山小屋の中、雨が止むのを待ってからアクルは外に出ていた。
もちろん、ほぼ裸のまま外に出るのは嫌だったので、貰った袋を開けてから中にある衣類を身に纏う。
白い半袖のYシャツっぽいのと、膝を隠すくらいの黒いズボン。それと、フード付きの黒い外套。
それらを身に纏い、アクルは山小屋を出て、深呼吸をする。湿った空気が肺を満たした。
「……十二区がどうとか、言ってましたよね?」
袋の中には地図も入っていたが、具体的に今はどこにいるのかが解らずアクルは小首を傾げる。
「ん。とりあえず南だな。そうさなぁ、アクルたん回ってー。回って回って……はいストップ。歩けー」
魔王の指示に従い、アクルはゆっくりと森の中を歩き出した。
「ん……」
少し歩くと、街道が見えて来たのでアクルはそこに向かう。両端が木々で覆われた街道。
「……あ。そう言えば、魔王さんって結局あたしに何をして欲しいんですか?」
「ああ、うんそりゃあアレだ。なんっつーか、まさかの魔族が敵にまわる展開により、無かった事になったっつーか……。
まぁ、今はアクルたんが頑張って生き残る事を考えとくれ」
はぁ、とアクルは少し怪訝そうな顔をして歩く。地面がぬかるんでいて、今一歩きにくい。
「……んー。あ、魔王さんって、何かやりたい事とかってありますか?」
アクルとしては、自分自身に目的らしい目的も無いので、とりあえず魔王の意思を尊重しようとそう尋ねる。
「我のしたい事? そうさなぁ…………。
溶けた氷りの中に、恐竜がいたら玉乗り仕込みたいな」
「……………?」
流石は魔王である。何が起きても気分は、へのへのかっぱだ。
「寒い地方ってどこですか?」
「ん?一区辺りはめっちゃ寒いらしいな。我は行った事ねーけど、噂によるとまったく日がささねぇんだとよ」
成る程とアクルは地図を見るが、ここら周辺から十二区行きの街道までしか描かれていない。
「ん?一区行きたいん? アクルたんは寒いの好き?」
「寒い地方なら、大きな氷りもあるかなって思いまして……」
「アクルたんぇ……アレだ。ただの冗談だから、大人しく十二区目指そうず!
魔族の集落練り歩くよりゃ安全安心安泰だぜよ!」
はぁ、とアクルは地図を丸めて空を見上げる。
「わぁ……」
雨上がりの途方もない空。
曇が晴れて、射し込み広がる終わりを見ない青色の中で───鮮やかに虹が咲いていた。
───『人間』と『十二聖護士』
───『魔族』と『魔星十二支』
どちらにもアクルの居場所なんて無いし、きっとこうしてられる時間なんて僅かだろう。
それでもそれでも、空の虹は美しく、大地は果てしなく、空は遠かった。世界とはこんなにも綺麗なのだ。
アクルは、少し滲んだ涙を拭い、空に向けて。ほんの一時の虹に向けて、その細い手を伸ばしてみた……。
────ああ。命よ天まで届け。
第一章、『終わりと始まりの詩』完結。
次回は、少しだけ間が開くかも。ここまで読んでくれた方に、精一杯の感謝を。