木製の建物の中、円卓の席に座る者達が数人いた。
ここは七区の聖護士養成所の一室である。
円卓の席と左右に窓、壁と出入口。
特別な飾り付け等はまるでない、簡素な会議室。
集っているのは生徒達である。四年生達だ。
四年生……つまり彼らは、聖護士に欠員が出れば替わりで聖護士になれる逸材達である。
皆が私服で集まっている。一応、制服的なのはあるのだが、四年生は基本的にもう着けなくていいので基本的に身に着けたりしないらしい。
円卓を囲む数人が時計を見て、それじゃあと呟いた際に会議室の扉が開く。
クセのある紫の髪を、白いリボンでポニーテールにした少女、サザンクロスが顔を出す。
黒いタンクトップの服に、黒いレギンス。彼女は、いかにも走って来ましたとばかりに汗だくだ。
と、いうのも彼女は一日と半くらい前までは私用で一区にいたのだ。
一区から、全力で走って帰って来たのである。
「……間に合った?」
おずおずと尋ねるサザンクロスに対し、ふむ、と一人……痩身長身で黒髪の少年、メンサが軽く眼鏡を上げた。
それから彼は時計を見て………それから懐から取り出した懐中時計で時刻を見て、ふぅ、と溜め息。首を軽く横に振った。
「気持ち遅刻だな。というか遅刻だ、退出したまえ。」
「いや、まだ始まってねーだろ? セーフじゃんさ。」
メンサの言う事を無視して、サザンクロスはズカズカと会議室に入り適当な席にドカッ、と腰かけて、軽く呼吸を整える。
「あはははははははっ! サザンクロス君、セーフじゃあないよ! 限りなくセーフに近いアウト……つまりセウトだよ!
HAHAHAHAHA! サザンクロス君セウト! HAHAHAHAHAHA!」
「あー、うるせぇ! 疲れてんだよ、耳元で笑うんじゃあねぇよ! 悪かったよ!
……でもな、こっちにもいろいろ事情があるんだよ!」
派手な衣装の少年、パーヴォにウザ絡みをされてしまいサザンクロスは悪態をつく。
それを見ていた少女、サジッタはクスクスとひとしきり笑った後、そこまでにしなねと、笑いながら金髪のサイドテールの髪を揺らした。
「そろそろ、始めるよ? 結構……っていうか、かなり重要な話しをするんだから。」
そう言って、この場におけるリーダー的なポジションのサジッタ・アモーロスは、少し真面目な顔をした。
「まず、三区の方で魔族が散見されたと報告があります。」
コホンと咳払いをひとつ、サジッタはそう言ってそれぞれを見渡す。
「……つまり、近々攻め込んで来るつもりという訳か。」
難しそうな顔でそう言ったのは、シルドという白髪でガタイの良い、身体中に傷がある少年だ。
「三区かよ……」
自分の区に出没していると聞いて、サザンクロスは少しげんなりとした顔をした。
「つまり! 戦がスタートするって訳だね!」
パチンと指を鳴らすパーヴォに対し、そうだね、とサジッタは頷く。
「三区には、ボクらの中から出撃する人も当然いますよ。」
それを聞いて、一部の四年生達の目が光る。
「ああ、サザンクロスも当然出撃だよ。君の区だしね。」
「ま、そりゃあそうだよな……いつ出発?流石に、今すぐはキツいぞ。」
「まぁ、別にすぐに攻めてくる訳じゃあないから猶予はあるはずだよ。」
キツそうなサザンクロスを見ながら、サジッタはクスクス笑いながらそんな事を言う。
実際、あっちもまだまだ偵察の段階だ。準備もあるだろうし、すぐに攻めてくるという事はないだろう。
「三年の者達も連れて行きたいところだな。」
少し腕を組みシルドが言って、サザンクロスはそうだなと頷く。
「エリダヌスとかは連れて行きたいよな、いざって時の火力役で……って、あれ? アノースは?」
「アノースは緊急指令が入ったからいないよ。三区の防衛戦は、来れそうなら来てもらうかな。」
成る程なと呟き、サザンクロスは軽く笑う。
「……私も仕事だったし、遅刻はまぬがれてるよな?」
「サザンクロスは拒否権あったやつじゃん。アノースとは全然違うよ。」
「HAHAHAHAHAHA! サザンクロス君! 残念だったね! 君は残念な奴だよ! HAHAHAHAHAHA!」
頬をヒクヒクさせるサザンクロスに、他の四年生が、おさえておさえてと苦笑を浮かべる。
「あーはいはい静粛に。これ、結構重要な会議なんだからね?」
呆れた調子で手をパンパンと叩いてから、サジッタは真面目な顔になった。
「次の議題がすっごく深刻なんだよ。いいかい?よく聞いてよ。」
「……魔族が戦争ふっかけるより重要な話なのか?」
