アクルは焚き火にあたりながら、月と星を見ていた。
パチパチと音を立てる炎。見ていると、何故だか少し落ち着く。気がする。
周囲は崖に囲まれた広い空間に、一ヶ所だけ広い道が出来ている。
「………………」
身体が震えるのは、寒いからでは無い。確かに多少は肌寒いが、違う。
怖いのだ。牛若さんも音兎さんも、ちゃんと帰って来てくれるのだろうか?
アクルは両肩を抱きながら、腰掛けられる程度の岩に座って火を眺め続ける。
ゆらゆら揺れる炎。これは音兎が、準備してくれたものだ。
彼女はアクルをここまで連れて来て、日が射す頃には必ず戻る。それまでにここから動いたら許さねぇからなと一言残して、牛若の救援に向かって行ってしまった。
「まぁ、あのとんでもねぇデタラメーズのやりとりに、今のアクルたんが行ってもしゃーねぇべ。」
うんうんと魔王は言う。それなりに戦いには慣れてきてはいるものの、やはり素人同然のアクルがあの場にいては不確定要素にしかならないし、『不浄の左手(ディアブロ)』なんか発動すれば、理性を失い近くの生命に反応し攻撃を仕掛けるであろう。アレは、そういうものだ。
そして………最悪、牛若や音兎に攻撃してしまうだろう。
そもそも、あの街にまだまだ強者がいるかもしれないが、十二支が二人いれば聖護士一人ならどうにかなるし、最悪逃走も出来る。故に、アクルはここで待つのが一番ベストなのである。
解ってる。知ってる。当然だと思う。
でも、やはり割り切れない。どうして、あたしはこんな所に一人いるのだろう?
どうしても嫌な予感が過る。嫌だ、イヤだ。
また、一人で旅するのは嫌だ。獣に怯えるのも、人に怯えるのも、魔族に怯えるのも………もう、一人は、嫌。
「……………っ」
しばし、アクルは顔を膝にうずめていると……二人分の足音が聞こえて、ハッと顔を上げた。
見ると、遠くから牛若と音兎が歩いて来るのが見えて、アクルは立ち上がった。
「牛若さん!」
そして、その名を呼んで駆け寄る。
そんな駆け寄ってくるその姿を見て、音兎は子犬みてーだなとか思っていた。みつあみがまるで尻尾の様に揺れている。
「おお、アクル殿。無事そうじゃな。」
「クク……ちゃんと留守番出来たじゃあねぇか。」
そう言って笑う二人を一瞥し、アクルはふるふると震えながら、牛若にしがみつく。
「……ッ、アクル殿?」
困惑する牛若に、アクルは大きな瞳いっぱいに涙を貯めながら、その顔を見上げた。
「良かった……です。本当に、本当に……」
「……ハハハ、心配をかけたようじゃな。なぁに、大丈夫じゃよ。儂は強いからな。」
そう言って、頭と髪を撫でつつ、牛若は苦笑を浮かべる。
「……初めて会った日も、こんな感じじゃったかな?」
苦笑混じりに牛若が呟き………そんな様子を一歩離れた位置で眺めていた音兎は、ふっ、と軽く笑う。
「オウ。私は一応、周囲の見廻りでもしてくるぜ。」
「むっ?うむ、解った。」
そう言って頷く牛若を、からかうような笑みを浮かべたままに、音兎は身を翻した。
「さぁて……お邪魔虫はクールに去るとしますかね。」
そんな事を呟きながら、音兎は遥か月を見上げるのだった……。