薄幸の堕天使   作:怒雲

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「い、やだ……もう、もうやめて…………ッ!」

 

 

 震えながら訴えている途中で、観戦していた魔族に突如として蹴られたアクルはまた地面を転がった。

 

 

「たく、しぶといニンゲンだぜ……!」

 

 

 闘鶏は頭を掻きながら、つーか余計な事すんなよと手助けしてくれた魔族を一瞥した。

 

 

「まぁ、いいか……オラ!さっさと魔王様の意識出せ!」

 

 ゲシゲシとアクルの腹を蹴る闘鶏に、魔王もたまらず 「やめたげてよぉ!」 と叫ぶ。

 

 

「おらよォッ!!」

 

 

 思いっきり蹴られて、軽いアクルの体は大きく吹き飛んだ。

 

 

「ぁ……ぅ……」

 

 

 ぼんやりと意識が沈もうとする中、アクルは雨ですっかりぬかるんだ地面を掴みハッと目を見開いた。

 

 

 そして、ふらふらと起き上がり周囲を見渡す。手には再び銀の大剣。それを、杖の様に突き刺して。

 

 

 

「チッ……無駄なんだよニンゲン」

 

 

 気分悪そうにぼやきながら、ゆっくりと近付いてくる闘鶏と魔族達を見ながら───銀の大剣は、電流を纏う黒いハンマーに姿を変えた。

 

 

 

 

 バチッ、という何かが弾けたような音が聞こえた気がする。

 

 視界が一瞬ホワイトアウトし、景色に色がつく頃に力を無くしたアクルの両膝が地面に着く。

 

 

「あっ……がっ……!」

 

 

 全身に痛みと痺れを感じ、金魚の様に口をパクパクさせた。ああ、やっぱり感電したのかと自覚する。

 

 体が地面にべしゃりと倒れ、呻き声を上げて痛みと痺れが引くのを待つ。この再生力なら、すぐのはずだ。

 

 

 期待通り、体が治る頃に身を起こすと……周囲の魔族達も倒れ気を失っていた。

 

 これだけ濡れた大地なら、感電してくれるだろうという咄嗟の作戦が成功したらしく、アクルはホッと一息ついた。良かった、上手くいった。

 

 

 

 

 

 

 

「て……めぇッ!」

 

「ひっ!」

 

 

 全員倒したと思っていたら男性の声が聞こえて、ビクンと肩とみつあみを揺らすアクルは、恐る恐るそちらを見る。

 すると、闘鶏がすんごい睨んでいた。

 

 

「うっお、スゲー目力」

 

 

 感心した様に魔王がぼやく。ま、流石に立てやしねぇだろうよ。ミョルニールの電撃を喰らって生きてただけでも儲けもんよ。

 

 

「…………」

 

 

 アクルは周りを見渡す。魔族達の呼吸を確認する為だ。

 

 

 全員生きているようで、ホッとした。人間では確かにないが、意志疎通できる相手を殺めるのは人を殺すのと同じ様で、嫌だ。出来るならやりたくない。

 

 

「あ……えっと、それじゃあ、あたしはこれで……」

 

 

 凄く睨んでいる闘鶏に、おずおず頭を下げてからアクルはこの場を離れようと踵を反した。

 

 

 

 

 

「なっ……ま、待てよてめぇ……!

 なめてんのかコラァ……!」

 

 

 闘鶏がまだ何か言っていたので、なんとなくアクルはそっちを見る。怖いから、あまり気乗りはしないが……。

 

「よっしゃ!なめたら汚いとでも言ってやれアクルたん!」

 

 

 アクルに、そんなナメた発言は出来ないだろう。小学生か。

 

 

「なんで、とどめをささねぇ……!?」

 

 敵じゃないとでも言いてェのか? あんだけボッコボコだった癖によォ……。

 

 

「な、なんでって言われましても……」

 

 

 恨みなんて……いや、まぁ、あるけど。あんだけ酷い事されたし、だいぶ嫌いだけど。でも……。

 

 

「あたし……殺しはちょっと……したくない、です。

 あ、死にたいなら自殺したらいいと思います」

 

「うぉ、アクルたんテラ厳しす」

 

 

 ちゃっかり毒吐いたアクルに、魔王はちょっと驚く。まぁ、結構酷い目に合わされたし多少はね?

