研ぎ澄まされた証を刻め。歴史という道程に確かな傷痕を。
「遠いけど、見えるな。鶴翼に陣形を拡げて接近中ってとこか?」
日が昇る草原の地平線を眺めながら、防壁の上で座るサザンクロスがそう言って、隣にいるフルプレートの鎧に身を包む白甲の若騎士が、ほうと声をあげる。
「流石ですな、サザンクロス殿。この距離で見えておるのですかな?」
「アンタにだって、見えるはずだぜ?」
スッとサザンクロスは日の出を指差す。
「射し込む朝日……でも、あの部分だけ一列不自然に影になってんだよ」
白甲の若い騎士は目を凝らし、ああ、成る程と呟く。
「……こっちに攻めて来やがったか、手薄だとでも思ったか?
この私がいるってのにな」
ケケケと笑うサザンクロスの隣、白甲の将は部下に指示を出す。狼煙をあげよと。
さて、とサザンクロスは魔族の軍勢に目を凝らす。戦闘に入るまで、大体一時間ちょいとってとこかな?
そう思って眺めつつ、少し他の街の方向に視線をやると、狼煙が上がるのが見えた。
「……え?」
そして、少し目を丸くする。
二ヶ所から狼煙が上がっていたのだ。
つまりは地点、全てが同時に狙われているという事である。
「マジかよ……」
他の兵士達がどよめく中、サザンクロスは迫る軍勢を見る。
結構、多いよな? 本隊だろ、あれ。
他の場所は? 時間稼ぎ程度なのか、それとも全部本隊か?
いや、でもそれは微妙じゃあないか? 斥候の報告や、潜伏期間とか考えて、街を三ヶ所攻めれる程か? どれも結構大きいぞ。
あれこれ可能性を探すが、サザンクロスは頭を掻いて中断する。頭はあんまし良くないんだよと。
それから、自分達の指揮官に目をやった。あくまでも、現状のリーダーは彼であり、自分ではないのだから。
「さて、と……将軍、いかがなさるんで?」
サザンクロスは、いよいよ見えて来た魔族の軍勢を眺めながら白甲の将に尋ねる。
「むむむ……とにかく、目前の敵を片付けねばなるまい。援軍を出そうにも、あの数ではな……」
その判断を聞いて、ふむ、とサザンクロスは敵を見る。
「…………半数くらい、B地点に援軍出しても大丈夫ッスよ」
そう言って、彼女は好戦的に笑いながら、立ち上がる。
「………───行けるか、サザンクロス?」
「ああ……見た感じ、特別やべぇのはいないっぽい。多分、行ける」
そう言って、不敵に笑うサザンクロスを見て、白甲の将は頷く。
「……では、頼んでもいいな?」
「おぅ……じゃなくて、はい。指示さえあれば何時行けますよ」
そう言って口角をまた吊り上げた大胆不敵な姿に、白甲の将も頷いた。
「では、行くがよいサザンクロスよ。動く武器博物館と呼ばれる貴女の強さ、とくと世に知らしめよ!」
「その異名はダサいからやめろ!!!」
思わず素でツッコミを入れたサザンクロスに対し、兜の下で白甲の将が笑う。
はぁ、と一呼吸の溜息の後……サザンクロスは、一人防壁から飛び降りた。
風を全身に浴びながら、サザンクロスは舞い降り地面に着地。それから単騎で魔族の軍勢に向けて突っ走って行く。
それを見て………俺も行くかと、同じ四年生の男、シルドは呟き、同じ様に防壁から飛び降りた。
「……白甲隊! 遅れをとるな! 手柄を譲るなよ!! 突撃!!!」
指揮官に言われて、重装歩兵のみで構成された軍、白甲隊も動き出す。
サザンクロスは目前に迫る敵を見て、呼吸を変えた。
大きく空気を取り込んだかと思えば、一気に加速。
彼女が踏み込んだ地面が、地雷でも爆発したかのようになった。
「オオォオォラァァアアァァアアァ!!!」
雄叫びをあげながら、その片手にはトゥバイ・ハンダーと呼ばれる大振りの剣、もう片手にはファルシオンと呼ばれる、鎧ごと叩っ切る事を想定した片刃の大剣。
それらを振り回し、サザンクロスは魔族の軍勢に切り込んだ。
赤黒い血飛沫が、青い爽やかな朝空のキャンバスに舞い上がった。