少しムスッとした顔をしながら、魔星十二支が一人……天鵬(てんほう)は空を飛んでいた。
その鳥足が、ガッチリと青髪で黒いローブを纏った、じと目が印象的な一人の少女を掴んでいる。
「……ゴメンね天鵬。ボク、重いヨネ?」
「いいえ? 重く等ありませんよ?」
カモシカの角を頭からはやした少女、羚操(レイソウ)は、天鵬の優しげな声に、そう、と一言呟いて上空から森を眺める。
「……ナンカ、ごめんネ天鵬」
「お気になさらずに」
そう言って、天鵬は微笑みを浮かべた直後、また仏頂面になる。理由は単純、魔王を取り逃がしてしまった事と十二聖護士から……いや、人間から逃げる形になってしまったのが不本意だからだ。
アクルが逃げたあの後、指示通り天鵬は時間稼ぎをする戦いをしていたが、十二聖護士から 「来いよ鳥野郎。怖いのか?」 「時間稼ぎなんて止めてかかって来い!」 というとても安っぽ……熟練で巧みな挑発に乗って、殺す気で襲い掛かろうとした。
が、偶然近くにいた同じ魔星十二支が一人、非羊(ひつじ)という男により、魔王を見失ったという報告を受け……更に、今は雌雄を決する時じゃないから撤退しろと言われて、仕方なく撤退するはめになったわけである。
撤退の途中で、目を回して倒れていた羚操を発見し、獣を操る能力を持つ彼女でも、意識がなければ獣に襲われてしまうだろうと、天鵬は慌てて保護したのである。
ちなみに魔王を襲った他の魔族達は、返り討ちにあった後、だいたい三十分くらいで全員復活し、魔王探索に向かったり集落に帰ったりしたらしい。死傷者は幸い零である。
「見えて来ましたね……」
森の中にある、木で作られた簡素な家々集まる集落を発見し、天鵬はポツリと呟く。
「羚操、降りれますか?」
「ン……あとチョッと、高度サゲテほしイ」
言われた通り高度を下げて足を離すと、羚操はそのまま集落の真ん中に軽やかに着地をした。
天鵬も、せっかくなのでと集落に降り立つと、この集落の魔族達が集まって人だかりが出来上がる。
「おう羚操、お疲れ。ん? 天鵬じゃないか」
魔族達は、二人を見てにこやかに笑った。
「よォ~天鵬! 首尾はどうだったよ!」
そんな魔族達の中で、一際目立つ象の顔をした巨大な男が、豪快に笑いながら豪快に天鵬の背中をバシンと叩く。
「ごふっ……! 象牙(ぞうが)さん、強いです、力が……!」
「ハッハッハ! そりゃあオレ様は強いぜ。 でも十二支のお前のが強いだろ? ハッハッハ! 十二支様万歳!」
そんな事を言いながら、豪快に笑う象牙を見上げ天鵬は苦笑する。フィジカルなら流石に貴方には勝てませんよ。
「で、魔王様はどうだったんだよ?」
他の魔族に問われ、天鵬はそうですねと呟く。
「少し長くなりますね。 私は今から城に向かわなければなりませんので、羚操から聞いて下さい」
うぃっすと一言、何人かの魔族らが羚操の所にわらわらと向かう。
「えっ……ボク、ちょっト休みたイんだケド……」
能力を使いすぎてヘロヘロな羚操だが、魔族達はまったく気を使う様子が無い。
「あ、少し休ませてあげてくれませんか?」
天鵬が苦笑混じりに言ったが、魔族らはというと、解ってる解ってると、羚操に話しを伺っている。
いったい、彼らは何を解っているというのだろうか。
「あ、てんほーだ」
不意に兎の耳をはやした、小さな小さな茶髪おかっぱの女の子に声をかけられて、天鵬は微笑みながら屈んで、視線を会わせる。
「やあ、卯月(うづき)。 良い子にしていましたか?」
「うん! うづきはいーこだよ!」
元気な返事に、そうですかと天鵬は小さな頭を撫でると、卯月はニコニコとしながら、少しくすぐったそうな仕草を見せた。
「ああ、そうだ……音兎(オト)さんは今いらっしゃいますか?」
「オトおねぇちゃんは、しろに いくっていってたー」
先に向かったんですねと天鵬は立ち上がる。彼女の足ならもう着いているだろう。
「てんほー。ことおしえてー」
「はは……すみませんが、今は時間がありません。少ししたら、琴を弾いてあげますよ?」
それを聞いて、わかったとピョンピョン飛び跳ねる卯月を微笑ましげに見て、行くか、と天鵬は身を翻す。
「おっ、もう行くのか? せっかく来たんだ、酒飲もうぜ酒」
「えっ……いや、話しを聞いていましたか象牙? 私はその、こう見えて忙しいですから……ていうか、朝っぱらからお酒ですか」
「なんでェ、ケチなやろうだぜ」
そんな象牙に、天鵬は苦笑していた。一応、私はお偉いさんなんですがねぇ。
もっとも、御覧の通り……魔族に上下関係なんて、有って無いようなものである。