忍び寄る軍靴の音と、翼広げる殺戮の影。
されど燃えるは赤き血潮、降り注ぐ血飛沫 焔の如く。
今、吹きしは穏やかな凪風。嵐を前に、烈風と変わる。
七区、門前似て
聖護士養成所のある七区の街……否、街そのものが聖護士養成所となっているその場所。
まだ朝靄が煙る時間帯。赤い、金の縁に彩られた門の前に四年生であるサザンクロスはいた。
少しクセの強い紫の長めの髪を、黒いリボンで結んだポニーテールが風に揺れる。
紫色の、サザンクロスの花の刺繍をあしらった藍色のローブに身を包み、腰には黒いベルト。ベルトには、小さな薬瓶がいくつか吊り下げられている。
そしてその手には、大きな剣が握られていた。
長さ二百センチ程の、大剣の類いだ。目測で百五十センチあるかどうかな少女よりでかい。
非常に長い刀身と柄。そして、長い刃根元が特徴的である。
柄の延長の様な役割をもつ刃根元は、革紐等をくくりつけて担いだりするのに便利だったり、その部分を握って振り回す事で破壊力を増したり出来るのである。
トゥバイ・ハンダーという種類の長い大剣。それをサザンクロスは、まだ誰もいない門前の広間でブンブンと振り回している。
軽やかなステップで振り回すそれは、見ようによってはまるで舞踊の様である。
少しすると、サザンクロスはトゥバイ・ハンダーを真上に放り投げてしまった。
同時に、右手を空間に突っ込む。
肘から先が消えて、消えた箇所はまるで水面の様に波紋が浮かんでいる。
やがてサザンクロスは、水の中から引き摺り出すかのように、別の武器を取り出した。
黒い、大きなスレッジハンマーだ。通常のソレよりも、ハンマーの部分がかなり大きめである。
それを振り回し、サザンクロスはまた軽やかに舞う。
少しステップを踏んだ後、スレッジハンマーを片手で振り回したまま落ちて来た大剣、トゥバイ・ハンダーをもう片方の手でキャッチし、そちらも器用に振り回し始めた。
まるで嵐の様な武踊を繰り広げる中、不意に両手の得物から手を離す。
すると二つの大型の武器は、水面に消えるかのようにその場から姿をかき消し、サザンクロス自身はというと、今度は両手を空間に突っ込んでいた。
そして先程同様に引き摺り出す武器は、やはり大物だ。
片方は長柄の得物である。
頭部に斧のような広い刃が付き、反対側には鉤状の突起が付いた槍で、ハルベルトと呼ばれる物であり、かなりの重量を持つ武器だ。
もう片方もまた、結構な重量の長柄武器だ。フォチャードという名の武器であり、先端に幅広の刃を持っている。
以前、プリキュオンという少女が使っていた、『クーゼ』という武器と同じ様な物……というか、同じ種類の得物だ。
違いは、刃の反対側には敵の武器を受け止める為の鉤爪が付いている事だろうか。
それらの得物を悠々と振り回すサザンクロス。よっぽどリーチが長く、やたら重量のある得物がお好みらしい。
それらに当てはまらないのといえば、背中の腰に着けたベルトにくくりつけてある、バゼラードと呼ばれる両刃の短剣くらいか。
それからもサザンクロスは、空間から次々と武器を出し入れしては振り回す演武を続けていた。くるくる回りながら繰り出す得物の技は、まるで咲き誇り散る花弁の様に見事な物であった。
「おはよう、サザンクロス。
早いね。」
不意にかけられた声で、サザンクロスの演武は終了する。
武器を全て空間に収納し、声をかけた女性に笑みを浮かべた。
「遅いぜ生徒会長。遅刻だな?」
「いや、まだ全然集合時間じゃあないからね? 二時間以上前だからね?」
苦笑を浮かべる女性は、童顔で、見ようによっては少年にも見えてしまうサザンクロスと比べて、大人びて女性的である。
サイドテールにした長い金の髪と青い瞳。耳には、矢を模したイヤリングを着けている。
白に金を基調とした、ノースリーブにした上着と、同じ様な配色の七分丈のズボン。
手足には具足と籠手を身につけた、この学園の生徒会長である『サジッタ・アモーロス』は、やれやれと呟く。
「ノリノリだね。歩く武器庫さんは。」
「その渾名やめろ。」
少しげんなりしたサザンクロスの表情と言葉に、サジッタはクスクスと笑う。
無数の武器を召喚術で空間に収納し、先程のようにとっかえひっかえでありとあらゆる得物を出し戦う様から、サザンクロスは『歩く武器庫』だの、『生きた武器博物館』だのと言われてしまっているのだ。 本人的にはかっこ悪いと不評である。
ちなみに、サザンクロスの持つ武器は全て自分で作った自前の得物である。
三区は工業都市とも呼ばれ、多くの鍛冶士やらの職人達が揃っているのだ。
人間領の武器の内、五分の一くらいは三区で造られていると言われているのだとかなんとか。
三区の戦士達は『自身の命を繋ぐ武器は自分で造るべし』という考えを持っているために、三区の出身であるサザンクロスもまた、そうしているわけである。
ちなみに、それぞれの武器には名前が付いているそうである。丹精込めて造る武器には愛着が湧くらしく、三区人としては特別珍しい事では無い。
サジッタとかは、ペットに名前つけるような感じかなぁ、くらいの感覚でそれを理解している様である。
「そういや、二年の奴ら連れてくんだろ? 初陣の奴ばっかだよな、留年組以外は。大丈夫そうか?」
サザンクロスが軽く背伸びしながら尋ねると、そうだね、とサジッタは白い人差し指を口元に持って行き、憂いに瞳をゆらませる。
「やっぱり緊張してるね。……来る予定の人、全員は来れないと思うよ。
まぁ、怖いだろうしねぇ。」
だよな、とサザンクロスは少し難しそうな顔で目を閉じ肩を竦めて、そうだ、と目を開き笑った。
「んじゃあ、仕方ない。ちょいと先輩として、来た奴等は元気着けてやんないとな」