夜が明けて。再び命と共に歩き出す鼓動。
行く宛は無く。居て良い場所もなく。味方も見えず。
それでも少女は生きている。
まだ、少女の物語は始まってすらいなかったのだから。
これから。ここから。今から。この場所で。
────その日、『独りの少女の物語り』が幕を閉じた。
その耳に聴こえるのは雨の音。晴れたのも束の間。再びのどしゃ降り。
────ここから始まるのは。
「……あたし、生き……てる?」
────今ここから始まるのは、『一人の少女の物語り』
樋山アクルは静かに目を覚ました。そして……
「復活ッ! 復活ッ! アクルたん復活ッ! アクルたん復活ッ! アクルたん復活ッ!アクルたん復活ッ! アクルたん復活ッ!」
「魔王さん……」
「復活ッ! 復活ッ! アクルたん復活ッ! アクルたん復活ッ! アクルたん復活ッ!」
…………うるさいなぁ。
「あの、えっと……ここはどこでしょうか?」
流石にやかましいと思ったアクルは、おずおずと魔王に尋ねた。何時まで続くか解らないし。
「ここはあれだ。山小屋」
アクルは周囲を見渡す。 一人暮らしをするには少し広いくらいの、少しカビ臭い木の小屋にアクルはいた。毛布にくるまっている。
「えっ……あっ……」
そして、気付く。ほぼ裸である事に。
「なっ……んで……?」
耳まで真っ赤にしながら辺りを伺っていると、小屋の出入口であるドアが開いた。
「おや、お目覚めですか。」
入って来たのは、一人の女性だ。白いローブを身に纏った、銀髪でショートカットな大人な女性。
とりあえず、相手が男性でなく女性であった事にアクルはホッとする。
「おう、こいつこいつ。倒れてるアンタを、なにやらぶつくさ呟きながらここまで運んでくれたんよぃ」
はぁ、とアクルは呟く。
よく分からないが助かったらしい。
…………もう来ないと思っていた明日が来たみたいだ。
「あ、あのっ。ありがとうございますっ」
とりあえずと、お礼の言葉と共にアクルはペコリと頭を下げる。
対するその女性は大きめな布の袋をひとつ、そこらに置きながら
「あれだけ衰弱していたというのに、もう回復とは……流石は魔王といった所でしょうか。医者いらずですね。」
「………………っ!?」
アクルは、思わず息を飲む。魔王だと、バレてる?
………なのに、助けてくれたの???
魔王は、よく解らん奴だと呟いている。
「……あたしが、魔王って解るんですか?」
恐る恐るアクルは尋ねる。なら、なんで助けたのだろう。意図が分からない。
「そこに、着替えと食料……それに、お金を多少入れておきました。使うといいでしょう。」
銀髪ショートの女性は、丁寧でこそあるが、どこか高圧的とも言える様な口調で淡々と告げる。アクルの質問はスルーである。
はぁ、と一言……アクルは雑多に置かれた布袋を眺める。
「あ、あの、えっと……その、ありがとうございます……。その、なんで助けてくれたんですか……?」
意図が掴めないのは不気味である。おずおずとアクルはそう尋ねた。
お金やらなんやらまで工面してくれるのは嬉しいが、意味が解らない。
………それに、タダで貰うのは申し訳ないし……理由は、知っておきたい。
……アルケスおじいさんと、同じ様な理由とか?そんな感じだったりするのだろうか??
「特別な理由が無いのなら、十二区辺りを目指すといいでしょう。あそこは治安はあまり良くはないのですが……その分、一々事情を詮索して来ない方が多いですからね」
そしてこの完全スルーである。
「あれ?会話のキャッチボールが成り立たってねぇなこいつ?」
思わず魔王も呟いた。アクルはすっかり困ってしまい、あぅ、と一言、口を閉ざしてしまう。
女性は、何やら木の壁にこびりついた、苔の様なカビの様な何かをマイペースに採取している。
「……えっと……何をなさってるんですか?」
アクルの事など、眼中に無さげな女性に再び質問を投げ掛けてみる。
もしかして、あたしは死んでいて、幽霊だから無視されてるとか? いや、一応あたしに話し掛けてたし……。
そして女性は……安定のシカトである。めっちゃ居心地悪く、アクルは肩を小さくするばかりだ。
「十二区は、ここから南ですよ。体調が整い次第、向かうといいでしょう」
そしてまた口を開いたと思ったら、質問に対しては完全スルーであったそうな。
「……はぁ。その、あ、ありがとうございます……」
アクルは諦めた。もう、この人とは会話が出来る気がしない。
女性は、なんかよく解らない菌類的な物を透明な瓶に容れて、そのまま出口に向かって行く。どうやら立ち去るつもりの様だ。
「あ……あの、助けて頂いて、本当にありがとうございました。その、この袋も、なにからなにまで……」
去って行く背中に感謝の言葉を述べるアクル。女性は、やはり聞こえていないかのようである。スルーする。
一応遠慮したいが……袋の中には衣類もあり、裸で外を彷徨うのは絶対に嫌だったので、ありがたく貰う事にする。
「なんなんだコイツ……」
わけわかめ過ぎるだろと魔王はぼやく。なんなの。コミュ症なの?
「う……えっと、その……さよなら。あ、あたしは樋山 アクルって言います。その、本当にありがとうございました」
なんとなく名乗りつつ、もう一度……しつこくお礼の言葉を述べると。
「ムリフェン。……ムリフェン・アスクレピオス」
なんと、返事があった。彼女は振り返って返事をしてくれたのだ。つーかやっぱり聞こえてたんじゃないか。
そしてムリフェンは、そのまま出て行ってしまい、アクルはポツンと取り残されてしまうのだった。