薄幸の堕天使   作:怒雲

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あたしがいていい場所はどこにもなかった。

こっちの世界に来れた時。町で起きた時。ベッドの上に居た時。お話を聞いた時。

ここに居ていいんだって、ちょっぴりドキドキした。



でも、結局はこっちでもこんな感じ。あたしは───


生死流転

 

 

 

 

 

「ハァ……! ハァ……!」

 

 

 アクルは一生懸命に森の中を走っていた。

 

 当然、宛てがあるわけではない。だが、離れなければ。この近くから。遠くに、遠くに……!

 

 

「ぐっ……あっ!?」

 

 

 背中に強い衝撃と痛み走り、アクルはまた派手に地面に転がる。

 

どうやら、岩をぶつけられたらしい。

 

 

「逃がさねぇよ、ニンゲン」

 

 

 起き上がるアクルの眼が、魔族と言われる者達をとらえた。

 

 その中で、リーダー格と思われる鶏顔で半裸の男がズカズカと前に歩み出た。

 上半身は人の様であり、下は天鵬同様に長いズボンと鳥の足。関節は人間のそれっぽいので、足首から下だけが鳥の足になっているのかもしれない。

 

「うぅ……っ!」

 

 

 他の魔族達が取り囲み、アクルを睨み付けている。

 

 

「こいつら不忠過ぎんだろ……」

 

 

 思わず呟く魔王。囲まれた状況で、逃げれる気がしないアクルは已む無く戦う道を選ぶ事にした。

 

 

「……あ? やんのかニンゲン?」

 

 

 銀の大剣を構えながら、肩で息をする少女の姿を、鶏顔の魔族は鼻で笑う。

 

 

「ケッ! 魔王サマの御力を持ってようが所詮ニンゲンのガキだろ? 調子乗りやがって……いいぜ、この闘鶏(トウケイ)様が相手してやらァ! てめぇら、手ぇ出すんじゃあねぇぞ!?」

 

 

 威勢よく叫びながら、槍を片手に闘鶏は地面を蹴って駆け出した。

 

「……ッ!」

 

 

 体が震えるのを必死にこらえながら、アクルは大剣を振り回す。

 

「ハン! スピードだけはまずまずだ……なァ!?」

 

 

 アクルの攻撃に合わせて、闘鶏が槍を振りかぶる。

 

 

 それを見て身構えるアクル。だが、来たのは槍ではなく蹴りだった。

 

 

「ゴボッ……!」

 

 

 アクルの柔らかな腹に強烈な蹴りの一撃。胃液を口から吐き出しながらも……。

 

「ぁ……あぁっ!」

 

 

 アクルは大剣を手放さない。振り回す。

 

 

 だが、当たらない。見切られている。全てを。

 

 

「ケッ、素人が……。」

 

 

 つまらないものを見る目でぼやきながら、その手に持った槍でアクルの心臓を貫く。

 

 

「ぐぎゃぁッ……!」

 

 

 突き刺したまま、闘鶏は槍をぶん回した。アクルの軽い体が空に舞う。

 

 

「あ……ぁぁあ……ぐっ……!」

 

 

 槍から解放され、地面をのたうちまわるアクル。殺虫剤を浴びせられた芋虫の様だ。

 

 

 あれ? なんか、こんな事あったなぁ、と妙に冷静にアクルは思う。苦しんでいる自分を遠くから見ている感覚。雨が、コロコッタに襲われていた時の様に激しさを増していた。

 

 

 

 

「うっ……く……」

 

 

 なんとか起き上がろうとするアクルの頭を、闘鶏の足が無慈悲に踏みつける。

 

「そら、さっさと魔王様の意思を表に出せよ。んで、てめぇは引っ込みな。いらねぇからよ」

 

 

 ずきんと胸が痛んだ。

 

 

 

 

 

いらない、か……。あたしは。

 

 

 

 

 

よく、言われた言葉。元の世界で。

 

 

あそこだけじゃなくて、ここでもかぁ………

 

 

 

 

「……魔王、さん……あたしと、変われるん……ですか?」

 

 ポツリと尋ねてみると、魔王はかなり気まずそうに答える。

 

 

「まぁ、こんな状況なら変わりたいよな。

 でも、その……無理なんだ、スマナイ……」

 

 

「……そう、ですか……ッ!」

 

 

 みつあみを引っ張られ、アクルは痛みに目をギュッと瞑る。

 

 

「なーにごちゃごちゃ言ってんだニンゲン? え? おい?」

 

 

 アクルは荒い呼吸を繰り返しながら、なんとか目を開ける。

 

 

 どうしよう。あたしは、どうしたらいいの?

 

 

「……ケッ。んじゃあ、こうだ。」

 

 

 アクルの後頭部をがっちり掴みながら、闘鶏は歩き出す。

 

 

「……?」

 

 

 少しばかり、闘鶏の意図が読めずに困惑していたアクルだが、目前にある木にはえた折れた枝を見て青ざめる。

 

 

 まさか……まさか……!

 

 

「ヤメロー!ヤメロー!」

 

 

 同じく察した魔王が叫ぶ。余裕がある気がするのは気のせいだ。

 

 

「や、やめてっ……!」

 

 

 後頭部を押され、アクルはなんとか抵抗するも、どんどん眼前に枝が近付いて来る。

 

 

「んじゃあ、魔王様を早く出せよ」

 

 

 闘鶏は、変わらず無茶な注目をする。無理なのに……。

 

 

 

「……ッ、無理…なんですっ。 魔王さんも、無理って……!」

 

「……ほぉ、この期に及んでそんな嘘つくか」

 

「いや、嘘じゃあねぇってばよ!」

 

 

 魔王の言葉は当然聞こえていない。聞こえていれば、納得してくれるかもしれないが……。

 

 

「んじゃ、早いとこ気を変えろよ?」

 

 

 ぐっ、と後頭部を押す力が強くなり、ひっ、とアクルは息を飲む。

 

 

「い、いや……! いやだっ、お願い、やめて……!やめ……っ」

 

 

 右目に、枝が突き刺さり、そのまま後頭部を押す力は強くなり――――。

 

 

 

 

 

 

「あ、あ、あっ――――――ぎゃっ!?

 

 ギャアアァアアァアァアアアァア!!!

 痛い!痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイダイぃぃぃい!!!」

 

 

 

 目を突き刺され、後頭部をグリグリと押し付けられたアクルの悲痛な叫びが、雨の音をかき消しながら森中に響き渡る。

 

 

「あっあっ……あぁっ!!!」

 

 

 意識が遠退く中……手放してしまった銀の大剣が、再びその手に握られて。

 

 

「うぉっ!?」

 

 

 思わぬ反撃に後方に飛ぶ闘鶏。

 

 

「あっ……ぐっ、くぅ、えぅぅ……」

 

 

 何とか木から引き抜いたはいいが、力が抜けてしまいアクルはその場にへたれこんでしまう。

 

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