薄幸の堕天使   作:怒雲

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 得た力は我等の安寧を破る者の為に。
 生きて、戦い。選ばれた魔族最強を謳う力。


 そこに隙なんて存在しない。―――勝ち目など無いと識れ。


魔星十二支

 

 

 

 

「ませい、じゅうにし……?」

 

 

 アクルが呟くと、おうよ、と魔王はドヤ顔で答える。いやまぁ、顔は見えないけど多分こいつかなりドヤ顔してる。

 

 

「人間の英雄達が『十二聖護士』なら、魔族達の英雄は『魔星十二支』だぜっ! よもや駆け付けてくれるたぁ感心だぜ! 誉めてつかわす!」

 

 

 有頂天になっている魔王と違い、アクルはポカーンとしていた。

 が、ああそうかと思った。あたし今、魔王なんだと。

 

 

「さて、魔王様いかがなさいましょうか?」

 

 

 天鵬と名乗る、美麗な男は優雅にアクルに問い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、次の言葉にアクルの表情が凍り付く。

 

 

「近場に人間の町があります。復活祝いに、血祭りに上げて来ましょうか?」

 

 

「だ、ダメです!」

 

 

 思わずアクルはそう言った。近くの町というならば、さっきまでいた町だろう。

 

 

 あそこにはアルケスさんがいる。それだけは、絶対に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひゅっ、と……アクルは息を呑んだ。

 

まるで、心臓でも握られたのかと思うように……別に何かをされた訳ではないはずだが、体から血の気が引いて行く。

 

 

 なんだろう、この感覚は。ああ、なんかあのガンマンみたいな人に睨まれた時みたいな……。

 

 

 ふと見ると、天鵬の鋭い眼光と視線が重なる。

 

 

「ひっ……!?」

 

 

 思わず、息を飲んだ。まるで猛禽類の様な鋭い眼光と…………殺気、というやつに。

 

 

 ふと視界の端で何かが動いた気がした。なんだろう?と、そこを見ると、羽根だ。一枚の羽根が左の方に舞っているのが見えて───。

 

「ぎゃっ……!」

 

 次の瞬間、自分の口からは小さな悲鳴が漏れていた。どうやら、左腕が切断されてしまったらしい。

 

 左腕が、赤い血飛沫と共に宙を舞っている。切断面が、とても綺麗だった。

 

 

「な、なにをするだー!」

 

 

 これには魔王も抗議の声を上げる。いきなり攻撃とか、なんで!!?

 

 

「やれやれ……擬猿(ぎえん)が言っていた通りですね。

 どうやら今、魔王様ご本人の意思は、貴女という人間の意思に邪魔され表に出られないようだ」

 

 

 ゆっくりと、優雅に天鵬は立ち上がり……そしてその周囲には、茶色の羽根が舞い散る。

 

 

 アクルは、まだ空中にあった左腕を右手でキャッチし、切断面を慌ててくっつけていた。

 

 

 すると、一瞬にして腕はくっついた。実に冷静な判断であるが、アクルはほとんど意識せずに本能でやっている。

 

それを見て、天鵬は静に目を細めた。

 

 

「……ほう? 素晴らしいですね。やはり、魔王様のお力は素晴らしい。

 ですが、貴女の意思は必要ありません」

 

 

 周囲に、パラパラと羽根が舞い散る中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刈り取って、差し上げますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その冷淡な声が、無慈悲にアクルの耳に届く。

 

「え……ウッソだろお前……」

 

 

 魔王は思わず呟いた。なに言ってんのコイツ。ぎえん? 擬猿……ああ、アイツか。なに、まだ生きてんのアイツ。しかも何を余計な事を言っちゃってんのアイツ。

 

 

 

「あっ……あぁ……!」

 

 

 恐怖にかられ、後退るアクルの耳に……なんとなく聞き覚えのある発砲音が響く。

 直後にアクルは、ぎゃっ、と一声上げて地面を転がっていた。

 

 

 

「羚操(レイソウ)!」

 

 天鵬は、自分のすぐ後ろにいたカモシカの角をはやした、ローブをすっぽり被った小柄な魔族の少女の手を引き、自分の後ろに回す。迫り来る銃弾を羽根が防いだ。

 

 

「うっ……!?」

 

 

 近くに落ちている緑色の、野球ボールサイズの玉を見て……アクルは恐る恐るそれが飛んできたであろう方向に視線を向けると……。

 

 

 

 

「ヘィ! 魔王に十二支か……!

 中々面白れぇじゃあねぇか!」

 

 町で見た、ガンマン風の男、アエアリスがいた。後ろからは褐色の大男、タウルスもやって来ている。

 

 

「ひっ……ひぁあ……。」

 

 

 ただでさえ敵が多いというのにまた新手である。しかも、相当ヤバい奴らだ。魔王も思わず、「げえっ! 十二聖護士!」 と叫んでいる。

 

「つーか、なんなんだよこの展開……」

 

 あまりに四面楚歌な状況に、流石の魔王も愕然と呟いた。

 

 

 

「……十二聖護士、ですか。」

 

 

 天鵬が少し唇を噛むのを見て、待てよ、と魔王は呟く。

 

 

「いや、むしろチャンスだぜっ! アクルたん、逃げるんだよォー!!!」

 

 

 弾かれた様にアクルは立ち上がり、背を向け駆け出す。近くに森があったので、アクルはそこに向け全力で走った。

 

 

「追いなさい! 羚操、貴女は避難を!」

 

 

 他の魔族達に天鵬が叫び、羚操には逃げる様に告げる。

 

「ウン……!」

 

 

 羚操と呼ばれた魔族は、天鵬に気を付けてと一言、その場から離れて行く。

 

 

 

 

「チッ!」

 

 

 アエアリスの目には逃げてく魔族は映らない。そちらも重要だろうが、それより魔王だ。

 

 

「逃がすか!」

 

 タウルスもまた、魔王を追おうとする。だが。

 

 

「おっと……この私は無視ですか?」

 

 

 そんな二人の前に立ち塞がるは、魔星十二支が一人、天鵬!

 

 

「ヘィ……!」

 

 

「気を付けろアエアリス! 奴の羽根……なにか仕込んでいるぞ!」

 

 

 不敵に笑う天鵬。流石の彼も、十二聖護士を二人相手にして勝つ事は出来ないだろう。

 

 

 ……だが、それでいい。時間を稼ぐのが目的なのだから。

 

 

「……ヘィ!」

 

 

 あの羽根、何を仕込んでんのか知らねーが、射程距離は短そうだな。

 

 

「時間を稼ぐつもりか、シィーット!」

 

 

 天鵬は悠然と腕を組み……不敵に笑いながら二人の出方を伺っていた。

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