「つまり、魔王に逃げられたという訳かね」
「……面目無い」
荘厳な王宮の通路で、タウルス・エルナートは目の前にいるキツそうな印象の女性に頭を垂れる。
キッチリわけた黒い髪と弁髪。それにメガネとなにより、日本の平安貴族の様な丸い引眉が特徴的な、法衣を纏う小柄な女性。
七区の十二聖護士。名を『ライブル・アストライヤー』という。
彼女は難しそうな顔をしながら、三人の十二聖護士達を一瞥していた。
「アエアリスとタウルス。彼らを責めないでやってくれないか?」
三人のうち、長身の男が申し訳無さそうに口を開いた。
アクルがいた、八区の十二聖護士、『コルピオ・サルガスシャウラ』である。
整った端正な顔立ちと、やや長めで青みがかった灰色の髪。そして金の両目が特徴的であり、医者の様な白衣を身に付けている。
「もともと私の区で起きた事件だからね。本来、私が対処すべき問題だ。
それを二人が遠路から駆け付けてくれたんだからね」
申し訳なさそうに笑いながらそう言って、彼もまた頭を下げた。
「……ふむ。」
呟き、ライブルは気難しそうに口許に手を当てて、まぁ、と口を開く。
「今のところ、私に諸君らを裁く権利は無いな」
あくまで失敗したという話しかまだ聞いておらず、詳しい話はこれから会議室で聞く訳である。故に、まだ判断は出来ない。出来ないが……。
「やれやれ……少しガッカリだな」
ふん、と鼻を鳴らしてライブルは三人に背を向け会議室を目指し出し、三人はそれについていく。
「……ヘィ、返す言葉もねぇぜ」
アエアリスは苦虫を噛み潰した様な表情でそう言って、室内でも外さない拘りの帽子を深く被った。
ライブルは、顔をしかめながらもう一度振り返り、三人を一瞥する。
「……魔王を取り逃がした。かなり深刻な問題だ。
だが。それはこの際、良い。不測の事態があったろうし、復活したてと言えども相手は魔王。それに、ワームも大量に湧いて出たそうだな。死傷者が出ないのは立派な事だ」
そこで言葉を一度切り、そして続ける。
「なんだね? 諸君らのその敗北した様な面構えは。 もう諦めたのかね? そして、もう心折れたのかね?
自身を責めるばかりで、汚名を返す事を考えておらぬ様ではないか。
……ふざけるなよ? 諸君らは私と同じ、誉れ高き『十二聖護士』だろう! 戦う力持たぬ者達の希望であるはずだ! だというのに、何時まで女々しい面をしているか!!」
凛とした怒声が響き渡り、三人はハッ、と目覚めた顔をした。
「……ヘィ、ライブル! アンタの言う通りだぜ!」
「無論、このままでは終らん……!」
アエアリスとタウルスはそう言って、気合いを入れ直しズカズカと歩いて行く。
「やれやれ……」
そんな背中を眺めて……そして表情を崩しながら、単純な奴らだよとライブルは思う。まぁ、ああいう性格は好ましいものだがね。
「……はは、君には敵わないな」
「……というか、君が間に合わなかったのは仕方がなかろう?」
肩を竦めて笑うコルピオに、ライブルは軽く溜め息をつく。
「いや、まぁ……とはいえ、仕方ないで済む問題ではないだろう?」
「そうかもしれないが、非常時に動けなかったというのはこのライブルも、他の十二聖護士も同罪だろう。一々罪にしてどうなるというのだね?
過ぎた事を悔やむなら、これから成すべき事を考えるべきだろう」
「……そうだな」
そう言って頷き、コルピオはライブルの背を追って歩き出す。
「それはそうと、身体の方は大丈夫かい?」
「そうだな……まぁ、心配するな。時期が時期だ、少なくとも二、三年は現役でいるつもりだよ。」
陰りの無い笑みを浮かべるライブルを見て、そうか、とコルピオも微笑むのであった。