アルケスが、なにやら本棚の前で手を翳すと……本棚は真横に移動し、そこには階段が見える。
ホラーゲームみたいだよな、とか言ってる緊張感のない魔王をよそに、アクルは階段を見下ろす。暗いなと思った。
「あ……えと、え? と、アルケスさん?」
「ここから、外に出られます。……まぁ、ワームが現れた為に絶対大丈夫とは言えませんが……このまま、街から逃げるよりかは確実でしょうな」
階段を見下ろしそう言って、アルケスは微笑んだ。
「もし、出口が崩れていたら……なるべく時間をおいて、戻って来て下され。……万が一生き埋めになっても、その……魔王の能力(ちから)があるなら、大丈夫でしょう」
我の力をめっちゃ過信しとる。魔王は思う。
まだアクルたんそこまでの力出せんけど……まぁ、このまま十二聖護士とエンカウントするよりかはマシではあるか。
…………しかし、アクルたんが魔王の能力を見せた時はびびったが、これは………。
「あ………あのっ、あたし──!」
少し、声を荒げた。だって、意図が解らない。
「あたし……魔王、なんですよ………?」
おずおずと尋ねる。なんで、逃がしてくれようとしてるのか、分からない。
「………はは」
老人は、少しだけ渇いたように笑って、虚空を眺める。
「……貴女が、どうにも、娘に似てましてなぁ」
……娘にしては、少し、細過ぎるが。
心の底から愛していた妻と娘。
でも、若い頃は多忙で……あまり関わってやる事が出来なくて。
…………それが、心残りで。
それに───。
「貴女は私を欺かなかったし……なにより、『魔族』ではないのでしょう?」
その問い掛けに、えっと、とアクルは呟く。
「その、魔王だけど……魔族?じゃあ、ないと思います……」
実際、魔族とやらを見た事はないけれど。
その言葉だけ聞いて、アルケスはまた柔らかく笑って、華奢な背中を押す。
「………では。暗いから、気を付けて」
本棚が動く。扉が閉まる。目の前が、真っ暗になっていく。
………よく、分からない。結局よく解らなかった。
あまり、似てると思わなかったけど、そんなものだろうか。
……よく、解らない。たったそれだけで、助けてくれるものだろうか。
よく、理解(わか)らない。だって、普通の親というものが……なにより父親というものが、いなかった。
生物学上の父親ならいるけれど、絶対に会いたくないと思う。そいつらのせいで、あたしは産まれて、お母さんは────。
「………お父さん、かぁ」
…………もしも。もしも、あたしに普通に『お父さん』がいたら、どんな感じだったのだろうかとアクルは思う。
そしたら、お母さんもあたしに優しくて。あたしも、産まれた自分を攻めなくてよくて。
そしたら、あたしの名前は『アクル』じゃないのかな?
お父さん。優しい人だったらいいなぁ。そう、アルケスみたいな……って、ちょっと、おじいちゃん過ぎるかな?
周りは真っ暗だ。姿が見えなくなる前に見せた、ちょっぴり寂しげな笑顔を思い出す。
……お父さんって、呼べれば、良かったのかな?
なんてことを、特に意味なく、考えてみたり。