ここは三区のとある都市。足下の地面は、整備こそされているが剥き出しとなっている。
石造りの家々が建ち並び、いくつかは煙りが噴き出していた。
所々から響く、カンカンと、鉄を打つ小気味良い音が、雲一つ無い青空に吸い込まれていた。
「へぇ……初めて来たけど、結構いい所じゃないの。」
そんな街並みを興味深そうに眺めながら、ゴスロリ衣装の少女……ではなく、少年は楽しそうに呟く。
白い肌に可憐で愛らしい顔。そして小柄な体躯。
白いフリルの付いた黒いゴスロリドレスが非常に似合っているが、コイツは男だ。しかも、見た目のように可愛い性格はしていない。
いつもは黒い髪をサイドテールにしているが、今日はおろしている。そのために、なんとなく何時もより清楚に見えた。
まぁ、コイツ。リュエンに清楚なんて様子は、微粒子レベルですら存在していないのだが。
「リュエンが騒いでいるわよっ!」
ヘンタイ行動を起こさなければいいけどと思いつつ、ラビィもまた初めて見る景色に感銘を受けていた。
クセの強い銀の髪を風に遊ばせながら、銀の瞳に街の様子を映す。
武器等を売る店も多いが、衣服や術具等を売る店も多い。単純な、お洒落の為の品も多く、年頃の少女であるラビィはそういった物にも興味津々だ。
ふと、店の中に飾られている黒い魔術師用の綺麗な黒いローブを見て、自分が身に纏う所々解れた、同じ様な黒いローブを見る。
買い換え時かしらねっ、なんて事を思いながらリュエンの方に目をやり、特におかしな行動をしていない様子にホッと胸を撫で下ろした。
「ふふふ、大はしゃぎですわね。」
そんな様子に、アメリオンという青年の隣を歩く、プリキュオンという少女は微笑む。
白いフリルのついたドレスを身につけた、長く美しい赤い髪が特徴的な小柄な少女だ。
つり目で勝ち気な印象を受けるが、それでも美しく、まさに貴族の女性といった風貌の少女、プリキュオン・ハドリアースはアクルとも面識がある。
……というか、この場にいる面々は、皆がアクルと面識があった。
もっとも、アクルの話題自体は出ていないので、互いにアクルを知っているという事を知らないが。
ちなみに、その魔王少女 樋山 アクルは今現在十一区に向かっているところである。
音兎とも会っていないしアエアリスの姿もまだ見ていない。
天鵬(イケメン・バード)とは再会を済ましている。
「……………」
アメリオンはぼんやりとした様子で、切れ長の目を周囲に向ける。
三区出身の彼だが、生憎この街は故郷では無い。
風が吹き、長いオレンジの髪がなびいた。
アメリオンは、灰色のローブのポケットに手を伸ばしタバコを取り出そうとして、やめる。
隣の貴族のお嬢様は別に怒らないだろうが、いい気分はしないだろうなと判断してである。
「……改めて、送ってくれた事を感謝しますよ。」
「どういたしまして。私も改めて言いますが、畏まらなくて良いのですわよ?
お前は別に、私の部下というわけでは無いのですから。」
そう言って、プリキュオンは上品に気持ち良く笑った。
「……本来、俺みたいな捨てられて黒ずんだバナナ皮にさえ劣る男が、貴女みたいな人と関わるなんて、あっちゃいけない事ですよ……」
「お前……もっと自分に自信を持ちなさいな。
せっかくのいい男が台無しですわよ……」
微妙な表情でプリキュオンは言う。実際、アメリオンはかなりカッコいい容姿をしているのだが、この通り残念な男である。
ちなみに、この四人が出会ったのは一日くらい前である。
丁度馬車に乗り、この街を目指していたプリキュオンが、歩いている三人組を見て、なんとなーくアクルに出会った時の事を思い出し、気分で中に入れたのだ。
流石にかなり狭かったものの、それなりに会話が弾み、街まで着いた。
そして、これも何かの縁ですわと、宿を手配したのである。ふとっぱらなお嬢様である。
ちなみにその際に、三区までなんの用事かをプリキュオンは三人に問い掛けている。
すると、メリーにより魔族との戦が始まる可能性があると知っているリュエンがこう言った。
「戦が始まるって噂を聞いてねー。手柄を立てたいなって思ってさ。出世したいし。」
それを聞いて、プリキュオンは成る程と言うのであった。別段、珍しい話しでは無い。
出来れば聖護士養成所に入りたいというリュエンの嘘も、信じるには値した。
養成所は、入るにはそれなりにお金がいるのだが……その高い才能やらなんやらを先生や聖護士等が見付けると、変わりに入学金等を払ってくれたりするのだ。
サザンクロスやエリダヌスにリザドといった面子も大体そんな感じである。
故に、戦場で輝くというのはかなり意味のある事なのだ。
「ふふふ……場合によっては、この私が召し抱えてあげてもよろしくてよ?」
上品に、そして得意気にそう言うプリキュオンに対し、そうですね、とアメリオンは少し笑う。
「俺を雇うくらいなら、そこらのゴキブリでも召し抱える方が何倍もマシというところでしょうが、そんなクソ以下のナメクジクソ野郎と違って……ラビィもリュエンも出来る奴等です。きっと、力になってくれますよ。」
「あー、もう! お前はどれだけ自身を扱き下ろしますの!」
流石にここまで自虐を晒されると苛つくのか、プリキュオンは思わず声を荒げる。
ラビィは溜め息混じりに振り返り、リュエンは愉快そうに後ろにいるアメリオンとプリキュオンを見た。
「怒ってるプリキュオンお嬢も可愛いなぁ~。人妻かぁ、いいよね!
ねぇねぇラビィ。親と娘なら親子丼だけどさ、夫と妻ならなんになるかな?」
「知らないわよっ!」
軽く頭痛を覚えながらも怒鳴るラビィ。ちなみに、プリキュオンお嬢様はリュエンが男であるとはまだ知らない。
ちなみに現状、プリキュオンは護衛無しである。
彼女は、なんとなくリュエン達を気に入り、護衛兵そっちのけで観光するリュエン達に着いて来ているのだ。
……無用心とも思えるが、それだけ彼女は腕に自信がある。
仮に、リュエンら三人が襲って来ても返り討ち、もしくは逃げ切れる自信があるのである。
聖護士にこそ劣るが、このプリキュオン・ハドリアースもまた結構な怪物なのだ。
「さて、私はちょっと買い物がしたいわよっ!」
「いいねぇ~。ラビィ、エッチな下着買いなよ。」
「買わないわよっ!」
そんなやり取りを見ながら、プリキュオンは呆れた顔をする。
リュエンという少女は面白いと思うが、なんとも下品である。
愛らしく可憐な容姿をしているのだから、もう少し清楚に振る舞えないものか。
同じ女性として注意しようかと思うが、なんやかんやで身内でしかやっていないので、まぁいいかとプリキュオンは思った。
自分もセクハラの対象になっているとは思っていないらしい。