三区のとある会議室にて、聖護士養成所の四年生達が、この区の武将らと大きな机に拡げてある地図を眺めていた。
「見ての通り、三区の地図よ。赤い目印がしてある箇所が、攻められるであろう箇所じゃな。」
この中での最高責任者である将軍、鎧姿の老人、ケフェウス・アルフィリクが指をさし示す。
ケフェウスは白髪の老人であり、その頭のてっぺんは禿げていた。頭上にある電灯的な術具に照らされ、その頂は煌めきを放っている。
そしてなにより特徴的なのは、その性格の悪そうな顔立ちだ。
顎にだけ伸ばした髭を撫でながら不適に笑う老人からは、齢を重ねた性格の悪さが滲み出ている。
実際に、性格の悪いハゲジジイだ。どのくらい悪いのかというと、平気な顔をして部下が楽しみにしているプリンを勝手に食べてしまうくらいである。 とんでもない男だ。赤い冬の学園ならどんな目に合わされるか分かったものではない。
とはいえ、実力も確かな性悪じいさんである。
元々は引退していたのだが、後釜の男が急死してしまい、いろいろあってまたこの軍団、『白甲隊(ハクコウタイ)』に戻って来たのである。
その際、兵の何人かは、あの爺戻って来たよ……と嫌そうな顔をしたというが、本人が一番嫌そうな顔をしていたらしい。
「………………」
ふとサザンクロスは、この場にいる兵士や副将らに視線を向ける。
今は兜(ヘルム)を脱いでいる、フルプレートの鎧を身に纏う重装歩兵のみで構成された軍、白甲隊。
そこには、元は同じ養成学園の生徒もいる。
三年や二年で中退した者達であり、この場にも数人見知った顔があった。
全体で見れば、サザンクロスの知らない者も含めて結構いるんだろうなぁ、とかサザンクロスは思った。
「これチビンクロス。話しを聞かんか。」
そんな事を考えているサザンクロスの耳に、底意地の悪そうな老人の声が響く。
「……申し訳ございません。」
もしもプライベートなら、んだとクソジジイ!とでも言ってやるのだが、今は重要な会議中である為に弁える。
それに、自分に非があるという自覚もあるのでちゃんとサザンクロスは謝る。でもチビンクロスはないだろと不満がある。
それから、軽く息を吐いてサザンクロスは思う。こういうの苦手な私がこの場にいる意味合いは、あんまし無いんだよなぁ。
「フン、相変わらずガキ臭い奴め。まぁ、良い。」
地図を指し示しながら、ケフェウス将軍は続ける。
「この街三つの内、一つには私用でバルンカルン領主様が滞在する。ジェミニア聖護士殿もそちらの護衛に廻る故、加勢は期待出来ん。」
そこでケフェウスは、視線をサジッタに向けた。主にそこそこ大きな胸に。
「お主もそちらにまわるんじゃったか?」
「はい。バルンカルン領主に何かあれば一大事ですから。」
サジッタは目を伏せ静かに丁寧に頷く。
聖護士には裏切り者がいる可能性がある。
ジェミニアがそうでないという確証が無く、サジッタとしては監視の意味合いが強い。
「……ふむぅ。それは戦力の喪失が大きいのぅ。」
サジッタの胸を見ながら、『大きいのぅ』を強調するケフェウスに、軽くサジッタの頬が引き吊る。
近くで同じ四年生であり合流したアノースが苦笑し、シルドが、うむ。と小さく頷きメンサはコホンと咳払いをする。
「まぁ、良いわ。他の場所は、地理的に大丈夫じゃろうて。
仮に、何らかの手段で攻められても本隊がおるし防壁は堅牢。落とされる事はあるまいし、時間も稼げる。
長引く様なら、儂らの軍を向ければ挟撃も出来る。」
うむ、とケフェウスは四年生のサザンクロスと、その隣にいる四年生成り立ての、青く長い髪が美しい眼鏡を着けた一区人の少女、『カメロ・アルミルナ』の方に視線を向ける。
「心配事は小さいのぅ。」
そしてやはり、主に胸を見ながら言う。
カメロは軽く苦笑して、サザンクロスは頭に軽く青筋を立てた。
カメロはともかくサザンクロスは背丈を考慮にいれると、言われる程に小さくは無いのだが。
「……それで、どうなさるおつもりで?」
内心苛つきながらサザンクロスが尋ねると、そうじゃな、とケフェウスは顎髭を撫でる。
「右、左、真ん中の街……加勢に来てくれた四年の者のうち、右と左に多く置こうかの。」
地図に再び視線が集まる。
「真ん中は、兵力は多めにするが、戦力は少な目で行く。
右と左に強い戦力を揃えたい。」
サザンクロスは少し怪訝そうにしたが、ああ、と思い至る。真ん中の方が襲われたのなら、右と左から加勢に入れるからか。
挟撃が可能だな。……という事は、地図を見た感じ右の街か左の街。攻められるのはどちらかか。
「そういう訳じゃあ、今から振り分けるぞい。
ああ、希望があるなら言えぃ。お主らは儂の部下という訳ではないからのぅ。期待に添えるかは知らんがな。」
そう言って、ケフェウスは、カカカ、と笑った。