薄幸の堕天使   作:怒雲

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「まいどありー!」

 いくつかの術具を持って、一人の少女が三区の街並みを歩く。


 茶の虎毛模様の髪と、大きなクリクリした目が特徴的だ。


「フンフフンフンフンフーン!」


 鼻歌混じりに、アメリオンが作っているようなカード型の術具を乱暴にリュックに詰める少女。

 猫の手模様が特徴的なタンクトップに、青いホットパンツ的な衣類の少女は、おや? と、ふとすれ違う者達に視線を向けた。


 ゴスロリ少女やら一区人二人やら。赤い髪の少女は七区人だろうか? 服装的には八区人っぽいが。
 一区人は特徴的なのですぐに解るが、他は結構解りにくい。


 まぁだが、三区の人間でない者が多数だろう。少なくとも、この街には数日間くらい潜伏しているが見た事の無い連中だ。

 ついでに、さっきもあのくらいの年頃で、他区から来たであろう連中を見掛けた。


 つまり、魔族の襲撃に備えて集まって来ているという事である。

「んー。」

 少女は少し悩む。そろそろ報告に行こうか?

 だが、面倒臭いし気乗りしない。気乗りしないなら、やる必要は無い。

 アタシは気紛れなのだ。


魔族、三区の地にて。

 

 

 

 

 

 

 

「……遅っっせぇ」

 

 

 遠い森の中……岩にあぐらを掛きながら座る魔族、空鹿(カラジカ)は片手を頬杖にしながらぼやいた。

 

 茶髪のクセの強い髪と、灰色の胴着服。それに、やる気無さそうな顔と頭に生えた鹿の角が特徴的である。

 

 

 イライラした調子である彼の後ろ、同じ様な格好をした隻眼の熊男が、オロオロとした様子を見せていた。

 

 厳つい見た目とは裏腹に気弱な少年、伸熊(シングマ)。

 

 

 二人とも、五区に着いたばかりのアクルを襲った者達である。

 

 もっとも、あの時に一緒にいた鎌鼬(カマイタチ)と霊狐(レイコ)はもうこの世にはいないが。

 

 

「あのクソ猫娘、定時連絡ぐらいいれろや……!朧(オボロ)の面子だろ、仮にもよ……!」

 

 

 ギリギリと奥歯を鳴らす空鹿を見ながら、伸熊はますますオロオロする。

 

「おっ、ど~したんですかぁ? もしかして、ブッチされたんですかぁ?」

 

 そうやって苛々している空鹿を見ながら、魔族の少女がゲラゲラ笑う。

 

 

 ジロリとその少女を一瞥し、はぁ、と苦々しく溜め息。

 

 

「あぁ……うぜェ……」

 

 

 面倒臭そうな表情(かお)をしながら空鹿は、そうぼやいた。

 

 

 

 そんな空鹿を、ケラケラと笑う少女。

 

 ショートヘアーの袴姿の女性である。が、髪はよくよく見ると羽毛である事が伺えた。

 

 

 手は人のものではなく、手首から先は蜥蜴の前足のようで、腕は鳥の……雀の翼となっている。

 

 長い袴で見えにくいが、下半身もまた鳥であった。

 

 

「うっせーっつの。気楽でいいですねー、てめーはよ。」

 

 

 空鹿が面倒臭そうに言うと、彼女は愉快そうに続けて笑う。

 

 

「可哀想ですねぇー。大変ですねぇー。慰めあげましょうかねー?」

 

 

 ますますイラッとした表情になる空鹿の隣で、伸熊はさらにオロオロと巨体を震わせている。

 

 

 

「こらこら舌切雀(シタキリスズメ)、あまり空鹿をからかってやるな。」

 

 そんな様子を見かねてか、巨大な亀の魔族が口を挟む。

 

 

「はーい。すみませーん。

 ……って、甲武(コウブ)さん、なんでいるんですかぁー?」

 

 

 そんな亀の魔族、甲武に対して舌切雀は疑問を口にした。

 

