アメリオンは、様々な花で彩られた広い霊園にいた。
ぼんやりとした表情で、ひとつの墓前に突っ立っている。長いオレンジの髪が、夕風に揺れた。
「やほー。」
しばらくそうしていると、あっけらかんとした声が響いた。
アメリオンはそちらに切れ長な目を向けて、見知った顔を確認する。
「リュエン……一人か?」
「見ての通りだねー。……アメリオンは、今日はずっと、一人でそうしてたの?」
傾いてきた陽を背にしてリュエンが尋ねると、アメリオンは寂しそうに苦笑を浮かべる。
それから少し目を閉じて、墓に目を向けた。
「……………誰のお墓とかは、聞かない方がいいかい?」
昼に別れて、この時間までずっとここにいたともなれば、気にもなるよと、リュエンは笑う。
そうだなと呟き、アメリオンは静かに口を開いた。
「五年くらい前かな……俺が三区に………この街にいた頃だ。」
思い出す様にアメリオンはポツポツと語り出す。
彼は育ての親である祖父から術具の作り方を習った。
両親は、魔族に襲われどちらも早死にしてしまった。覚えていないが、自分も襲われていたらしい。
まぁ、とにかく祖父から習った。アメリオンが十七歳になる頃に祖父は他界してしまい、アメリオンは一人黙々と術具を作り続けて売って暮らしていた。
「俺の術具は祖父仕込みだからな……。
祖父にはほんのちょっとすら及んでいないが、それでも人気があったんだ……」
「へぇ………凄いじゃない。まぁ、アメリオンの術具は五区(こっち)でも評判良かったからね〜」
「ああ……祖父が凄かったからな。祖父の技を太陽とするなら、ミジンコの吐く息よりもちっぽけな俺の技などマッチの火と呼ぶのも烏滸がましいが───
「あー、ごめん。話を続けてもらってもいいかい?」
何時ものアレが始まったので、リュエンは苦笑混じりに自虐を遮る。
少し間をおいてから、アメリオンは語り出した。
「戦闘や護身に使える物も多くてな。ある日、戦場に呼ばれたんだ。
その時は、ガクルクスって人の補佐だったんだ。」
ガクルクスは鍛冶師であり、現地で壊れた武器の修復や作成等をやっていたという。
更に、アメリオンと近い術具も作る為に、うってつけだったのである。
各地を転戦して、身寄りのなかったアメリオンもまたそれに着いて行っていた。
「───────あ。」
話しをしていると、不意に声が聞こえてそちらに目をやる。
そこに立っていたのは一人の少女だ。
クセが強めの、長い紫の髪を、赤いリボンで結んでポニーテールにしていた。
紫色の、サザンクロスの花の刺繍をあしらった藍色のローブに身を包み、腰には黒いベルト。ベルトには、小さな薬瓶がいくつか吊り下げられている。
リュエン並みに小柄な少女は、キョトンとした顔をして立っていた。
「……?ああ、すまない。」
アメリオンは、邪魔だったかな?と道を空けるように体を退ける。そこまで狭い道では無いのだが。
「………………」
少女はつまらなそうな顔を一瞬して、軽く会釈し脇を通り、隣の墓の前に座った。
「単純に、兵士としても強い人でな……ああ、小さい女の子を連れていたよ……娘だと言っていた。」
アメリオンは再び話しを再開する。
リュエンは少し隣の墓前に座った少女に目をやって、可愛いなぁ、セクハラしたい。と、そんな事を思いつつもアメリオンの話しに耳を傾ける。
「娘さんを戦地に連れて来たりしてたの?」
「戦地だけを行き来していたわけじゃあないが、まぁ、そうだな。
奥さんに病気で先立たれて他に身寄りが無いし……なにより、くっついて離れないと言ってたよ。」
苦笑混じりにアメリオンは言う。
「一応前線には出なかったし、崩れればすぐ逃げれる場所にはいたな。気休めかもしれないが……」
そこまで言って、アメリオンは息を吐き赤く染まった空を見上げた。
「ガクルクスさんは強かったし、鍛冶師であり……術具師としても俺なんかよりずっと上だった。偉大な人だったさ。
そして、俺は勘違いしていたんだ。あの人の補佐に過ぎないのに、ただのパシりみたいなもんなのに、祖父が凄かっただけだったのに。自分まで凄い奴だと思ってしまっていたんだ。」
遠くを見るようにして、ポツリポツリと呟く。
ある日、戦地で少しまずい状況になった。
ガクルクスは、とりあえず敵と戦うべく剣を取った。
アメリオンは、着いて行きたいと言ったが、娘を連れて逃げろと言われた。
それで逃げようとはしたが、他の兵士達がいてくれたので、そっちに任せてアメリオンはガクルクスを追った。