サザンクロスの問いに、サジッタは重々しく頷いた。
それから少し、迷うように目を游がせたのち、サジッタはそれぞれの目を見据えて言った。
「……十二聖護士達の中に、裏切り者がいます。」
その言葉に、周囲がシンと静まり返った。
当然である。いきなり突拍子もなくそんな発言をされても、上手くリアクション出来ないだろう。
長い沈黙の中……数人いる四年生達の中で、サザンクロスは静かに口を開いた。
「……マジで?」
「うん、多分マジで。」
サジッタは頷き、多分ですかと四年生の一人、カメロ・アルミルナが微妙な顔をする。
「……えっと、根拠は何ですかねっ? それとそのっ、それは私達が聞いても良い話しなんですかっ?」
当然の疑問を投げ掛ける青い髪の美しい眼鏡をかけた少女、カメロ。それに対し、そうだねぇ、とサジッタは少し朗らかに微笑む。
「ボクらは、もうそういう役職だからね。かなり責任事は強くなるよ。
カメロはまだ上がりたてだから慣れないかもしれないね。」
はぁ、と肩を竦める彼女を見て軽く笑った後、サジッタはまた少し咳払いをした。
「……列車の線路上に魔族が現れた。知ってる人は、知ってると思いますけどね。」
サザンクロスは、席が近いメンサに、「マジで?」 と尋ねると、彼は短く、「マジなのだよ。」 と答えた。
「……それと、聖護士の裏切り。なんの関係があるのだ?」
腕を組みながら、シルドはサジッタに聞く。
「知っての通り、線路上まで向かうには防壁だったり関所があったり砦とかあったりで、簡単には来れない。」
防壁が破壊されれば、その時点で解る様になっている。関所とかも同様だ。
空を飛んでやって来ても、感知する為の結界が張られているので直ぐに解る。
「……関所から魔族達は中に入ったみたいなんだ。」
サジッタはポツリポツリと言の葉を紡ぐ。
「魔族らと争った形跡は無かった。関所の兵士達は、無抵抗でやられていたんだ。
信頼に足る誰かが現れて、反撃させる事なくすぐに全滅させた。兵士達が、狼煙を上げる間もなくね。」
そこまで言ってから、サジッタは憂いを帯びた瞳で小さく溜め息をついた。
「魔族がいかに強くとも、襲われた時点ですぐに狼煙は上げれるはずさ。
……信頼できる誰かが現れて、油断している兵士達を直ぐ様、壊滅。……そんな事が出来そうなのは、聖護士くらいだと思うんだよ。」
それを聞いて、一部は成る程と頷き、一部は別の可能性を思案する。
「まぁ、確実って訳じゃあ無いよ。まだ、タリアス聖護士がその可能性があるって言ってるだけだしね。」
タリアス・アルナスルと……彼は、王都である九区の聖護士だ。それでいて、聖護士達のリーダー的な存在である。
「あの人が調査したのか?」
サザンクロスはそう質問を投げ掛けると、サジッタがコクリと頷く。
「……とりあえず、キャンスァルとジェミニアはねーな。」
四区の聖護士と三区の聖護士だ。最も、数ヶ月くらい前になったばかりであり、聖護士(仮)と言ったところである。
ちなみに、サザンクロスも三区の人間であり、なれそうではあったのだが……就任前に戦があって、魔星十二支の一人、猪突という男に襲われ行方不明になってしまったのだ。
敵陣深くまで攻め込んでしまっていて、すぐに帰る事も出来ず数日くらい森をさ迷い、命からがら逃げ帰ると……討ち死にした事になってしまい、葬式が開かれていたのである。
その間に、ジェミニアという者が聖護士になる事となったのだ。
「やれそうなのは……エリスさん、ヴァルアさん、ライブルさん、コルピオさん、タリアスさん、カプリコさん辺りか。」
メンサは口元に手を当て、深刻そうに呟く。この辺りの聖護士は、行動もかなり速い。
「ヴァルア聖護士とライブル聖護士はアリバイがあるね。タリアス聖護士は、そりゃあやれるだろうけど無いと思うよ。」
サジッタが苦笑交じりにそう言って、そうだなとメンサも頷く。
「ふむ……」
サザンクロスは軽く腕を組み、眉間に皺を寄せた。
一番怪しいのは、なんと言ってもエリス聖護士だ。なんと言っても胡散臭い。サザンクロスによる勝手な直感だが。
だが……一区から動くには遠いし、距離的に彼女が動けば目撃、感知、観測されてしまうだろう。
じゃあ違うかと思いつつも、彼女は考えるのをやめた。
元々知恵を巡らせるタイプじゃあないし、休まず走って来たせいで流石に疲れているので考えたくないのだ。
頭良い奴が、とりあえずの進行は決めるだろうよ。