暗き空の上で黄金に輝く月の下。
夜風が優しく流れる広い草原地帯に、聖護士養成所の生徒らはいた。
野営用のテントを準備したり、火に当たったりしている者達がいる中、人形の様な少女、エリダヌスはチャラそうな男、ユークリッドや眼鏡長身少女、コンパス。それに青いロン毛のオネェ系青年、リザドらと焚き火を囲んでいた。
「食い物持って来なくていいって言ってたけど、飯どうすんだろな?現地調達??」
「でも今のところ、そういった指令はないわねー。誰かもうやってるのかしら?」
ユークリッドが軽く欠伸をしながらぼやき、リザドがそう返事をする。
「そろそろお腹すいたぞっ……うん?」
エリダヌスが数キロくらい先にある森を見て、目を細めた。
「どしたのー? ……ん?」
暗くて見えないが、何かが森から飛んで来たのが見えて、リザドも顔をしかめた。
他の生徒達も飛来する何かに気が付いて、臨戦体勢に入り、初陣の者達はポカーンとしながら様子を見守っている。
やがて、ドスンと大きな音を立てて、野営陣地の真ん中に何か大きな物が落下する。
それは巨大な猪だった。パイア、と呼ばれる巨大な猪。
以前アクルを襲った事のある猪と、同じ種の猪である。
それの死骸が、空から飛来してきたのだ。
一つだけではなく、もう一頭、パイアの猪の死骸が降って来て─────やがて、一人分の人影が同じ様に飛んで来た。
紫の髪をしたポニーテールの少女、サザンクロスである。
「ただいまー! 結構、いいの狩って来たぞー!」
そう言って快活に笑いながら、サザンクロスは四年組の方に視線を向けると、サジッタは笑みを浮かべて。
「お疲れ様、サザンクロス。ありがとうね?」
と笑って片手をひらひらさせる。それに対し、サザンクロスも同じように片手を揺らした。
「おお、これはいいパイアだな。」
「早速解体するか。」
しっかりと血抜きもされているのを確認して、シルドとメンサが刃物を取り出し、サザンクロスは、さて、と軽く首を回す。
「飯の準備しようぜ。」
「ん。そうだね。」
サジッタは微笑みながら、大きな鍋と野菜。それに、臭み抜き等をいくつか何処からか取り出して、生徒らに配る。
「私からは、さらにこいつだ。今くらいは楽しんでくれよ。」
そう言ってサザンクロスが指を鳴らすと………なにもない空間から大量に様々な酒が姿を現す。
「うわ、ずいぶん買ったね」
「まぁ、戦争前だしな」
生きて帰れる保証なんてないのだ。ここで奮発せずにいつするというのか。
「…………」
酒や、出来上がった料理が振舞われて喜ぶ仲間達を横目に、サザンクロスは思う。
何人帰れるか解らない。なんなら、全員死ぬかもしれない。だから、せめて楽しめるうちに楽しむべきなのだ。
やがて、多くの者が寝静まる頃。
遥か遠く……そして深い森の中を、それは移動していた。
黒い山の様な影。そして、その影から伸びるいくつかの太い木の様な何か。
ウネウネと動く様は、触手にも見える。だが、違うのは明白だった。
暗い夜闇の中ではシルエットしか見えないが、明らかに口があるのだ。
木々を薙ぎ倒しながら─────ゆっくりとだが、確かに脅威は近付いて来ていた。