薄幸の堕天使   作:怒雲

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我の名は。

 

 

 

 

 

 まずは力を抜いて。息を吸い込んで、吐き出して……目を開き、少女は疾風の如く駆け出した。

 

 

 この銀の大剣、『クラウ・ソラス』はアクルにとってかなり軽く感じるが、実際にはかなりの重量があるらしい事を頭の声が教えてくれた。

 

 

 それなら……それなら、だ。高い所からの落下の勢いを利用すれば、あの怪物にもダメージを与えられるかもしれないと、アクルは考えた。

 

 

 

 そして、樋山アクルは跳躍する。頭の声が言うには、実感はあまり無いものの……かなり身体的な能力がはね上がっているらしい。

 

 

 ならば、高く……高く跳べるだろうかと頭の声に尋ねた。

 

 

 

 

 

「跳べる跳べる!出来るって! 出来る出来る!

 頑張れ頑張れ!アクルたんはやれる奴だ、頑張れ頑張れ! 出来る出来る出来る!

アクルたんは今日から富士山だッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 これが頭の声の返答だった。

 

 

 最後のは意味が解らなかったが、ならばとアクルはワーム目掛けて走り、頭の声がタイミングを教えてくれたので、そのまま勢いのままに跳ぶ。

 

すると、二階建ての民家くらいなら容易く飛び越せるくらいにその小さな体は跳躍した。

 

 

 

 

 風の音だけ、よく聴こえる。視えるのは、標的のみ。

 

 

 

 

 

「…………ッ」

 

 

 だが……だが。いけるだろうか? この剣で。

 

 

 やはり不安は横切る。さっきは容易く弾かれたのだ。重力を利用したからといって、上手くいくだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 ───もっと、重い武器なら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バチバチと、剣に火花が散る。スパークした。

 

 

 ジジジと、音を立てながら銀の大剣は形を変えて行く。

 

 

 

 

「成すは雷神の大槌。そいつの名前は『ミョルニール』だ。覚えといておくんなましー」

 

 

 頭の声の、変わらず呑気な声。

 

 

 銀の大剣(クラウ・ソラス)は、黒い、金の装飾が施された美しい大槌に姿を変えていた。

 

 

 

 ああ、とアクルは思う。不思議な確信があった。

 

 

 これなら、いけると。

 

 

 

 町に入り、手頃な人間を食害しようと口を開けたワームだったが、恐ろしい力を感じて振り返った。

 

 

 その瞬間、頭に感じる強い衝撃と……身体中を流れる高圧の電流。

 

 

 

 これが、このワームが世界で最期に感じた事だった。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 

 アクルは、肩で息をしながらゆっくりと立ち上がった。

 

 目の前にあるワームの死骸を見て、ようやく息をホッと吐き出す。

 

 

「よしよしと。さぁて、と……どーすっかねぇ……」

 

 

 頭の声がぼやくように言う。

 

 

「……ッ」

 

 

 着地の事なんて考えていなかった為に、ワームの頭蓋を砕いた後、ド派手に地面に転がった為か、その枯れ枝の様な身体のあちこちが痛んだ。

 が、それも束の間ですぐに痛みは消えた。

 

 

 

 

 もうその体には擦り傷ひとつ無い。

 

 

「……お洋服、汚しちゃったな」

 

 

ポツリ、呟く。申し訳ない事をしてしまった……。

 

 そこで気付くと、周囲には人が集まりなにやらざわめいていた。

 

 

 何だろうか。いや、まぁワームさんの件だろうけれど……と、考えていたアクルの耳に銃声が聞こえた。

 

 同時に、強い衝撃と共に視界が真っ暗になる。

 

 

 なに? と思う間もなく後頭部をなにやら固い物にぶつけて、今日はよく頭をぶつけるなぁ、何て場違いな事を考える。

 

 

 

 

 ワームは死んでいなかった?

 

激痛の中、思う。

 

いや、なんか銃声みたいなのが聞こえたような……そんな考えと共に、アクルは慌てて起き上がると、近くには野球ボールくらいの大きさをした緑色の球体が転がっている。

 

 

 それに血が付着しているのを見て、ああ、あれが直撃したのかなと、場違いなくらい冷静な思考をしている自分にアクルは驚いた。

 

 

 よく見ると、人々の中に銃を構えた目立つ男がいた。

 

 

 なんというか……一人だけ西部劇のカウボーイみたいなのがいるのだ。凄く目立つ。

 

頭の声は、剣と魔法のファンタジー世界とか言ってたのに。

 

 

「なん、で……?」

 

 

 意味が解らない。多分、撃たれたのだろうが意味が解らない。なんでそんな仕打ちを受けないといけないのか。

 

 

「ヘィ……! マジでいやがるとは思わなかったが……まぁ、なんでもいいぜ」

 

 

 隻眼のガンマンは、アクルをその鋭い眼光で睨みながら、言った。

 

 

 

 

 

「なぁ、『魔王様』よォ……! なんでここに現れたのかは知らねーが、覚悟は出来てんだろうな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言ってる、意味が解らない。あの人は、なんて言った?なんで怒っているの?まおう?

 

 

 身体中が冷めて行く不思議な感覚を味わいながら、アクルは頭の声との会話や最近の状況を思い出す。

 

 

 

 再生する、明らかにおかしな体。同化。魔族と呼ばれる存在。魔王という存在と、それと戦うなんて無茶振りはしないという頭の声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……───あ。」

 

 

 繋がった。繋がって、しまった。察してしまった。

 

 

 つまり……つまりつまりつまり、あたしはあたしはあたしが。

 

 

 

 

魔族は、人間と敵対してるらしいから、つまり……今の自分は、人間の敵なんだ。

 

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