娘も、「お父さんを助けて欲しい。」と言っていたから、なお救援に向かった。
「……間に合ったの?」
リュエンが尋ねると、そうだなとアメリオンは歯切れ悪く返事をする。
「……魔族の数が、多くてな。俺の術具も足りなくなって……結局、足を引っ張ってしまった。」
そこで、ふぅ、とアメリオンは息を吐く。
「魔族は、全滅させた。ガクルクスさんがな。
だが、戦いの最中で俺を庇ってな……それが致命傷で死んでしまった。」
それから彼は自虐的に笑う。
「あの人の娘を守っていた兵士達も襲撃されて、全滅したらしい。
あの子がどうなったのかは、解らないが……結局、俺はどちらも守れない役立たずのクズ野郎だったって話さ。
……せめて、言われた通りあの人の娘さんに───サザンクロスの方についていれば、ちゃんと守ってあげられたかもしれないのにな。」
まぁ、俺は雑魚だから無理だったとは思うがな。
「……成る程ねぇ。」
リュエンは呟く。アメリオンはその後、逃げる様に三区を離れた。
失意の最中、運悪く五区の人拐い達に捕まったのだ。
内臓か奴隷か魔術や薬の実験かであれこれ言われている頃に、偶然居合わせたベアル達に救われ街に置かせてもらっていたのである。
「……ここに墓があると聞いて来てはみたが、掃除して花を添えるくらいしか、やれる事は無いな。」
そう言ってまた自虐的に笑って、少し目を細めたその時。
「おい。」
「………ん?」
不意に声がまた掛けられる。そこには、さっきの少女。
首を傾げるアメリオンに対し、どけよ、と少女は不機嫌そうな顔で言った。
「私もその墓に用があるんだよ。」
「………あ、ああ、そうなのか」
困惑気味のアメリオンに対し、少女は不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、乱雑に頭をガシガシと掻く。
それから、ふぅ、と溜め息をひとつ………睨むように少女はアメリオンを見上げて。
「アンタ、名前は?」
「……アメリオン、だが。」
その名を聞いて、少女は、へぇ。と一言。頬を引き攣らせた。
「そっかそっか………ところでだけど、私に見覚えとかない???」
「…………えっと、すまない。初対面じゃあないか?」
「………おまっ、ふざけっ………」
そこまで言って、ふーっ。と腰に手を当てて目を閉じ気持ちを落ち着かせた。
「サザンクロス」
「……え?」
「私の名前だよ………なんで気付かねぇんだよ!なんかこう………分かってよ!」
アメリオンは紫の髪をしたポニーテールの少女をまじまじと見詰めた。
彼女は、拗ねたような表情でアメリオンを見上げている。
「………サザン、クロス?」
「……あんまりじろじろ見んなよな。」
あまりにも真剣に顔や身体全体をマジマジ見られて、少女は───サザンクロスは、少し居心地悪そうにそっぽを向く。
眉間に皺を寄せつつも、夕焼けとは違う色に頬は染まっていた。
………まぁ、アメリオンはそこには気付いていないのだが。
「本当に、サザンクロス……なのか?」
「まぁ、あん時はまだ十歳いかなかったかもだし、解らないのも仕方ないかな。私も結構、大きくなったし?いろいろ?」
まぁ、普通に小柄なのだが、ともかく彼女は腕を組み、うんうんと頷いた。
そんな様子を、空気を読み黙っていたリュエンは、ふむ、と呟く。
彼としては、サザンクロスに挨拶代わりにセクハラをしたかったのだが、流石に空気を読んで自重して様子を見守っていたのである。
しかし、こういう事ってあるんだねーと感心する。奇跡というべきなのか、意外に世界は狭いのか、リュエンには判断がつかないところだ。
「積もる話しもありそうだね。邪魔そうだし、僕は行くよ。」
「えっ……あ、ああ。悪いな、リュエン。」
軽くアメリオンの纏う灰色のローブを引っ張り、リュエンは彼に笑いかけた後に、サザンクロスの方を見た。
サザンクロスは、さて、こいつは誰なんだろうかと思う。
───可愛い娘だな。私より、多分。いや、まさか、まさかな………?親しい感じだけど、違うよな??
そんな事を考えているサザンクロスに対し、リュエンは悪戯っぽく笑って───
「それじゃあね、お姉さん?今度会う事があったら、おっぱい揉ませてね。」
「………………は?」
そして突然のセクハラに、唖然とした。
軽く頭をおさえているアメリオンと、ポカーンと口を開けて呆けているサザンクロスを残して、リュエンはクールに去るのだった。