「……めっちゃいっぱいいるじゃん」
防壁の上で、リュエンはポツリと呟く。
周囲は草原だが、数百メートルくらい先には木々が生い茂る広大な森が広がっている。
そこに魔族らの姿はあった。
森の中で待機中というところか。見えない箇所も草木が揺れたりしている為に、結構な数がいるんだろうなと推測されるが、具体的にどれくらいいるのかは解らない。
とりあえず、狼煙は上げた。これで地点AとCから援軍が来るだろうから、それまで耐えればいいので簡単な話だ。
…………簡単な話のはずだった。
そのA地点とC地点も襲撃があったらしく、狼煙が上がっていた。
「んー? 同時に攻撃で来たのかな?」
「………だとしたら、ヤバいかもねぇ」
一緒にいるコンパスが、軽くメガネを拭きながらしかめっ面で呟く。
こっち来たら挟撃しようぜ、あっちも解ってるだろなぁ。という話しがあった為か、こちらにはあまり主力を置いていない。
四年生はアノース一人で、後は三年二年に白甲の騎士達といった所か。
まぁ、防ぐ分には問題は無いかもしれないが……援軍が無いのはキツいかもしれない。
防壁の上にいる騎士達が弓を構え、リュエンらは後方に下がる。
「私もやりますわよ。」
何処からともなくプリキュオンもまた、白い金細工の弓を取り出し矢を握る。
彼女は弓も得意……というか、実は弓の方が得意なんだとか。
それを尻目に、リュエンらは討って出る為に下がり、準備をする。
「鎧とかいらないの?」
軽装の鎧に身を包むコンパスに尋ねられて、リュエンは、いらないねぇ、とニヘラ笑う。
「僕は普段も戦闘の時も、夜戦の時だってこの格好さ」
何時もの衣装でニコニコ笑う姿に、ほっほー、とコンパスは笑う。夜戦の下りは軽やかにスルーした。
「エリーちゃんの仲間か」
そう言って、同じくいつも通りの雪国から今、来ましたと言わんばかりの防寒着に身を包むエリダヌスを見る。
まぁ、言ってるコンパス本人も、いつもの青いシャツとロングスカートの上から小手や脛当てに、胸当て等を付けてるくらいなものなのだが。
「私のこれは、ちゃんと防具だぞっ! クロースアーマーだぞっ!」
クロースアーマー……鎧の下に着ける防具の事である。
もっとも、あまりそうは見えないが。
「ひっ……ひぇ~……な、何かいっぱい来ましたよっ……」
防壁の上から、広い草原を突っ切って迫る魔族の軍勢を眺めながら、四年生のひとり 『カメロ・アルミルナ』 は情けない声をあげる。
長く美しい青い髪と、一区人特有の綺麗な白い肌と容姿を持つ、メガネをかけた、そこそこ背の高い少女だ。
やはりエリダヌスの様な、極寒から来た様なモコモコ服を身に付けている。
これもまた、クロースアーマーと呼ばれる物らしい。
ちなみに、クロースアーマーというのは布製の防護服であり、打撃に対してはそこそこの防御力を発揮するが、それ以外には微妙なものだ。
基本的に鎧の下に着込む物であるが、カメロもまた鎧はほとんど着けていない。
片方に肩当てと、両手両足に具足を着けている程度なものである。
「……しかも、ここだけでは無い様だな」
同じく四年生でありメガネの長身黒髪の男子、メンサが遠くを睨みながら呟いた。
カメロもまたそちらに目をやると、狼煙が上がっている。
「えっ、え〜……そ、そんなに沢山来てるんですかっ……!? 斥候の報告だと、そんな大規模じゃなかったはずですよねっ?」
不安気に視線をさまよわせ、カメロは呟き、隣のメンサもまた、ふむ、と思案する。
「フン、生意気な奴等よのぅ」
白甲隊の総大将である、性格の悪そうな頭のてっぺんが禿げた老人、ケフェウスは眼下に迫る魔族を見て、軽く長い顎髭を撫でた。
「どうなさいますか? 三ヶ所同時攻撃は無いものと思っておりましたが……」
メンサに問われ、ふむ、とケフェウスは片目を瞑る。
「少なくとも、地点B。あそこは偽兵じゃろうなァ」
「…………ふむ。根拠をお聞きしても?」
ほぼ即決で偽兵の計と言ってのけるケフェウスに、メンサは一応とばかりに聞いてみる。
うむうむと、日の光を頭に反射させながらケフェウスは笑った。
「あそこは森があるからのぅ。流石に、三地点同時に攻める兵力があると思えん。
本命は一箇所だと思われるが……ともかく、あそこは挟撃の恐れがある故に本命はないし、兵力を隠せるのもあそこくらいよ」
なにかしらの異能力で誤魔化そうとも、こちらだってそういうのを解析出来る魔術師もいるしのう。
ケフェウスの話に、成程とメンサは納得気味に頷いた。
「ならば、こちらは蹴散らせば良いだけというわけか」
「うっ、う〜……どちらにせよこっちが本命の可能性が高いわけですかっ……」
がっくりと肩を落とすカメロを横目に眺めつつ、ケフェウスは、ヒヒヒと笑う。
まぁ、あくまでもまだ可能性の段階ではあるが。
魔族の中に、五つのパンと二匹の魚だけで軍勢の腹を満たしたりとか、そういう異能力持ちがいたら、いろいろお手上げだ。
「さて、なんにせよこちらは全力で潰すぞ、こっちかA地点が本隊じゃろうからのぅ。
ほれ、大砲を用意せい……!」
防壁の上に並べられた大砲の導火線に、それぞれの兵士らが火を着ける。
「カカカ……! キキキ……! コココ……! まずは様子見じゃあ、派手にぶちこめい!」
青い爽やかな朝の空に、大砲の轟音が木霊した。