 

 

 その後も闘鶏がごねていたが、付き合ってる間に復活されたらヤバいので、アクルは両耳を塞ぎながら足早にその場を立ち去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、すっかり日が落ちてしまったらしい森の中をアクルはさ迷う。

 

 

「…………」

 

 

 頭がぼんやりする。力が入らない。ふと、右の二の腕を枝が掠めて怪我をした。

 

「……治りが、遅い……」

 

傷口をじっと見詰めて、アクルは眠たげに呟く。

 

そして、魔王も深刻そうに、ううむと呟く。

 

 

「むぅぅ……こいつは、不味いな。限界が近い」

 

 

 ああ、流石に際限無く再生する訳じゃあないのかとアクルは思う。不死ではないみたいだ。

 

 

 

 

ちょっぴり、安心したかもしれない。死のうとしたのに死ねないなんて、やだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日も落ち、更に降る激しい雨。道は暗く、足下もよく見えない為に再びアクルは銀の大剣を発現させて、杖の代わりに歩いた。

 

 

「………………ッ」

 

 パキリと枝を踏む音が聞こえて、アクルは辛そうに聞こえた方向に体を向けて。

 

 

「……あは、は」

 

 

口からもれる、乾いた笑い。

 

 

 そこには無数の狼の群れ。絶体絶命とは、こういう状況をさすのかと思う。

 

 

 

 

『ニガサナイ』

 

 

 ふと、何処からともなく女の子の声が聞こえてアクルは怪訝そうに眉を寄せる。

 

 

『魔王。イナ、魔王の力を持つニンゲン。オマエをニガサナイ』

 

 

 一匹の狼がそんな事を言っていて、アクルはちょっと驚く。この狼も魔族?

 

 

「ん……やったらワームが湧くなと思ったら、そういう事か。まぁ、流石にドラゴンの一種だけに、完全には制御出来てなかったみてーだけど。

 獣を操る力を持った魔族がいるな。近くじゃあねぇだろうが……」

 

 

 流石に魔王もかなりしんどそうに呟く。これ、詰んだかも。

 

 

 いや、ろくに制御出来てなかったとはいえ、ワームを大量に呼んでたし……意外とあっちもキツいかもな。つーかそうであって。マジで。

 

 

 

 

 

 

『トウケイ達を退けタのは驚イタが……ソコまでダ。人ゲン。

 オマエはボクが……コノ羚操(れいそう)ガ始末スル』

 

 

 覚悟しろと一言、狼達が一斉にアクルに飛び掛かる。

 

 

 

 

 

 

 ああ、景色がゆっくりに見える。死ぬからかな? 今度こそ、本当に……。

 

 

 それならそれで、構わない。でも、でも……。

 

 

 

「ああぁぁああぁあぁああぁああ!!!!!」

 

 

 アクルは大剣を大きく振りかぶる。

 

 

 

 

…………どうして、まだ頑張るの?

 

自分が、自分に問い掛けた気がした。

 

死のうとした癖に。死ねると解って安心した癖に。まだ生きたいの?

 

 

 

頭の中、鳴り響く自問自答。

 

 

………別に、生きていたいわけじゃあないよ。

 

 

 ただ、もう少しだけ、生きていたいんだ。

 

 

 

 魔王さんと、もう少しだけでいいからお話しがしたいんだ。誰かとまともに話す事なんて、まったく無かったから。

 

 

 だから、もうちょっとだけ見せて。あたしに優しい景色を。

 

 

 少しばかりの、光りを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────優しい、夢を。

 

 

 

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