 彼は防衛部隊、『壁』のメンバーだ。

 

 空鹿などが所属する攻勢部隊、『牙』は戦闘力はもちろんの事、機動力や、冷静に状況を判断し、状況によっては逃げる事もいとわない者達で構成されている。

 

 所謂、遊撃隊とも言えるだろう。

 

 

 防衛部隊、『壁』はまた違う。要所を守る彼らは撤退する気はまるで無い。

 

 戦闘力が高く、機動力は度外視している。

 

 

 その為に、人里に攻めるメンバーに入る事は、特殊な場合を除きないのである。

 

 

「うむ、人里に攻め込むという話しを聞いてな。ならば某(ソレガシ)もと馳せ参じたのだ。」

 

 そう言って笑う甲武を見ながら、成る程なと空鹿は呟き、少し考える。

 

 

「……一応、言っとくけど。今回はオレ達で街を落とす訳じゃあ無いぜ?」

 

 

「そうなんですよねぇー。私達は、ちょっとした時間稼ぎ的なもんなんですよー。」

 

 

 会話に割り込み舌切雀はヘラヘラ笑う。

 

「でもぉー。あの鰐傷(ガクショウ)とか言う奴ムカつきませーん?

 調子乗ってますよー、アレ。」

 

 そう言って、不愉快そうに笑う舌切雀に対し、仕方ねーだろと空鹿はぼやく。

 

 

「ふむ、まぁ解った。」

 

 

 甲武は軽く腕を組みながら、何度か頷く。

 

「おお、そうだ。駆け付けるのは某だけでは無いぞ?」

 

 ん? と空鹿は軽く首を捻りながら巨体な甲武を見上げた。

 

「象牙(ゾウガ)の奴でも来んの?」

 

「象牙殿は間に合わんから来ないな。

 だが、胡之助(トドノスケ)殿が来られるぞ。」

 

「えー? 胡之助さん来るんですかぁー?」

 

 

 驚いた様子の舌切雀の隣で、マジか、と空鹿は呟いた。

 

 

「……やれやれ、そこまで大掛かりに攻めるつもりは無いんだけどね。」

 

 軽く頭を掻きつつ、空鹿は岩の上から降りて、欠伸を噛み殺した。

 

 

「あれれー? どうしたんですかぁ? 道化猫(ドウケネコ)ちゃん待たないんですかぁ?」

 

 

「もう来ねぇだろうからな、あの気まぐれクソ猫は。」

 

 

 悪態をつく空鹿の後ろで、伸熊はオロオロと巨体を揺らす。

 

「あ……あ……も、ももも、もしかかして……な、何か、あっ、あったん……じゃ……。」

 

「……さぁね。つっても、ヘマやらかしてくたばる程に簡単な奴でもねぇよ、アイツは。」

 

 

 道化猫は、魔族の諜報やら暗殺やらを担当する部隊、『朧(オボロ)』の一員である。

 

 

 そういう立ち位置としては致命的なくらい気まぐれであり、かなりアクが強い娘なのだが……どうにも功績が大きく、あまり強くは言えないのだ。

 

 

 なにせ彼女は、『人化の法』を完成させた者なのだから。

 

 

 基本的に、異能力を持つ者が多い魔族には魔法というものはほとんど定着しなかった。

 

 魔族達は、あまり考えようとしない者が多いからだ。

 

 

 道化猫という魔族は、異能力こそ持てなかったが、強い好奇心を持って、人間達の魔法に興味を持った。

 

 そして、偶然手に入れた人間らの魔導書を見て独学で勉強し、手始めに元々ありはした『人化の法』を実用レベルにしたのだ。

 

 

 

 

 まだ歴史新しく、人間達の警戒は薄い。

 

 魔星十二支の擬猿としては、更に人化の法を普及させる腹積もりである。

 

 

「……ま、頼りになる奴ではあるよ。」

 

 

 溜め息混じりに森の奥まで歩き、しばらくすると野営地まで着いた。

 

 

 そこには多くの魔族達がいた。

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