・ガンマンさん』の姿である。
ちなみに、ワイルド・ガンマンさんとは……アクルがこの世界に来たばかりの頃に襲って来た十二聖護士の一人、アエアリス・ガニュメディアルの事である。
ふと気になって、アクルは魔王に尋ねた。
「あの、魔王さん……ここってもしかして、ワイルド・ガンマンさんのいる場所ですかねぇ?」
「うん?まぁ………ワイルドなガンマンは沢山いそうだな。」
魔王は、W・G(ワイルド・ガンマン)って誰だっけ………と考えてから、ああ、と思い至る。アイツだな。
「十一区人っぽいし、ここの聖護士だろうなW・Gは。
まぁでも安心しる!十一区たって広いんだ、そうそう出会す事は無いさ!聖護士はひとつの区に一人しかいねぇんだからな!HAHAHA!」
流石は魔王である。話しの始まりからフラグを立てておく事を忘れない。
テンションの高い魔王と反比例してアクルのテンションは低くなる。
この前、列車に乗ったらそこにも十二聖護士がいたのだ。
しかも一人ではなく、二人もだ。
初めて遭遇した時も二人だったなと、アクルは思いだす。
実は十二聖護士とか言っておきながら、百人くらいいるのでは?アクルは訝しんだ。
少なくとも、街に一人くらいいそうだと思う。十二区に行った時も、ピンポイントで聖護士がいたし。
「うむ、見えてきたぞ。」
遠くに見える街を見て、牛若が微笑む。
アクルも見てみて。
「すごく……西部劇です……」
思わず呟いた。ていうかあの街、防壁が無いけど大丈夫なのだろうか?
柵くらいはあるが、気休めにすらなるかどうか……。
「地理的に、ここは魔族に攻め込まれにくいからなぁ。」
魔王が言う。ここが攻め込まれる場合は、まずどこかの砦やらなんやらが落とされるらしい。
魔族には攻められないかもしれないが、獣害とか大丈夫なのだろうかとアクルは思う。
この街に来るまでに、バイコーンとかいう猛獣に襲われた。
二角獣、バイコーン。黒く、二本の角を頭にはやした馬の獣である。
一本角で、ユニコーンとかいう白馬と同じ様な獣らしい。
非常に狂暴であり、豆粒程にしか見えない距離からこっちを見て、殺る気満々で襲いかかって来たのだ。
今まで見た猛獣の中でもかなりのスピードで、アクルはめちゃくちゃビビった。そりゃあもう、めっちゃビビった。
もっとも、そんなに心配しなくとも牛若がさっさとなんとかしてくれたが。
十二支レベルの実力者から言わせて貰えば、巨大な猛獣も、そこらの虫も大して変わらないのかもしれないなとアクルは思う。
そうこうしているうちに、街の出入口と思わしき場所まで辿り着く。
入り口には粗末な木製の門みたいなのがあり、そこにはまさに西部劇のガンマン的な兵士が立っていた。
牛若と少し会話をすると、あっさりと街に入る事を許可されて、アクルは牛若の後を追い西部劇チックな街並みを歩く。
「さて、音兎(おと)の奴はどこにおるかのぅ。」
まぁ、あやつなら儂らが来た事くらい察知出来るじゃろうし、探す必要もないか。
スタスタ歩く牛若の後ろを、アクルは牛若の着物の裾をキュッと掴みながら着いて行く。
周囲には、チラホラとガンマン達がいて心臓に悪い。どうしてもこの中にいそうなのだ、あの聖護士が。
いても違和感なんてないに決まっているのだ。
「わ、W・Gさんいないですよね……?」
「ワイルドそうなガンマンならそこらに沢山いるじゃまいか。」
魔王はそう言って、ケラケラと笑った。
「ふむ。とりあえず、朝食でもどうかな?」
振り返り微笑む牛若を見上げながら、アクルはコクコクと首を縦に振った。
外には沢山ガンマン達がいるのだ。どこに聖護士のW・Gがいるか解らない。
店内の方が、出会す危険性は少ないだろう。
牛若の背を追いながら、アクルは木造の店に入って行く。
丸いテーブルが適当に複数並べられた、普通の飲食店といった所だろうか。
奥にはカウンターの席があるが、牛若はそちらには向かわずに適当な丸い、四人くらい座れそうなテーブル席に腰掛けた。
アクルもそれに倣い、牛若の向かいの椅子に座って少し周囲を見回す。
客の数はそこそこといったところか。まだ朝だというのに、酒を飲んでる者も多い。
へへへ、と笑っていたり、トランプみたいなので賭け事したり、ククク、と笑っていたり、瓶のままグラスに移さず酒をグビグビ飲んでいたり、ヒヒヒと笑っていたりと楽しそうである。
ミルクを頼んだら笑われそうな店の雰囲気の中、肩身狭そうにアクルはちょこんと座る。
「大丈夫じゃよ、アクル殿。」
そんなアクルの様子に見兼ねた牛若が、向かいの席で苦笑混じりにそう言った。
「あ……」
アクルは少しキョトンとしてから、優しげな笑みを浮かべている牛若の姿に少し見惚れる。
そして、少し間をおいた後に微笑みを返した。
メニューを眺めながら、さてどうしようかと思っていると、この店の出入口が開閉する音が聞こえた。
なんだろうとアクルは振り返りそちらを見ておこうかなと、視線をやって…………
「ひっ……!」
思わずその口からは短い悲鳴が上がった。
そう、いたのだ。この街に、店にその男が現れたのだ。
件の男が。ワイルド・ガンマンさんこと、十一区の十二聖護士、『アエアリス・ガニュメディアル』が 。神速のフラグ回収であった。
「どうなされた?」
アクルの様子を見て、牛若が直ぐ様尋ねると、アクルは黒い外套に着いているフードを頭にすっぽりかぶって、ぷるぷると小動物の様に震え出す。
「わ、W・Gさんですぅ……。」
「なにっ、わいるどがんまん?」
一体何者なのじゃと牛若はカウンター席に颯爽と歩いて行く男を見る。
この区独特の、西部劇のガンマンの様な茶色っぽいくすんだテンガロンハットとマントが特徴的な背の高い男。
茶の髪は右の方が長く、右の目を隠してしまっていた。
唯一見える左目は何となく眠そうで、目の上と下に上下の黒い三角のタトゥーをいれている。
「ワイルド・ガンマン……一体なに聖護士なんだ……」
魔王が白々しくぼやくが、アクルは聞いちゃいない。ぶるぶると震えている。
「せ、聖護士の方です……」
「なん……じゃと……?」
また聖護士かと牛若は思う。ついこの間も聖護士に会ったぞ。
「いやー、アクルたんの聖護士とのエンカウント率は凄いッスわ……」
感心したかのような魔王の声。
「あ、あたし……あの人に襲われた事がありまして……」
ぬぅ、と牛若は少し唸る。それならこのままやり過ごすのは難しいな。
この店から出なくてはならぬ。